引き裂いた中身は



遠い記憶。
水から私を引き上げたのは父親であろう人物。
怖い。
怖い。
少し離れて笑ってるのは母親であろう人物。
なんで笑ってるの。
そう思った途端、また冷めたお風呂に顔を突っ込まれる。
そんなことをずっとされていたから私は水が怖かったのだ。
でも私が無理やり食べさせられた悪魔の実は皮肉にも水を操る能力。

実を食べて、まだ能力も把握してない頃比較的平和だったはずの私の居た街は海賊に襲われた。
残虐な海賊だったけど、彼らは人数が多くなかったので目を盗んで街を飛び出し海に飛び込んだ。
最後に見た街は石の地面が血で染まっているのと、血の中で倒れている両親であろう人物達だった。あの二人は私が苦しんでる様子を時折映像電伝虫で撮影しているようだったからあれを売ったりでもしていたのだろう。

食べたのに泳げるという不思議な悪魔の実。それになんでか分からないけど、海中の生物にも気付かれることは無かった。
泳いで泳いで、腕も脚ももう動かなくなった時に奇跡的に別な島に辿り着いた。

『お前、何してるんだ』

砂浜に寝そべって空を見ていた(そうする以外に体を動かせなかった)私に声をかける緑色の短髪の男の子。
後に私の師匠になる─ロロノア・ゾロである。



「…?」
「お嬢ちゃん…頼むぜェ?つまんねェ思いさせんなよ、なァ?」

目を開けると目の前にさっき私の頭を水に突っ込んだ男。
そして頬がジンジンと痛い。
どのくらいの時間か分からないけど、多分気を失っていてビンタで起こされたのだろう。

「楽しませてくれねェなら予定変更だ」

どさりと乱暴に寝かされる。男の手にはナイフが握られている。
ひゅ、と振りかぶられ、身をかわそうとしたが上手く避けきれず、脇腹付近から激痛が走った。

「うっ…あああああああぁ!!」
「お嬢ちゃんの実は“自然系ロギア”だと聞いてたんだがなァ…?デマか?嘘はいけねェな…」

(こいつ…私の事知って…)

また男の手にナイフがある。それは血で染まり赤く不気味に光っていた。
こいつらの言う“遊び”が終われば海軍に引き渡されるのかもしれない。
ひゅー、ひゅーと息がおかしい。そもそも呼吸を出来ているのかも分からない。
再びナイフを突き刺そうと振り下ろしてくる。

「誰か…!誰か助けて…!
…キャプテンっ…!!」


「"Room"!」

いつも冷静な指示を出す声が叫ぶように能力を発動していた。
目の前の男は上半身が吹っ飛んでいた。

「キャ…プ…」
「ミヤビ!」

いつもはポーカーフェイスのキャプテンが目を開いて私を見下ろしていた。

「…すまねェ」

苦しそうに言うといつも被っているゴマアザラシのようなモコモコの帽子を私の顔に乗せた。

「少しだけ、待っててくれ」

私はキャプテンの声に安心し、もう大丈夫だと目を閉じた。




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