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「愛未ちゃん。今日は私の家に泊まったら?」


梓さんが提案する。
…が、僕はその提案に反対だ。


「ダメ。私と連絡を本気でとりたくなったら、彼は梓の所に行くでしょ。」


浜沢さんは即答で断る。
僕が考えた理由と同じだ。


「そうですね、梓さんの自宅へ行くのはあまり賢明ではないです。」


警察には相談せず、大人しく帰らさせる。
ここまで熱意あるストーカーに対して可能なのか。


「安室さんが彼氏のフリをすれば解決するかもしれませんよ!」


梓さんが両手を叩いて提案する。
僕と浜沢さんは目を見開いた。


「安室さんに説得してもらうってこと?」

「そう!安室さんなら絶対うまくいくよ!」

「そんな、悪いよ。」


確かに浜沢さんに男がいるって事が諦める理由に繋がるかもしれない。
仮に男性が暴走したとしても、止められる自信はある。

ただ、個人的に浜沢さんにそこまで関わって良いのだろうか。
僕は正直、僕が彼女を助けた後に彼女から好意を向けられた場合が面倒だと思う。
そんな事を思うなんて自意識過剰かもしれないが、可能性として十分あり得る事だ。

だからと言って放置するわけにもいかない。


「梓さんの言う通り、僕が浜沢さんの彼氏としてその男性に注意するのが1番手っ取り早いと思います。」

「良いんですか?」

「警察に行くつもりはないのでしょ?それなら、僕たちで解決しましょう。」

「…ありがとうございます。正直、今日はストーカーの件を解決出来るなんて思ってなったから…とても嬉しいです。よろしくお願いします。」


浜沢さんの笑顔に釣られて、僕も笑った。


「さて…そうと決まれば、今日は僕と一緒に浜沢さんの家へ帰りましょう。」

「あれ?この場で捕まえないんですか?」


梓さんはボクシングのようなポーズをとる。
暴力で解決するつもりは毛頭ない。


「浜沢さんの家の場所を知っているようですし、もしかしたら盗聴の可能性もありますから。だから、ご迷惑でなければ家の中を確認させてください。」

「迷惑なんかじゃないです。お仕事終わった後なのに良いんですか?」

「いえ、そんなことないですよ。それよりも早く対処した方が良いでしょうから。」


ストーカーは悪化すれば、憎悪に変わる可能性がある。
浜沢さんが1人の時に襲われる可能性だってあるんだ。


「そうと決まれば、安室さん。愛未ちゃんのこと、よろしくお願いしますね。」

「任せてください。梓さんはまた後日浜沢さんと食事に行ってくださいね。」

「そうします。愛未ちゃん、絶対解決するから。後少しだから、頑張ってね。」

「うん。ありがとう、梓。」


梓さんが浜沢さんの両手を握る。
浜沢さんも笑顔で応えた。


「では、早速行きましょうか。」

「はい。お願いします。」

「解決したらメールしてね。」


店を閉める。
梓さんとは別れて、浜沢さんと歩き出す。



「自宅は近いんですか?」

「隣駅から歩いて5分ほどです。」

「じゃあ駅まで歩きましょうか。」


腕を差し出す。
浜沢さんは不思議そうに僕を見上げた。


「ここから僕たちは恋人の設定ですから。」

「そっか。そうですね。」


浜沢さんの腕が僕の腕に絡まる。
浜沢さんの携帯電話がまた鳴り出した。







(彼女が、梓さんの親友)

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