白いダリアを
ミヤビが自身のベッドで寝たのを確認すると、おれはペンギンに一声かけてから島に降りた。
3日前に訪れた、彫師の女を訪ねる為だ。
手ぶらで行くのも悪いかと思い、商店街を少し見て回る。
女に何か渡すとかもよく分からないが、時間をかける訳にも行かないので商店街の奥にあった花屋にはいる。
(…花屋にすんじゃなかったかもしれねェ)
より何を買って良いか分からなくなる。
「贈り物ですか?」
柔らかい表情のヒョロい男が声を掛けてくる。
「あァ。礼をしたい」
「そうですか。それでしたら…」
男が用意したのは花弁の外側が淡いピンクに色づいた存在感のある花。
「これは?」
「ダリアです。白いダリアの花言葉は感謝。今のお客様にピッタリですよ」
自分で考えるのも最早面倒なので、店員の勧めるままにその花を3本買う。
「…ありがとうな」
「またお待ちしております」
店員は終始にこやかだった。花を売ってるからか、と少し考えておれには無縁だと自嘲し、彫師の元へ今度こそ向かう。
「いるか?」
「いるか、ってアンタね…」
呆れられたが、おれはミヤビが目を覚ます前に戻りたいので手短に済ませようと思い持っていた花を女の前に差し出す。
「何これ」
「…礼を言いに来た。あの時お前が居なければミヤビを救うことは出来なかった」
「力になれて良かったよ。あの子いい子だもんな」
「あァ」
「アンタの恋人か?」
「いや…」
「フフ、少し歯切れが悪いようだね。悪くは思ってないって所か」
「…」
「睨まないでよ…それで、ミヤビは?」
「あー…」
話すか、話すまいか。考えたのは一瞬だったが、
「話せないなら良いわ。元気?」
「…あまり元気とは言えねェな」
「そうか…」
タバコの煙を吐き出す顔は憂いているように見える。
「これ、渡しといてくれない?」
ハイ、と渡されたのは手紙だった。
「ミヤビにか」
「そうさ。ガールズトークってやつ」
もう憂いの色はなかった。
ミヤビにとってこの女との出会いはいいものだったと言える。
「アンタ、名前は」
「リル。死の外科医さん」
「トラファルガー・ローだ」
「知ってるさ。有名だから」
「…だろうな。邪魔してすまなかった」
「いいや。綺麗な花をありがとうね。ダリアとはいいセンスだ」
「残念ながらおれはそういったセンスを持ち合わせちゃいねェ」
リルの店を後にし、船へと引き返す。
船に戻るとどことなくバタバタと騒がしい。
「あ!キャプテンおかえり!」
「ベポ。なんかあったのか」
「ミヤビが起きて、ご飯食べるって言うからみんなで準備してたんだ!」
あとご飯の後のお風呂も!とベポはそのまま走っていった。
おれも慌ててミヤビの部屋に向かう。
「ミヤビ、入るぞ」
「はーい」
ベッドに居たものの、起き上がったミヤビは随分と顔色が良くなっていた。
「だいぶ調子良くなったみたいだな」
「おかげさまで」
緩く頬に触れると目を瞑りおれの手に頬を擦り寄せてくる。
ぞわ、とおれの中で感じたことのない熱が湧き上がった。
それを必死で抑え込み、手を離す。何故か離すのが惜しいと感じながら。
おれはおれの中の感情に蓋をする。これ以上はだめだと、少なくとも今ではないともう1人の自分が冷静に囁いていた。
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