荒療治
ミヤビの事があってから3日目。
おれはあの時と同じくらい焦燥感に駆られていた。
今のミヤビは水を恐怖している。正確にはあらゆる液体だ。ポタージュのようなスープですら拒絶する。
そんな彼女が野菜や果実を口にした所で摂取できる水分量はたかだか知れている。
脱水症状が進行していて、頭痛を訴えたり、気を失うことが増えていた。
このままではあと数日で死に至るだろう。
それは医者であるおれ自身がよく分かっている。
でもどうすれば良いか分からなかった。
生命に関する事だが、事件からたった3日しか経っていない。
この3日間で切れ切れに彼女の身に起きたことは聞いたが、幼少期からのトラウマを断つというのは難しい話だ。
点滴もしようと思ったが、点滴袋の液体を見て、それが繋がってる腕を見て嘔吐までした。
どうしたら良いのか。
…手段は選んで居られない。おれは医者だから生きている人間に処置はできても、死んだ人間には何も出来ないのだから。
*
「ミヤビ、単刀直入に言うとお前は死にかけている。死に向かっている」
まずは状況を理解してもらおうと向き合って話をすることにした。
「…はい」
か細い声にずきんと胸が抉られる。
「何でか、ってのは言わなくても分かるとは思う」
「みず…ですよね」
「その通りだ。だから、おれはお前を連れ出すことにした」
「?」
本当は良くないのかもしれない。
この世で一番デカい水である海へ一緒に行き、慣れさせようという魂胆である。
能力者であるおれが一緒に行って無事を証明できればどうにかなる、と勝手に思い込む。
「ミヤビはここの所部屋から出てないしな。気分転換だ」
「でも…き、たないし…」
コップ1杯の水も跳ね除けるくらいなので当然風呂やシャワーは拒絶の対象だ。
別にどうってこと無い。
「気にするな。行くぞ」
横たわる彼女の背と膝裏に腕を差し込み、抱き上げる。
改めて見ても肌が乾燥していてとても二十歳の女の肌には見えない。
それをとても痛々しく感じた。
甲板の1歩手前でおれは足を止める。
ミヤビが外から背を向けるようにおれにしがみついてきたからだ。
「ミヤビ」
「ごめんなさい、キャプテン」
「謝ることじゃねェよ」
震えている。帰ってきてから小さくなってしまった体が。
方法が間違っているのかもしれない。
でも、
「ただ、おれはお前に死んで欲しくない」
「キャプテン…」
「おれは弱いか?」
「そんな事ないよ…キャプテンは前から強い」
「ならそのおれがついてる。それでも、怖いか?」
「…っ」
「…嫌な聞き方をしたな」
「もの、すごく」
彼女がつかえながらも言葉を紡ぐ。
「こわい、の」
「水を摂らないと死ぬのも分かってる」
「でもね、」
おれにしがみつくのが強くなる。
「…っ、う、」
初めて見た、ミヤビの泣いている顔。
おれが助けに行った時でも、泣いた様子は無かった。それ以上に恐怖が勝っていたのかもしれないけど。
「ミヤビ」
「キャプテン、ごめん、こんな、の、やだ、」
「こんなのって」
「よわい、の、わたし、」
「ンなことねェよ」
ぎゅう、と両腕の力を強めてよりおれとミヤビの体が近づく。
「ミヤビは充分強い」
「ぐす、キャプテン、」
「ミヤビ」
小さいガキを泣き止ませるようにおれはミヤビの額に自分のを寄せた。
「ミヤビが泣いてる顔は、心臓が痛くなる」
「…?」
「元気な姿が見てェんだ」
「キャプテン、」
「…」
「外連れて行って欲しい」
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