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「今回のような事は初めてですか?」
サラダを取り分けながら聞いてみる。
浜沢さんのストーカーの事を知るためには、まずは浜沢さんの事を知らなければいけない。
「わりとよくある事です。」
「え。」
てっきり初めてですって答えが来ると思っていた。
平然と答える彼女に対して間抜けな声が出てしまった。
「今回は今までないくらい執着されてますが、多少の違いなだけでよくある事なんです。」
「それは…随分、モテるみたいですね。」
そこまで多いのなら、もしかして本人にも多少なりとも悪いところがあるのでは?
「仲良くなりたいって…友達になりたいって向こうから近付いてくるのに、私もそう思って接してると気付いたら違ってるんですよね。いつも。」
浜沢さんの困ったように笑っている。
本人はあくまで友人として接した結果の出来事らしい。
「安室さんも無いですか?そういう事。」
「…そうですねぇ。」
思い当たる節は、かなりある。
友人として接したつもりだった。
普通に会話していたつもりだった。
それが相手にとっては違う伝わり方をしてしまう。
そういった誤解は結果としていい方向にに進まない。
一瞬浜沢さんを否定する考えが浮かんでしまったが、それは僕が言えた立場では無かった。
「サラダもカルパッチョも凄く美味しいですね。」
「お口に合ってよかったですよ。」
「ところで安室さんはお幾つなんですか?」
「29歳ですよ。」
浜沢さんがカルパッチョを飲み込む。
表情は驚いてるようだ。
「…お若く見えますね。」
「褒め言葉として受け取りますね。」
浜沢さんのビールが空きそうだ。
僕も、もうビールがなくなる。
「次どうします?」
「私白ワインが飲みたいです。」
「僕も。そらなら、ボトルで取っちゃいましょうか。」
「そうですね。」
浜沢さんは結構飲める口らしい。
美味しそうに飲んでいる。
「携帯電話の方はどうですか?」
「通知は来てますけど、メッセージだけみたいです。」
浜沢さんが僕に携帯電話が見えるように傾けて操作する。
カウンター席で狭い中、浜沢さんの体が密着した。
一般的にはこういう瞬間に男性はときめくのだろうか。
無防備だとは思う。
ぶりっ子のような態度では無いが、隙だらけのような。
「お店の外で待ってるみたいですね。」
浜沢さんの声で我に帰る。
携帯電話を見直すと、店内に押し入ってくる様子は無い。
「じゃああとパスタとピザをシェアして浜沢さんの自宅へ行きますか。」
「私、パスタ選んでも良いですか?」
「どうぞ。じゃあ僕はピザを選びますね。」
外にはストーカーが居るという異様な中、僕たちは食事を済ませた。
(そして本当によく飲む方だった。)
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