愛される刀というもの
「……へえ、兵隊切と狂い桜は最近実装されたばかりなんだなあ」
「主、何を読んでいるんだい?」
「師匠からのメール。「うちの本丸に兵隊切椿と狂い桜光法という刀剣男士がやってきました。よろしければ情報をお願いします」ってメールしたんだよ」
「新しい刀剣男士だなんてそれこそ、一番最初に審神者界の重鎮である師匠のところに行くだろうしね」
「そしたら、なんて?」
「んー、なんかね、彼らは色んなものに好かれて愛されやすいらしいよ……「椿」「桜」名前の通り植物、動物……刀剣男士も例に漏れず。」
「まあ、師匠んとこはみんな師匠にゾッコンだからねえ、あっちだと私の妄想みたいに腐りはしないな」
「ぞっこん?」
「首ったけって事」
主はそう言って、ぱそこんを閉じたかと思えば、
僕の方へ向き直る。
その顔は、いつもヘラヘラした主の顔じゃなくて、真剣そのものだった。
「もしかしてだけどさあ……本丸みんなあの二人の虜に、すでになっちゃってたり、する?」
「もちろん……光忠、君自体も」
……ああ、主はこういうところは変に鋭かったな。
「なーんかおかしいと思ったんだよ。やけに私の霊力が高まってる気がしてさ」
「……どうしてかと思っていたら、気づいちゃったわけだよ……狂い桜に短刀や脇差達が見惚れてたんだ」
「さすがだね、そういうところは見逃さないか」
「私のソウルに眠るお腐れ神を舐めちゃあいけないぜ、光忠」
「それはともかく……主の言う通り、本丸のみんなが彼らに「ぞっこん」みたいだね」
「兵隊切は打刀、太刀、大太刀、槍に。」
「狂い桜は短刀、脇差、薙刀に。」
「……まあ、太刀が狂い桜を見ていたり、短刀が兵隊切を見ていたりもしたから、これに限った話ではないと思うけど」
「うわー……マジかよ……」
「あのさ、私前にも言ったけど、ホモ……まあつまり衆道関連でしか霊力貯められない、って言ったよね」
「うん」
「だけど、うちの本丸じゃあそういう事はなーーーーんにも起きなかった!!」
「そりゃそうだよ」
「よく霊力不足になるからこんのすけと政府に泣きついて薄い本仕入れにこまめに現世帰ってもいいっていう許可まで取った!」
「あの時は大変だったねえ」
「それなのに、あの2人に一目惚れってあーた……それ、どんなでけえフラグだよ!!!」
「師匠にそれ言ったら(´・ω・`;)の顔文字しか帰ってこなかったよこんちくしょう!!!」
「まあまあ落ち着いて、主」
「……光忠、正直に言ってね……兵隊切の事、どう思う?」
「恋愛的な意味で好き。一目惚れだったよ」
「……ああもう、そう言うと思ったさ!お前らは気づいてないと思うけど兵隊切と出会った瞬間から顔地味に赤かったぞ!!」
「わぁい光忠のホモ発言で霊力が!さにわホモと霊力大好き!ってバカ野郎!!」
「主ほんと落ち着いて。どんどん口調がひどくなってる」
「……まあさあ、あのさあ、お腐れ様飼ってる審神者(わたし)の身としちゃあ、ホモネタも霊力も嬉しいよ?」
「審神者名からすでに滲み出てるもんね。たぶん他の審神者のみんなは元ネタほぼ知らないと思うけど」
「うん、今まで「あ、察した」って顔したのは刀剣男士のみんなと師匠だけだったよ……って今はそう言う話じゃねえやい!」
そう言うと、主は僕の肩を軽く、でも力強く掴んだ。
「……いい、光忠?誰か一人でもあの二人に無体働いて泣かせたら、私は審神者をやめるよ。」
「もちろんみんな刀解だ。光忠も、あの二人も含めて、ね」
……僕らの主は優しいけど、本当に残酷な人だなあ。
本当は、今すぐにでも組み敷いてしまいたいくらいなのに。
きっと、僕だけじゃなくて本丸中、そんな欲で埋まってる。
人の体を持ったが故の、欲。
「そんなことしないよ」
「そう?ならいいの。合意の上なら彼らも幸せだし、私も幸せになれるからね!!」
「……じゃあ今の言葉、他の子達にもよろしくね?」
……本当、優しいけど残酷な人だ。
そんな事が執務室で起こっているとも知らないで、
兵隊切と狂い桜はお互い、自分にあてがわれた部屋で眠る準備を始めようとしていた。
「にいやんいがいと、ねるのはじめて……!」
「ねえねえ、ボクと一緒に寝よう!」
「ズルいぞ乱!オレだって一緒に寝たい!」
「僕だって……」
我先にと狂い桜の布団へと潜り込むみんなに、狂い桜はおどおどしながらも嬉しそうな笑顔を見せた。
「はいはーい、喧嘩しないの!狂い桜が困ってるでしょう?」
「あ、あるじさまだー」
「その布団じゃみんな入れないから、今日のところはじゃんけんで決めなさい!そのうちみんなで入れるようなおっきいお布団買ってあげるから!」
「本当ですか!?」
「やったあ!」
そのあと、(気迫だけなら手合わせ級の)じゃんけんで
小夜と博多が一緒に狂い桜と眠ることになった。
「……やった」
「やった!勝った甲斐のあっけん!」
「よかったねえ、2人とも。」
道祖王が博多と小夜をなでなでしていると、
袴をくいくい引っ張られる感触。
何だろう、と振り向くと、
そこには狂い桜が困った顔をして立っていた。
「……あるじさま」
「ん、狂い桜……どうしたの?」
「ぼく、みんなみたいにねむれるかわかりません」
「あらら、そっか。君は体を持つのが初めてだったね」
「……ぼく、いつもひとりで、とうめいなはこのなかにいて、ねむったことなんか、なくて」
その言葉を聞いて、道祖王は一瞬表情を曇らせると、すぐに笑顔に戻った。
そして、近くに居た小夜と博多の背を押して、狂い桜に近づける。
「だあいじょうぶ!この二人と一緒なら、すぐに寝ちゃえるよ。」
「ね、2人とも!」
「そげんたい!俺、主のするごたあに狂い桜んこつば、ギュってしちゃー!」
「僕も……」
狂い桜は自分を抱きしめた博多と小夜にビックリしたような顔をしたが、
すぐに嬉しそうな笑顔になり、「えへへ、うれしいれす!」と声を弾ませて言ったので、
道祖王はほっ、と胸を撫で下ろした。
(博多藤四郎の博多弁はもんじろう - 言葉・方言変換サイトより引用。たぶん間違っていますので大目に見てください。)
「はい、じゃあ消すよ、みんなお休み」
「「「「おやすみなさい!」」」」
ぱちん、と電気を消して主が居なくなれば。
やることは一つしかあるまい。
「ねえねえ、狂い桜」
「?」
「狂い桜のこと、もっと僕達に教えてください」
秋田のその言葉に、狂い桜は博多と小夜に抱きしめられたまま、
ぽつりぽつりと思い出話を始めた。
「いいよ、ぼくのことおしえるね……ぼくねえ、はるにうまれたんら。さくらのきれいな、はれのひらった」
「ぼくをつくったひとは、ひとがいう“おとうさん”みたいれ、やさしいひとらった」
『お前は兵隊切と並んで、私の素晴らしい作品だよ』
『どうか、私がこれからお前を渡す新しい主に、可愛がって貰いなさい』
『お前の兄である兵隊切も、そこで待っているから』
「あたらしいあるじは、さくらがとってもらいすきれ、ぼくをおおきなさくらのきのまえれぬいた」
「そしたら、さくらのきがぼくをすきになっちゃって、きせつかんけいなしにくるったようにさくようになっちゃったんら」
「らから、ぼくのなまえは「くるいざくらみつのり」になったんら」
自分の名の由来を話した後から、狂い桜はどんどん自分の事を話した。
……それはまるで、今まで聞いてくれる人がいなかったかのように。
短刀達も何かを察したのか、誰一人眠ることなく話に耳を傾けた。
「ぼく、あのあるじさまに、このほんまるに、よびらされてうれしかった」
「ぼくらがきていちにちもたってないのに、みんながぼくらにやさしくて、たのしくて、ぜんぶがぜんぶ、はじめてらったから」
「らからぼく、みんならいすきらよ」
「……ごめんね、おそくまれはなしちゃって。みんな、もうねよう」
嬉しそうに笑うその声に、隣で話を聞いていた小夜と博多は、抱きしめる腕の力を強めた。
そして二人のその腕の暖かいぬくもりに、狂い桜は自分も知らない間に眠りに落ちていった。
「優しくしろ、とは言ったものの……」
「この調子だと、そうそう時間はかからないね、こりゃあ」
そう言うと、道祖王は頭を軽く掻いた。
「三条組とかがさっさと手を出しそうだから怖いんだよねえ……」
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