宵と酔い



マリンフォード頂上戦争があってからちょうど1年ぐらいが経った。
麦わらの一味は大丈夫なのかな。

「師匠…」

私は自分の部屋にこっそり隠してある師匠の手配書を見る。
みんなにはまだ師匠が誰かは内緒にしてる。キャプテン辺りは気付いてるかもしれないけど。

師匠、いつになったら会えるかな。
考えてたらコンコン、とドアのノック音がした。

「ミヤビ、キャプテンがお呼びだ」
「えっ、私を?」
「いや、船員全員を集めてる」



呼ばれたのはこの先のキャプテンの計画だった。

「何か異論はあるか?」

あっても認めねェが、という無言の圧を感じる。
それに、驚いて静かになってる。

「ねェならいい」

解散だ、とキャプテンの一言で私たちは持ち場に戻った。



その日の夜、私はお酒を飲んでいた。
やっと飲めるようになったそれも少しずつ慣れてしまって早くも新鮮味を失っていた。
誰もいない食堂で部屋の資料やらなんやらをまとめていると近付いてくる足音。

「勤勉だな」
「キャプテン…」

やや疲れた顔をしているのは我らが船長だった。

「寝れないの?」
「そのセリフそのまま返す」
「私は見ての通りお勉強してるけど」
「酒を飲みながらか?」

あら、バレてら。疲れた顔だけどなんだかキャプテン楽しそうだ。なんで?

「ミヤビこそ起きてるの珍しいじゃねェか」
「んー、なんだろうね。今日はちょっとね」
「…酒まだあるか?」
「多分まだあったはず。飲むの?」
「あァ、せっかくお前が酒飲めるようになったしな。それに2人で静かに飲める機会もそんなにねェだろ」

確かになぁ、と思いながらキャプテンのお酒を用意する。
しかし2人で飲むったって何を話したら良いのか。

「ミヤビ」
「ん?」
「どうだ?船での暮らしは」
「回答をあらかた分かってる時のキャプテンの顔じゃんそれ」
「口の減らなさは変わらねェか」

くつくつ、笑ってらっしゃる。
答えなんて決まってるよ。

「すごく楽しいよ。1人じゃないってこんなにいい事だったんだなって、思う」
「…そうか」

満足気に呟いてグラスをあおった。そういやキャプテンってお酒強いのかな。

「お前、髪随分伸びたなァ…」

さら、とおもむろに髪に手ぐしを通された。ここに来た時からみんなが綺麗って言ってくれたからケアは少し気を使っている。

「そうかな?」
「あァ…」

なんだろ、この感じ。胸がむず痒いというか、なんというか。
今更だけど、男の人と2人きりで夜中にお酒飲んでってなかなかヤバいシチュエーションかもしれない。私は恋愛とかにはかなり疎くて初恋もまだだけど、こういう知識だけはなんとなく知ってる。
私も酔ってきてるのか、体が暖まってる気がする。

「顔赤くなってんな…酔ったか?」
「う…ん、そうかも…」

なんか、顔も熱い。
する、とキャプテンの手が私の頬を撫でた。

「ん…」
「なめらかな肌だな…」

気持ちいい…。
そう思ってると意識が暗転した。



規則正しい寝息をたてるミヤビ。どうやら深酒すると眠くなるタイプらしい。
頭に浮かぶのはおれに頬を撫でられてる時のあのカオ。

(他のヤツには見せたくねェ)

師匠とやらはあんなミヤビの表情を知っているのだろうか。
心を覆うどす黒い感情を隠すようにグラスを傾けた。



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