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ーブーッ、ブーッー
携帯電話の通知を知らせるバイブ音が響く。
バイブ音の長さ的に電話だろう。
そして、その音は浜沢さんのカバンから見えるスマートフォンから発されていた。
「……」
浜沢さんは電話に気付いてるはずなのに、出ようとしない。
それどころか、少し表情が強張ったようにも見える。
「よろしいんですか?電話。」
「はい。うるさくてすみません。」
「そんなことは…」
バイブ音が止まる。
…が、またすぐにバイブ音が響く。
それでも愛未さんは電話に出ようとしない。
画面を見ないのは、相手が誰だか分かってるからだろうか。
まさか、
「愛未ちゃん。どうしたの?」
いつの間にか梓さんが浜沢さんの隣に来ていた。
レジ閉めは終わってないようだ。
浜沢さんの異変に気付いたらしい。
普段のんびりしている印象の梓さんだが、流石親友だからだろうか。
梓さんは浜沢さんの背中をさすり、顔を覗き込むように見つめた。
「ちょっと…困ったことになっちゃって。」
困ったように浜沢さんが笑う。
ずっと鳴っていたバイブ音が、今度こそ止まった。
「ストーカーされてるの。」
「ストーカー!?」
「うん。でも、そんな大袈裟な被害とかないの。今みたいな着信が多いくらいで。心配かけてごめんね。」
梓さんが少し考える素振りを見せる。
「安室さん。この後お時間ありますか?」
「はい。大丈夫ですよ。」
「愛未ちゃん、ここで詳しく話せる?安室さんは名探偵の毛利小五郎さんの弟子だから、頼りになるよ。」
「でも、良いんですか?」
「あと少しで片付けも終わるので、ゆっくり話しましょう。」
片付けも終わり、テーブル席に移動する。
浜沢さんと梓さんが並んで座り、僕は浜沢さんの向かいに座った。
「私、今の会社に入社してすぐに研修で地方に出張してたんです。期間は1ヶ月程でした。」
念のため店内が見えにくいように灯りを暗くし、視覚になるテーブル席を選んだ。
「初めは慣れない環境で不安だったんですけど、たまたま隣の席になった先輩が優しくて…とても、頼りにしてました。」
「先輩というのは、男性ですか?」
「はい。先程の着信がその人です。」
「……」
梓さんは珍しく黙って聞いている。
仕事中に見せたことがないくらい真面目な表情だ。
「明るくて、仕事もできて…他の方からも凄く頼りにされてたんです。私もいつも熱心に仕事を教えてくれて、失敗しても励ましてくれました。会社の上司として尊敬してましたし、仲良くしたいと思ってました。」
ーブーッ、ブーッー
再び着信音が響く。
もしかしたら、ポアロに入った所を見られてるかもしれない。
見える範囲で外に不審者は確認出来てないが、外の気配にも気を配らなくては。
浜沢さんはまた画面を確認しなかった。
「研修も残り数日になった頃、オフィスで先輩と2人きりになりました。たまたまなのか、意図的なのかは分かりません。でもその時に告白されました。」
「受けたの?」
「ううん。相手には奥さんと子どもが居るのは知ってたから。」
「…既婚者、なんですか?」
「そうです。」
ストーカーの被害にあったと言われた時から気にはなっていた。
浜沢さんは怯えているというよりも、悲しそうな顔をしていることに。
もしかして、相手の男性が妻子持ちだと分かっていたからだろうか。
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