絶望が食い込んだ
島に上陸して初日の夕方頃、ミヤビは船には戻らなかった。
日中はやる事が多く船にずっと居た為ミヤビが一時的にでも戻ってきていないことは確認済みだ。
男を買ったりとかは聞いた事ない(というか恐らく処女だろう)ので恐らく夜には戻るだろう。
そう思いおれは街に向かった。
少し早い時間だが珍しく酒を飲みたくて適当な酒場に入る。恐らくクルー達はもっとデカい酒場に行ってるはずだからゆっくり飲めるはずだ。
席に着いて頼んだのはカミカゼ。ライムの味で少し口の中がスッキリする。
少し良い気分になっていたが気づくと隣に女が座っていた。
「アンタ、死の外科医だね?」
「だったら何だ。男なら他を当たれ」
「あの子のタトゥー、私が彫ったのにつれないねぇ」
ふぅ、と煙を吐きながら女は言う。
…なんの話だ?
「…話が見えねェな」
「仲間に薄情じゃないかい?」
「さっきからなんなんだ」
苛立ちを乗せた声で問うとやっと話が見えた。
「ミヤビっつったかな、あたしのトコにタトゥーを入れに来たんだ。終わった後すぐに仲間に見せるんだ、って言ってたが…会ってないのかい?」
ぞくり。
寒さなんて感じもしねェのに背筋が粟立った。
「お前の店どこだ?すぐ案内しろ」
「!…着いてきて」
おれの焦りを感じたのだろう。女とおれはお金を乱雑に置いて店を飛び出した。
「あたしの店はあそこ。恐らくこの通りのはず」
「それなら…"Room"」
ブゥ…ンとこの通りをちょうど覆うぐらいの薄青のドームが展開する。
「"スキャン"」
迅速にかつ丁寧に。
早く探さなければ。
目を閉じて見聞色の覇気と併せてRoomの内側を視る。
「おい、いねェぞ…!」
女を振り返ると驚愕で目を見開いていた。
「な…!?」
「心当たりはねェのか…!」
女相手だろうと構わず凄む。四の五の言ってる場合ではない。
「…ちょっと待ってくれる?」
「…?」
そう言うと女はどこかに電話をかけ始めた。
**
汚い笑い声がする。
いつものみんなとは全然違くて、悪寒すら覚える。
今私は何処なんだろう。
マスターさんが気を付けてって言ってたのに、油断した。
「お嬢ちゃん、目覚めたか」
頭上から声が降ってくる。体が重くて仕方ないので顔だけを向けた。
「動こうとしても無駄だぜ。力が抜けるおクスリ使ってあるからな」
ぎゃはは、とどこかで笑い声がする。何がおかしいんだろう。
こんな状況でも意外と頭は冷静だった。
「何を、するつもりですか」
「決まってンだろ、お嬢ちゃんで遊ぶんだよ」
1トーン下りた声にさすがにまずい、と思った。
(ハジメテ、大切に想った人にあげたかったな)
これでも純情だった私はぼんやりそう思ったけど、どうやら思い違いだったようだ。
ぐ、と体を引きずられる。
痛いと思ったけど思うように声が出なかった。
引きずられた先にあったのは大きな水槽だった。
見たところ生き物は入ってない。となると中身は恐らく真水だろう。
「オレらは優しいからさァ…跡に残るような事はあんましねェのよ」
大方予想はついた。
だからこそ自分で驚いた。
ざぷ、と頭を抑えられ水に顔を突っ込まれた瞬間。
今まで感じたことのない恐怖心に襲われ、冷や汗がとまらなくなる。
(怖い…怖い…!誰か…!)
抑える手を振り払おうと、頭を水から出そうと、とにかくこの状況をなんとかしないとと藻掻く。
「…い…り…あば…」
水中でよく聞こえない。何か言ってる。死にたくない…!
(キャプテン…誰か…っ)
ざぱ、と顔が水から上げられる。必死で息を取り込もうと口で呼吸をする。
「簡単に気絶したりすんなよ?つまんねーからなァ」
またしても声が上がっている。なんて気持ち悪い集団なんだ、こいつら。
また頭を強く水に突っ込まれた。
私のミズミズの能力は少し変わっている。
実は水中でしか
自然系ではなく、普段の陸の戦闘では
超人系と同じと言える。
そう、つまり陸戦では通常の攻撃を受け流す事ができない。
(なんだ…この感じ…)
手が震えて力が入らない。最早弛緩剤の効果かも分からない。
また水から顔を出される。
気絶すんな、とかなんとか言われたような気もしたけど私の意識は落ちた。
でも今の状況よりも何かもっと…自分の中で何かを隠しているような、そんな気がした。
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