赤い後悔
「…今誰と話してたんだ」
「この街のカフェのマスターだ!情報通なんで何か知ってるかと聞いてみたけどビンゴだった!」
「!」
「最近街の反対側にアジトを構えている連中が居るらしいからきっとそいつらだと」
「助かる!」
女─リルには後できちんと礼をしようと心に決め、裏通りを出る。
反対側と言えどここは街自体が広い。そして地図で見る限り街と海が近かった。
船で拐われてないと良いが。
(持ち堪えてくれ…!)
道端の小石を入れ替えながら街を進む。
普通に走るよりは速いがさすがに広い街では時間がかかってしまった。
「この辺りか…」
再び能力と見聞色の覇気で辺りを探す。
「…もう少し範囲を広げるか…」
あまりにも広範囲に及ぶRoomは体力が削られるがそれどころではない。
すると、本当に街の外れの方に人が密集している場所を探し当てる。
「見つけた」
何の確証も無かったがきっとそこにミヤビはいると思いそのアジトのドアを蹴破る。
さほど広くない室内で目立つデカい水槽。
その横に男がナイフを振りかぶっているのが見えてほぼ反射的に叫んでいた。
「"Room"!」
薄青のドームがこのアジトを支配する。
勢いよく鬼哭を振るとナイフの男の体が宙を舞った。
駆け寄るといつもより小さく見えるミヤビの姿があった。
右腹部から出血が見られてもっと早く着けばと頭の中でグルグルと思考がまとまらない。
「キャ…プ…」
か細いミヤビの声にハッと我に返る。
「ミヤビ…」
ミヤビの様子から手当を最優先しなければならないのは分かっている。のに、
「…すまねェ」
帽子をミヤビの顔に乗せる。
おれが来たからもう大丈夫だ、という意味を込めて。
「少しだけ、待っててくれ」
おれはここにいる連中を1人たりとも許すことが出来ない。
「俺の
仲間に手を出して…覚悟は出来てんだろうな」
「あァ!?何をベラベラ…」
「"ここ"はおれの手術台だ、忘れるな」
目の前の五月蝿い男から始めようか。
「"メス"」
ぽん、と呆気なく男の左胸から心臓が飛び出る。
男が間抜けな顔で口を開いている間に心臓を持っていた別なナイフで突き刺した。
ごぷ、と男の口から血が溢れそのまま床に倒れる。
「こいつ…!まさか"死の外科医"…!?」
「ほォ、おれを知ってるのか…だがそんな事はどうでもいい」
「ヒィ…ッ!?」
息を飲んだ周りの男たちからおれは次々と心臓を抜き、その1つ1つにナイフを突き立てた。
再起不能にしたとしてもこんな奴らが生きていることが目障りで耳障りで仕方がない。
最後の1人は、最初に上半身と下半身が別々になった、恐らくミヤビを酷い目に遭わせた張本人。
おれの中にはドス黒い殺意しか流れていなかった。
「死でもって償ってもらう」
おれは男の心臓と頭に今までのナイフではなく鬼哭を深々と突き刺した。
**
「ん…」
ゆっくりと視界が明るくなる。
見慣れた天井、ポーラータング号の私の部屋だ。
「ミヤビ!目が覚めたんだね!」
うるうるのお目目をしたベポが叫び、イッカク姉やペンギンとシャチも顔を覗き込んでくる。
「良かった…!あたしがどれだけ心配したと…」
「イッカク姉…ごめんね」
「お前…今度からやっぱり電伝虫必要じゃねェか!」
「うーごめんってペンギン…」
「ペンギンちょっと泣いてんじゃねェか!ぐすっ」
「そりゃお前もだシャチ」
「おいお前ら」
少し離れた所からキャプテンの一声。
騒ぐ直前(もうほぼ騒いでたけど)の所でみんながピタッと静かになる。
「おれはミヤビに聞きてェ事がある。部屋から出ておけ」
アイアイ!と返事をした後、部屋には私とキャプテンの2人になった。傷が少し痛むけど、体を起こす。
「…」
「…」
沈黙が重い。今回はみんなに内緒で出掛けたくて、電伝虫を持って行かなかった。
きっと怒られる、そう思ってたけど、ふわりと頭にキャプテンの手が乗る。
「キャプテ「すまねェ」
そこには助けに来てくれた時と同じように苦しそうな表情のキャプテン。
「おれは…っ」
「キャプテン…私が勝手な事したの。だから…ごめんなさい」
言い終わるか終わらないかの所でキャプテンが私に強く抱き着いた。
「心配…かけやがって…」
声色も苦しそうで、少し震えていた。
私の視界が潤む。
「ごめんね…ありがとう、たすけに、来て…くれて…」
「馬鹿が…っ」
私が怪我人ってことも分かってるはずなのにキャプテンがきつく私を抱きしめるので私もそろりと手を彼の背中に回した。
「…あっやべ!」
バキリと何か折れる音がして私の部屋のドアが壊れた。音で慌てて咄嗟に私たちは体を離す。
そして聞き耳を立ててたであろう船員達が転ぶように部屋に雪崩てくる。
「お前ら…!」
「ちがっ、これは!シャチが!」
「おれじゃねェ!ベポが!」
「違うよ!2人が最初に言い出しただろ!」
「キャプテン…あたしは止めようとしたんだよ…?」
「なんだっていいが…これはどうすんだ…」
そう、私の部屋のドアはぶっ壊れた。
「それはおれらが責任持って直します!」
「キャプテンが聞きたいことってなんだろうなって思ったら何も聞いたりしてないじゃん!ちゃんと聞こえなかったけど!」
「なっ…!お前ら!いい加減にしろ!」
シャチとペンギンがオペオペでバラされてまた大騒ぎになってる間に、ベポがこっそり私に耳打ちしてくる。
「キャプテンね、ミヤビのこと抱えて走ってきてすごい慌ててたんだよ」
「そうだったんだ…」
「うん、心配そうにしてた」
「うん」
「ミヤビが無事でおれも安心したよ」
「ベポ…」
「危ないことしちゃダメだよ」
「ベポが言うなら、ちゃんと言うこと聞くよ」
「ベポ…余計なこと言ってないだろうな?」
キャプテンが鬼の形相でベポと私に近付いてくる。
「言ってない!ミヤビに危ないことしないでって言ってた!」
「珍しく強気じゃねェか」
途端に機嫌が良さそうにキャプテンは笑う。
キャプテンも、みんなも私のこと心配してくれてて、申し訳なさとここの仲間で良かったなって改めて思いながらみんなが騒いでいるのを眺めていた。
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