雨上がりの雷



もう気付けばそうだったから、当たり前になっていた。
でも、当たり前じゃない、というか彼のことを知らない時間の方が長かったはずだった。

あの時私におでこを寄せて泣き止ませてくれたように、今度は抱きしめられた。
その腕の力の強さに胸が締めつけられる。

師匠とは違う、所謂細マッチョなキャプテンの腕。
驚いて顔を上げたキャプテンの顔は苦しそうに、泣きそうに歪んでいる。
何故かずきずきと私の胸が痛む。

「泣かないで、キャプテン」

本人しか聞こえないくらいの小さな声。ぐ、とより力強く私を抱きしめる。

ただの力任せじゃなくて、私が離れられないようにしているようだった。

「…行ったりしねェだろうな」

やっと言葉を発したキャプテンの声色は拗ねた子供のよう。

「師匠のとこ?」
「…」
「行かないよ、行くわけないよ。私の居場所はハートの海賊団だもの」
「ミヤビ…」
「キャプテン水差すようで悪いんだけどそろそろ離れて?麦わらの一味が勢揃いしちゃってるしうちの船員もみんな見てる」
「…!」

私の事をパッと離すと帽子を深く被り直した。
見せモンじゃねェとキャプテンが低い声で言うととりあえずうちの面々は散り散りになった。

「あらあら?」
「トラ男、こりゃどういう事だァ?」

しかし楽しそうなナミさんと、ウソップさん。
キャプテンはバツが悪そうに視線を逸らし続けている。
師匠も愉快そうに(悪そうに)笑っていた。
そこでふと気付く、違和感。

「…サンジは?」

まさかこういう場に彼が居ないはずがない。
ウソップさんが言いづらそうに口を開く。

「トラ男達、よく聞いてくれ、サンジは─…」
「えぇえ!?」

キャプテンが怒っている。
こんなに色んな感情を顕にするキャプテンを私も、恐らく船員達でも本当に古株のあの面子以外は見たことないかもしれない。

ふと師匠と目が合う。
師匠は何やら悪い顔で笑った。そして、

「ミヤビ、こっち来い」
「?はぁい」

素直に行くと師匠の間に座らされ、後ろからお腹に手を回される。
そういや昔眠れない時こうして貰ったりもした。
懐かしいな…。

「ロロノア屋ァ!!」

ビクリ、キャプテンの怒声に肩が跳ねた。

「なんだよ、トラ男?」
「なんだよじゃねェ!!離せ!ミヤビはウチのだ!!」
「言っただろ?おれの弟子だって」

ちょっとよく分からないけど恐らく師匠がからかってるのをキャプテンがマジギレしてるんだろうな、これは。

「お前がゾロの弟子ってヤツか〜!」

めっちゃ笑顔の麦わら一味の船長様。
うちのキャプテンと並ぶ5億の首。

「初めまして…ルフィ」
「お前なんて言うんだ?」
「ミヤビです」
「おー!よろしくな、ミヤビ」

にしし、といい笑顔。
天竜人をぶん殴ったり、その前もあのエニエス・ロビーの旗を撃ち抜いて宣戦布告したりと聞いた事ない事ばかりして来てるが、悪人には見えない。
それならうちのキャプテンの方がよっぽど悪人面してる。

「ミヤビ、お前失礼な事考えてただろ…!」
「そ、そんな事ない」
「顔に出過ぎなんだよ」

ぐ、と鼻を摘まれる。

「いひゃい!」
「おい、ミヤビの事いじめんなよ!」
「ルフィ…大丈夫だよ、よくある事だから」

ならいっか!とまた笑顔。
本当に太陽みたいというか、天真爛漫というか。
こんな人が師匠のとこの船長なんだなぁ…。

「話したい事あるからミヤビは借りていく。また後でな」

キャプテンが私の腕を引き、師匠の腕の中から連れ出す。

「後で返せよ」

師匠が笑いながら言うけどキャプテンは無視を決め込んでる。

私は振り返り、その場に残ってる麦わらの面々に手を振った。
みんな振り返してくれて、改めて優しいと思った。




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