君が流したユメナミダ。


お初にお目にかかります


……ああ、どうやら私は、呼ばれる本丸と審神者を間違えたらしい。







「……お初にお目にかかります、兵隊切椿でござ……「うぉっしゃあああああ!!!!!切れ目系男子ktkr!!!」











何なのだ、この騒がしい女性は。
……まさか、と言わずとも、彼女が私の新しい主なのだろう。









突然叫ばれて驚く私に、眼帯をした青年が声をかけた。



「やあ、驚かせてしまって悪いね。」
「ここのところ新しい子が来なかったものだから、主も鬱憤が溜まってたんだよ」

「あ……え、そ、それならいいのですが」

「いやあ、あはは……急に叫んでごめんごめん。久しぶりの新顔だったもんでね、ついやっちゃったよ」
「私は道祖王、一応ここの審神者。……まあ呼称は適当でいいよ。これからよろしくね」

「は、はい、では……主様(あるじさま)とでも呼ばせていただきましょうか……」

「僕は燭台切光忠。よろしく」

「ええ、どうぞよろしくお願い致します……」






ああそうだ、ここまでは、普通だと思っていたんだ。

この時、私を見つめる燭台切の視線や握手で触れる手が、やけに熱っぽいなと感じるまでは。








「ん?……ああ、ちょっと待っててね二人とも。もう一つのほうが出来上がってたよ」
「入れた資材が少な目だったから、短刀が出来上がるかもね」


そう言うと、主様はもう一つの鍛錬所所を開く。


ぶわっと強い炎と桜の花びらが舞ったかと思えば、
ちょこん、と一人の短刀が立っていた。


「あ、ほんとに短刀だ」

「これまた新顔だね」



……しかし私には、その短刀に見覚えがあった。

私が驚きで口を開く前に、先にその短刀はちょっぴり涙声でこう言った。




「にいやん!」





「「にいやん?」」


頭に?を浮かべる二人を差し置いて、その短刀―――“狂い桜光法”は、
べえべえとべそをかきながら私に抱き付いて来た。


「にいやん!にいやん!にいやんは、ほんもののにいやんらよね!?」

「……ああ、そうだよ、私は兵隊切だ!」

「にいやんが、おんなのひとにつかまれてぼくのところからいなくなってから、ぼく、ずっとにいやんのことさがしてた……」

「すまない、狂い桜。……私も、ずっとお前を探していたよ」



そう言うと、狂い桜はさらに泣き出す。
こう来るとなかなか泣き止まないのは、兄である私がよく知っている。

私は狂い桜を優しく胸元に抱き上げ、
まだ泣いて自己紹介の出来なさそうな狂い桜の代わりに私が主様に紹介をすることにした。



「……すみません主様、恥ずかしいところをお見せしまして」

「い、いや、それはいいんだけど……君達、兄弟だったの?」

「そうでございますよ、主様。この子は「狂い桜光法」と申しまして、私の弟でございます」

「んーと……どうしてこの子は兵隊切椿に会って泣き出しちゃったのかな?」

「それを説明しだすと長いのですが……遠い昔に私達は同じ場所で安置されていたのですが、私は前の主の愛人により奪われてしまいまして」
「それから、何があったかは私は知りませんが、狂い桜によほど辛いことでもあったのでしょうか……」


胸元でまだぐずる狂い桜をなだめながらそう説明すると、
主様は顎に手を当て、なにやらぶつぶつと話だした。


「……ううむ、泣き虫男の娘の弟とかなにそれ超尊すぎるでしょ……その上に弟を優しくあやす兄属性とかいち兄レベルで久々にやばいわコレ」
「あれかな?いち×椿フラグかな?まだ会わせてもいないけどな!!」

「こら、主!」

「あっごめん、私のソウルに眠るお腐れさまがよだれと共に出てしまった」

「……?」


「……まあとりあえず、本丸を案内するよ。えっと、狂い桜光法……だっけ?その子も抱いたままで構わないから」

「はい、主様」



狂い桜を抱いたまま、主様の後を付いて行く。
暫く一緒に本丸の説明を聞いていると、狂い桜もだいぶ機嫌が良くなってきた。



「さ、狂い桜。機嫌を直したなら降りてはくれないか?」

「わかった!」



そう言うと、ぴょんと私の腕から飛び降りる。



「あらら、すっかり機嫌が直ったね」

「……さっきはごめんなさい、あるじさま!」
「にいやんにようやくあえたとおもったら、うれしくてないちゃいました……」

「いいんだよー、でも君は笑っていた方が可愛いねえ」


そう言うと、主様は狂い桜の頭を優しく撫でた。

そのうち、私の耳に楽しそうな子供の声が庭から聞こえてくる。



「……おや、子供の声?」

「ああ、今は短刀達が遊んでいるのかな」



燭台切が私にそう言った瞬間、
鬼ごっこでもしていたのか、短刀達が走ってやってきた。



「まてー!」

「わー!」



きゃっきゃと嬉しそうな声をあげ、庭の中でぱたぱたと走る短刀に、
狂い桜が目をきらきらと輝かせているのが見えた。



「……狂い桜も、仲間に入りたいのかい?」

「え」

「そんな顔をしているぞ」

「れも、ぼくがはいったらおじゃまかもしれないし……」


そう言うと、狂い桜は軽くうつむく。


……本当に、狂い桜に何が起きたんだ?
昔は、他の刀を見つけるとすぐに話しかけてしまうような子だったのに。




「あーっ、お客さんだ!」




誰かが発したその言葉に、みんなは鬼ごっこをやめて
見知らぬ顔である私たちの元へと駆けて来た。




「新しい人ー?」

「なかまですかー?」



心底嬉しそうな声に、私の足元に隠れていた狂い桜もひょっこりと顔を出す。
それに気づいたのか、私の元へと短刀達がぞろぞろとやってくる。


「君も短刀?」

「ねえ、名前は?」

「僕らと遊びましょう!」



もじもじと恥ずかしそうに私の足元に隠れている狂い桜の背中を押して、
短刀達の前へと押し出す。



「狂い桜、私に遠慮はいらないぞ。みんなと遊んでおいで」

「……い、いいの?」

「いいんだよ、短刀達と遊んでおいで!仲良くなるのも大事だからね」



主様の後押しもあってか、狂い桜は恥ずかしそうに自己紹介を始めた。




「え、えと、ぼくはくるいざくらみつのりれす!」
「その……なかまに、はいってもいいれすか?あそんれ、くれますか?」


「勿論!」

「くるいざくらも、いっしょにおにごっこしましょう!」



狂い桜はニコッと笑うと、銀髪の短刀に手を引かれて嬉しそうに走り出していった。



「いいねえ、短刀達を見てると心が落ち着くよ」

「……狂い桜に、友ができるとよいのですが」

「できるよ、うちの短刀達はみんないい子だからねえ」



……主様のその言葉に、少しだけ救われたような気がした。



それから、狂い桜抜きではあるが、
主様や燭台切に本丸の説明や、本丸にいる他の刀剣の説明をしっかりと聞いた。

一応、私は記憶力がいい。
ここに居ない狂い桜には、私があとでしっかり説明すれば良いだろう。




まあ結論を言ってしまえば、結局、私の心配など杞憂に過ぎなかったという事が、
……夕方、他の短刀達(……と何故かいる岩融)と泥だらけになって帰って来た狂い桜によって立証された。





「みんな、盛大に遊んできたみたいだね」

「しょくだいきり、きいてください!くるいざくら、すごいです!いわとおしとおんなじくらいはしれるんですよ!」

「へえ、凄いじゃないか」

「……えへへ、ぼく、すごくひさしぶりにはしったあ」

「今度はかくれんぼしようね、絶対だよ!」

「もちろん、いいれすよ!」

「さあ、お話はそこまでだ。もうすぐ夕餉の時間だし、みんなお風呂に入っておいで。もちろん、狂い桜も一緒にね」

「「「はーい!」」」


「ね、狂い桜、今度はボクと一緒に行こ!」

「うん!」


そう言うと、今度は今剣ではなく乱に手を引かれる狂い桜を見て、
やっぱり杞憂でよかった、と胸を撫で下ろした。



「嬉しそうだね、兵隊切」

「何十年も会えなかった弟があんなに嬉しそうに笑ってくれるんだ、これ以上に幸せなことはあるまいて」

「……君は、不思議だ」

「どうしてそう思う?」

「君は、まだ1日も経っていないのにこの本丸にすっかり馴染んじゃったし。」
「あの大倶利伽羅があんなに饒舌に喋って自分から慣れ合うの初めて見たよ……それに、君は凄く優しいし」

「そうかい?こう見えて私は燭台切やほかには劣るが、戦場に出れば変わるんだぞ」

「はは、それは一度見て見たいものだね」

「いずれ見せてやるさ」


そう言うと、燭台切はニコリと笑って私の背中を軽くぽんと叩いた。


「楽しみにしておくよ」





やっぱりその時も、彼の手は少しだけ熱かった、ような気がした。

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