思うに彼らも、
簡単な設定
審神者名・審神者(真名・依織)
審神者として政府から(無理やり)任命された。
しかし、転送システムのクラッシュで山中の廃本丸に飛ばされてしまう。
こんのすけもクラッシュで居なくなり政府と連絡が取れないため、
「……まあ、いいでしょう」と諦めて大人しく暮らしている。
Not歴史修正主義者。
システムのクラッシュで、廃本丸に飛ばされて数か月。
不幸中の幸いか、私には廃本丸を(時間をかければ、だが)ある程度に修復できるほどの腕は持っていた。
なんとか自分ひとりで頑張り、生きていける程度にはなった本丸の中で、私は茶を啜った。
「今日も、音沙汰なし……と。」
もう諦めよう、私はきっとこの本丸に呼ばれたのだ。
そして、この本丸に飼い殺されて生きるのだ、それも悪くはないではないか。
そう思い始めた矢先だった。
ようやく作物の取れるようになった畑をいじっていると、
近くの茂みがガサッ、と揺れた。
「……おや、兎でもいるのかな?」
「ここに私一人では寂しいと思っていた所だし、捕まえて少し話し相手にでもなってもらうかな」
茂みを優しくかき分けてみると、そこには。
……ひどく傷つき震えた、敵の短刀が丸まっていた。
どうしてここに敵が?と考える前に、ここは廃本丸だという事を思い出した。
廃本丸なのだから、普通の本丸に張られているはずの結界が消えてなくなっていても、まあ、おかしくはない話だ。
その時、頭に何故か言葉が浮かんだ。
……審神者講習で、何度も何度も、耳にタコができるほどに言われた言葉。
『敵は歴史修正主義者であり、その敵の使う刀剣男士もまた敵であることに変わりはない』
……本当に、そうだろうか?
こんなに小さく、震える短刀すらも敵だと?
私に、この短刀を殺せと?
……考えるのもまどろっこしくなってきた。
まあいい、ここには政府の目も、こんのすけの監視の目もないのだ。
少しくらい好き勝手をしたとしても、すぐにバレるものではないだろう。
「……おいで、おいで。私は敵じゃない、怖くないから……」
手をスッと短刀の前に差し出すと、驚いたのか少し後退をする。
「キュ……?」
「……そう、おいで。」
確認するように、尻尾で私の手のひらを軽く叩く。
「……」
すると、短刀はすぐに私の腕へ自分の体を絡ませた。
自分に害がないのがわかったのだろう。
幸いに、廃本丸といえども手入れ道具はまだたくさんある。
まずはこの短刀の手入れをしてからこれからを考えよう、と私はそう考えた。
短刀を座布団の上に乗せ、彼から受け取った本体に優しく打ち粉を叩く。
(この短刀はどうやら雄のようなので「彼」と呼ぶことにした)
「キュ……キュゥ……」
気持ちよいのか、薄く目を閉じる短刀に、私は優しく声をかけた。
「痛くはないか?苦しくはないか?」
そう言うと、短刀は座布団から私の膝へと移り、腹に頭をぐりぐりと擦り付ける。
……これは、懐かれたと言ってもよいのだろうか?
「……さあ、手入れが終わって怪我が治ったよ。」
「君は私から逃げて、どこへ行っても構わない。引き止める権限は私に無いのだから」
「キュン!キュウン!」
「……おや?」
彼をどこかへ放してやろうと抱き上げると、彼はどうも私が気に入ってしまったようで、
私の肩にしがみ付いて、しかも私の服に噛みついて離さない。
……まあ、彼の気持ちはわからなくもない。
彼らは本来、審神者の敵なのだから。
私のような物好きでない限り、弱っている彼らを手入れするどころか、
これ幸いと自分の刀剣男士に命令して斬ってしまうのだろう。
それが「普通」なのだから。
――――あなたと離れたくないよう、あなたと一緒に居たいよう
――――もう戦場はいやだ、優しいあなたの元に居たいよ
彼の悲痛な鳴き声がどうもこう言っているように聞こえて仕方がない。
まあ、私の解釈なので本当かどうかは謎なのだが。
「……わかった、わかった。君がそうしたいなら、ここに居ておくれよ」
「私はここに一人取り残されていたんだ、君が居てくれるなら寂しくはないだろうしね」
「キュウン!」
……嬉しそうに一鳴きして私の体に巻き付く彼には、
私はどうしても、禍々しさを感じられなかったのだ。
ああ、私は寂しさでおかしくなったのかもしれないな。
「ああ、君に一つだけお願いをしても構わないかな?」
「キュ?」
「もし、君のようにひどく傷ついている“君の仲間”が居たら、ここに呼んではくれないだろうか」
「……キュン!」
わかった、とでも言うように首を振る彼に、
私はそっと「いい子だね」と頭を撫でた。
彼らを荒ぶらせたのが人間なら、また、彼らを宥めるのも人間がするべきだろう。
どうせ、私はここに飼われた審神者なのだ。
誰にも知られず、誰にも分かられずに生きるというのもなかなか辛いものだ。
……ならば、普通の審神者にはできないことをしてやったっていいだろう。
そして暫くして。
最初の彼が仲間と思わしき傷ついた短刀を3人……いや、3匹……?連れてきて、
一気に本丸が賑やかになった。
今まで自分の発する音しか聞こえなかったこの本丸に、
自分以外の音が聞こえて、自分以外の声が聞こえる。
……これが普通のはずなのに、私はどうしてもそれが嬉しくて仕方がなかった。
「ああ、こらこら。喧嘩をしないの」
夕方、一仕事終えて縁側に座っていると、みんな我先に私の膝に乗ろうとしてくる。
キューキューと鳴いて、いかにも「ボクがここに乗るんだ」「いや僕だ」と喧嘩をしているようで、何となくほほえましい気すらしてくる。
みんな乗れるように少しだけ足を崩して、ゆっくりと彼らの頭を撫でる。
彼らは撫でるとすぐうとうとと眠ってしまうので動けないが、それでも……一人でここに居た時とは大違いだ。
……ああ、頼むよ。
私は正直、歴史の修正だとか、その防衛とかは、どうだっていいんだ。
ただ、人の身勝手な願いの為に堕ちて穢れてしまった彼らを、救いたいと思ってしまっただけなんだよ。
……まあ、堕ちても一応神であることに間違いはないから、「救いたい」なんて大口叩くのも、本当は失礼なのかもしれないけど。
「でも……いつまでも、こうしていたい」
静かに呟いたこの言葉が、眠っている彼らに聞こえませんように、と祈りながら
私も少しだけ目を閉じることにした。
……のが、間違いだった。
「わああっ!!!……いつの間にこんな時間に!?」
膝の重さと温かさについ眠ってしまっていたのか、
気づけば太陽は完全に沈み、月がこんばんはをしていた。
私の悲鳴に起きた短刀達が、大丈夫か、奇襲でも来たのかと慌てた顔をしたので、
「大丈夫だよ、寝過ごしてしまったから焦っているだけだから」と声をかけて安心させる。
彼らにはとりあえず痺れた足から降りてもらい、足の痺れををほぐしてから急いで厨(くりや、炊事場の事)へと向かう。
なぜなら、今日の夕餉の支度を全くしていない。
一応、飛ばされて最初の頃の食生活がひどすぎて、1日食事を抜くくらいはどうってことはない、という体になってしまったのだが(嬉しくはない)、
彼らが来てからと言うもの、霊力維持のためも兼ねて食事が欠かせなくなってしまった。
やっぱり敵とは言えど、私は彼らの審神者。
私に懐いてくれたのだから、私も彼らにある程度の霊力くらいは捧げなくちゃならない気がして。
「……もういいや、今日は簡単に済ませてしまうけどいいかな?」
「明日は川で魚でも釣って、おかずにしようか」
「「「「キュン!」」」」
……それに、彼らの霊力補給も兼ねて。
一応、彼らも元は刀剣男士なのだから食事の必要はないに等しいのだが、
ある日、私が朝ご飯を食べているのを珍しそうに見ていたため、小さい握り飯を作って与えてみると、
嬉しそうにニコニコと食べたのである。
しかもそのあと、霊力が溜まったのかその日一日ずっと元気にぴょんぴょんしていたし。
霊力足りなくてしょぼくれられるより、霊力足りて元気な姿の方が見たいだろう?つまりそういうことだ。
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