紅葉の島へ上陸



「新しい島が見えたぞー!」

おれが叫ぶとみんなこぞって潜望鏡に集まった。

「もう少しで浮上するんだからその時に見りゃ良いだろ…」

キャプテンの呆れた声がする。ごもっとも。

「私も見たい!」

ミヤビのワクワクした顔。そういや今回はかなり島に上陸したがっていたな。

「ミヤビは島に着いたら何かやりたい事でもあんのか?」
「うん!でもまだ内緒」

にひひ、と笑う彼女も船に来て1年。あっという間に経った気がする。それに前よりよく笑うようになった。元々明るい性格の方ではあるが、時折淀んだ目をしてる時があった。頭から抜けてる記憶と何か関係があるのだろう。
それが少なくなったのは果たして良い事か悪い事か。

「そうか、なら後でなら教えてくれるか?」
「うん」
「ミヤビ、一緒に出かけないか?」
「今回は1人でお出かけしたいんだよね」

横から会話に入ってくるのはシャチ(フラれてちょっと残念そうだ)。おれもシャチもミヤビの事を妹のように思い可愛がっている。ミヤビもおれ達を兄のように見てくれていると思う。

(キャプテンとミヤビはお互いどういう風に思っているんだろう)

お互いまだまだ自覚はないが、おれから見てると本当に一瞬だけとかなんだけど熱のある視線をしてる時がある。キャプテンは少しそういうのが増えてきた。ミヤビにも見られるけど、まだまだ少ない。多分船長への敬意とか憧れとかと混ざっている。

(ミヤビが来てからこの船は賑やかになったし、前よりも面白くなってきた)

勿論、あのトラファルガー・ローがキャプテンでそれについていけるだけで大満足だったのだが。

「真っ赤な葉っぱの木がたくさん生えてる…」
「あれはベニモミジという種類だな」

船が浮上したことによりキャプテンも島の外観が見えたのだろう。

「通常の紅葉よりも更に赤いのが特徴だ。秋島に見られる」
「秋島かー…夜少し寒いんだよね」
「お前は痩せ過ぎてるからだ。もう少し肉をつけろ」
「ここに来てから少しは筋肉ついたし食べる量も増えたの!ここの人たちがみんなよく食べてるんだよ」

キャプテンのお世話から痴話喧嘩へ。
ミヤビが反抗的なのは相変わらず。

(こりゃ何かあるのも当分先だろうな)



「ここのログが溜まるのは2日後だ。2日後の朝にはここに戻って来い。解散」

2日間をどうしようかと陸にあがりとりあえず島をぼーっと眺めていると、隣にミヤビが立った。

「ペンギンはあの葉っぱ達何に見える?」
「何に見える?って、」

そりゃ葉っぱだろう、と思ったが、

「私には血の海に見える」

暗い声。淀んだ目。

「ミヤビ…」
「ミヤビ」

後ろから聞こえたのはキャプテンの声。

「なぁに、キャプテン」

そう振り返るミヤビはいつもと同じ表情、声色。

(キャプテンはミヤビのああいう所も知ってるのか?知ってて尚ミヤビにあんな表情を向けるのか?)

またしても痴話喧嘩を始めた2人を背に、おれは島の内部へと進むことにした。




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