初めの一歩は元気よく
「にゃあん?」

「みゃー」



頭で理解(?)をし始めてはいたが、雪女が未だにこの状況に混乱していると、
部屋に居た猫たちが心配そうにすり寄ってきた。


「にゃ?」

「ああ……大丈夫だよ、レジェ。」

「ふにゃー」

「んみゃあ?」

「……みんな、俺を心配してくれたのか?」

「うなーん!」



「(……とりあえず混乱しっぱなしだけど、今出来ることを進めていくしかない、か)」

「とりあえず、学校へ行く用意をしなきゃな……」


猫たちを撫でて少し落ち着いた雪女は、
美幸に言われたとおり、制服を取り出そうとクローゼットを開けた。



「……わあっ……!」



そこに掛けてあったのは、いつも着ているだぶだぶの少しよれた制服じゃなくて、
ピシッとしっかりアイロンがかけられ、肩のイナズマラインが眩しく見える雷門中の制服だった。



ふと気づけば、制服だけでなく通学カバンも雷門中のものになっていた。
カバンに付いていたのは、イナズマ型のプレートが付いたキーホルダー。




……相変わらず制服が男物なのはこの際どうでもいいとして。




元の世界(?)に戻る方法はわからないし(というか、戻る気もないが……)
この世界が本当に、「イナズマイレブンの世界」なのかも、微妙に謎だ。



夢じゃないかと頬を思いっきりつねって見ても、痛いだけで目は覚めなかったし……
とにかく、しばらく様子見をしてみるしかない。







とりあえず、目の前にあることから片付けていくことにした。






「……まずは、さっさと着替えなきゃ、な!」


雪女はそう呟くと、急いで制服を着始める。
着替え終わると、全身が写る大きな鏡の前に立ち、鏡に映る自分をまじまじと見つめた。


「うわー、こうしてみると俺……別人みてぇだな……」


雷門中の制服を着て立つ鏡の中の自分は、
顔立ちも、見た目も、昨日までの自分と全然違ってて。



「……あ。」



部屋を出る前に、何気なしにちらっと自分の机のほうに目をやると、
兄ちゃんの写真が入った写真立てが目に入った。




それを見ると、雪女は机に近づいてその写真立てを手に取る。



「兄ちゃん。……なぁ、聞いてくれよ!俺、今日から雷門中行くんだぜ!!」

「急にトリップなんかしちゃってさ……すげー混乱してるけど、とにかく前に進まないとな。」





「もしかして……このトリップは兄ちゃんのせいか?」




「……なーんてな。」




そう言うと、雪女は写真立てをつん、と優しくつついた。




「なぁ……兄ちゃん、俺……もしかしたらいっぱい苦しんだり、苦労することがあるかもしれねぇ。」

「でも、絶対に頑張るからさ……そっちで見守っててくれよな?」



「……もちろん、兄ちゃんから貰ったペンダントは、いつもこっそり付けていくからな!」


そう言うと雪女はにっこりと笑って、写真たてを元に戻した。







……写真立てから指先が離れたその瞬間、どこからか小さな声で








“あぁ 見守っていてやるよ”と








聞こえたことも、知らずに。








「制服着れたぜー」

「……おっ、よく似合ってるな雪女!サイズはどうだ?」

「全体的にゆったりしてるから、着やすいなこれ」


そう言うと、雪女は制服を美幸によく見せるために、その場でくるりと一回転。

それを見て美幸は誇らしげに笑った。


「よし、ほつれもヨレもないな。これで第一印象はばっちりだぞ、雪女!」

「……えー、また女子に取り巻かれる未来しか見えねーよ……」

「それはもう諦めろ、お前が父さん似のイケメンに生まれたのが悪い!」



「……おい美幸、雪女!俺の噂してんのかー?」


台所の入り口から、ひょっこりと顔を出した男性。
その人物は、雪女の父親である火月 正義であった。

正義は、若いながらも世界で有名なサッカーチーム「ヘルメスウィングス」のエースストライカー。

……何を隠そう、雪女をサッカー好きになる切っ掛けを作ったのは正義本人なのだ。


正義を見ると、美幸は笑顔で正義に雪女を見るよう促す。


「……はは、正義。俺たちの自慢の娘を見てやってくれよ!」

「おっ?なかなかの男前だな〜」

「おい……父さん、俺は一応女なんだから男前って言うなよ。」

「……ははっ、すまんすまん!」

「あと正義、ちょうどいいとこに起きて来たな。朝飯ができたぞ」

「そりゃよかった。雪女もちゃんと朝飯食ってくだろ?」

「……はいはい。「元気にサッカーするためには朝飯をしっかり食べろ」……だろ?」

「よろしい!さすが俺と美幸の娘だ!」


正義はにっこりと笑い、雪女の頭をわしゃわしゃと撫でた。



……そして家族そろっての朝食。



ジャムトーストを食べている雪女に、正義は何気なしにこう質問した。


「なあ、雪女。」

「ん?」

「……お前が今日から通う「雷門中」って学校、サッカー部はあるのか?」



……気のせいか、父さんの目がキラキラと輝いている気がした。



「(まあ、父さんはサッカー大好きだからな……娘がサッカー部に入るかどうか、気になるのも仕方ないか)」



「うん……あることにはあるぜ。」

「あることには、ある?どういうことだ?」

「それがな、人数不足で廃部が決まるかもしれないんだってよ……」




……確かイナズマイレブンの最初は、廃部寸前のサッカー部を円堂が救うところから始まったはず。




「そうか……廃部、か……」


そして「廃部」の文字を聞くと、正義の笑顔が少し曇った。



「……お前、そのサッカー部に入る気は無いか?」

「えっ?」

「……無いのか?」

「え、あ、入りたいとは思ってる、けど……」

「そうか!……それならいいんだ。」



そう言うと、正義は少し笑顔になる。
その笑顔を見て、雪女はこう続けた。



「俺さ、サッカー部の復興の手伝いが出来ればなって、思うんだ。」

「……復興?」

「そのサッカー部は、今は弱小チームなんだけど……いずれ世界に通用するようなチームになる!」
「……俺は、それに付いていきたいんだ!」



そう雪女が言うと、美幸と正義は目を白黒とさせていた。



「(……あ、あれ?俺、なんか変なこと言ったかな?)」



「……世界に、通用……?」

「雪女……そのサッカー部、まだ見た事ないだろ?」



「(……あっ、そうか!)」



感情をこめて喋っていたからついつい、俺は今トリップしていることをすっかりと忘れていた。


と、とりあえず誤魔化そう……。



「……ま、まぁ、俺のカンなんだけどな!!」
「そんで……弱小チームってのは……この前、風の噂で聞いたんだよ!」


「……ああ、そうか!」

「あー、びっくりしたぜ。お前が未来を見てるような言い方するからよ」

「はは、そんなわけねーだろ!!はは……(ある意味見えてるんだけどな……)」


なんとか誤魔化せたことに、雪女は安堵の溜息を一つついた。


「……まあ、サッカー部に入れなきゃ意味ないんだけどなー」

「雪女なら入れるさ!お前はそんじょそこらの女子とは違うんだから。」

「本当にお前は、俺達の自慢の娘だよ。」

「や、やめろよ!……は、恥ずかしいだろ!」

「なんでだ?恥ずかしがることないぜ!」


雪女は恥ずかしさで目を逸らし、ついでにちらっと時計を見た。


「(あ、そろそろ家を出ねえとまずいな……)」


稲妻町の地理はあまりわからないため、授業が始まる前までには学校に着けるよう、
雪女は、余裕をもって時間を計算していたのだった。


「そろそろ時間だし……母さん、父さん、俺もう行くぜ。」

「おう、行ってこい!」

「いいか雪女、車に気をつけろよ?」

「……もう、分かってるって!」





元気よく玄関を開け、雪女は学校へと急ぐため走り出した。



シャツがはだけて少しだけ見える胸に、オレンジ色の綺麗なペンダントを輝かせながら―









「ふう……全く本当に雪女は正義にそっくりだな。」

「美幸、それってどういう意味だ?」

「元気に前へ突っ走るところとか、サッカーバカなところとかだな!」

「それって褒めてんのか〜?」

「……ははっ、褒めてるに決まってるだろ!」



美幸は正義にそう言うと、雪女の後姿を見送り、少し嬉しそうな顔をした。







「(雪女……なんだか、今までより少し、表情が明るくなった気がするな。)」


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