暫しお別れ



キャプテンが部屋から連れ出してくれた日から、私は順調に回復していった。
もう水は怖くない。私は水を操る能力者だ。臆していてどうするんだ。

1週間程度経った頃から、船が浮上している間は甲板で体力を取り戻す為に鍛錬を始めた。
いつまでも腑抜けていては師匠にどやされてしまう。

「おい!まだ安静にしとけ!」

キャプテンが怒鳴りながら甲板に出てくる。

「もう動いても大丈夫だって。傷もほとんど塞がってるし」
「ほとんどでまだ完全には塞がってはない!体を動かすにしたってもっと軽いのから始めろ!」
「えー…」
「えーじゃない!」
「キャプテンお母さんみたい…」
「…ミヤビもあいつらみたいにバラバラにされてェらしいな?」
「されたくないよ、そんなこと」
「…ッ」

なんだっけ、こういうの。
苦虫を噛み潰したような顔って言うんだっけか。
キャプテンは今まさにそれだ。

「てかキャプテン邪魔しに来たの?」
「邪魔…だと…?」
「違うの?」
「そもそもは話すことがあったから呼びに来たんだ、甲板に居るって聞いたんでな…!」
「すごい怒るじゃん」
「当たり前だ!死にかけてたんだぞ!」
「ちょっと前にね?」
「はぁ〜〜〜〜………」

キャプテンは隠すことなくめちゃくちゃ大きな溜息をついた。
そういやこういうやり取りちょっと久しぶりかも。

「良いから来い。もう全員集まってる」
「それ早く言ってよ」



「ここでお前らと別れる」

水を打ったように私たち船員は静まり返った。

「潜入みてェなモンになるから、1人の方が動きやすい。今後の指示はペンギンとシャチに任せる」
「キャプテン」

ペンギンが口を挟む。

「単独行動が最近過ぎませんか」
(最近?)

確かに、鍛錬しててもさっきのようなやり取りは久々だった。

(キャプテンが居なかったからか)

確かに居なかった。けど、

(なんだろう、違和感があるような…)

「おれの船だ。従えねェなら降りろ」

らしくない冷たい言葉。

「キャプテン」

珍しく私は口を挟んだ。

「危ないことはしないで」

キャプテンはいつも被っている帽子を深く被り直した。
了承の意と受け取っていいのか分からないけど、返事はして貰えなかった。



翌日、キャプテンは簡単な荷造りを済ませて船を発った。

「…ペンギン」

見送ったまま、甲板には疎らに船員が残っていた。隣に居るペンギンに声をかける。

「なんだ」
「キャプテンさ、死なないよね」
「あの人は強い。心配要らねェよ」

にっ、と笑ったペンギンが頭を雑に撫でたけど、手が少し震えてるように感じた。




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