君が流したユメナミダ。


審神者への誘い


「それで・・・昆陽ゆらぎ様、貴方様には審神者をやって頂きたいと思いまして・・・」

「・・・おーやおや、物騒だねえ。政府はこんなババアを現世に引っ張り出そうってのかい?」


ぷかり、と煙草の煙を吐く。
ゆらぎはため息を一つつくと、手に持った煙管の灰を落とした。

「政府からの使者」と名乗った男は、
ゆらぎの言った言葉に眉を寄せる事もせず、淡々と話し続けた。


「・・・いえ、“史実”をよくご存じの貴方が審神者に誰よりも適任、ただそれだけの事です」
「それに、貴方には審神者の力がある。・・・それを埋めてしまうのは惜しいとは思いませんか?」

「おや、まあ!・・・あたしがそれを断ったらどうするつもりだい?」
「・・・お前さんの懐に入ってる「銃」とやらで、あたしを撃ち抜くかい?」


ゆらぎが銃の事を口に出すと、
男の肩が、僅かにだがピクリと揺れた。

それを見ると、ゆらぎは少し大きな声でけらけらと笑った。


「おーやおや・・・ババアの感も捨てたもんじゃないね!」
「・・・まさか政府があたしを脅しにかかるとはねえ、こりゃあ参った!」


ひとしきり笑うと、ゆらぎはもう一度煙管に溜まった灰を落とした。
そして、さっきの笑い顔とは全く違う怒りを込めた顔で、使者をギロリと睨んだ。


「お前さん、分かってんのかい?あたしを殺すってことが、どれだけ大それたことか・・・」
「・・・まあ、そんなチンケなもんじゃあたしは殺せやしないさ。千年も生きてんだ、あたしを舐めんじゃないよ」

「・・・」


使者は言う言葉がない、と言うような顔をしてうつむく。



「・・・まあいい。審神者とやら・・・引き受けてやろうじゃないか?」





(・・・ずっと気に入っていたこの住まいとも、とうとうお別れか)






ゆらぎはそう考えると、また煙をぷかりと吐いた。



・・・そして、それから一月過ぎたころ。


前の住まいの荷物を少しずつ運び込み、
本丸でもなんとか生活が出来るようになってきた頃。



「・・・おやおや、また老けてしまったのかい・・・」



鏡台の前でため息をつく、一人の老婆。
・・・何を隠そう、この老婆はゆらぎ自身であった。

ゆらぎは遠い昔に受けた呪いのせいで絶対に死ぬことはなく、
ひと月の周期で極端に若くなっては老いて、を繰り返す。



そして・・・ちょうど今は老婆として過ごす時期であった。



「この姿だと、出来ることが限られてしまうねえ・・・」



ゆらぎはもう一度ため息をつくと、
真っ白な白髪に変わってしまった自分の髪を整え始めた。



「・・・でも、ここは神域だからかねえ?」
「体も腰もあまり痛くないし、動き回れるくらいには調子がいいねぇ」



その時ゆらぎの耳に、
ドンドン!と、本丸の門を少し乱暴に叩く音が聞こえた。



「・・・あら、お客さんかねえ?」


そう呟くと、ゆらぎはゆっくりと動き出す。


「はいはい、今行きますよ」



よっこいしょ、と少し重い腰を持ち上げ、
ゆらぎはゆっくりと歩き出した。







「ゆらぎ様!いらっしゃるのでしょう!?ゆらぎ様!」
「はいはい・・・ごめんなさいねえ。ちょうど今はババアの時期なものでね」


ゆっくりした足取りで本丸の門を開けると、
そこには、一人の青年が背中にたくさんの刀袋や刀箱を背負っていた。


青年は老婆のゆらぎを見て一瞬怪訝な顔を浮かべたが、すぐに笑顔に戻り、
頭を勢いよく振り下げてお辞儀した。


「政府から参りました!」
「・・・おや、それはご苦労様。お茶でも出すからお入りなさい」


ゆらぎはニコリと笑うと、青年を本丸へと引き入れた。



「・・・刀を、持ってきた?」


ゆらぎがそう言うと、青年はお茶をぐっと一気に飲みほしてから返事をした。


「あ、はい。審神者の方には『私の目の前で』刀を一つ、刀剣男士一人にに変えていただくルールのようなものがございまして・・・」

「・・・貴方の、目の前で?」

「はい。これは、その方が本当に「審神者としての力を持ち合わせているか」のテストにも兼ねておりますので」

「ふむ・・・私に出来るか、心配になって来たわねぇ・・・」

「いえいえ、ゆらぎ様なら絶対に大丈夫ですよ!」

「あら、どうして?」

「貴方には、何かを感じますから。・・・よいしょっと」


そう言うと、青年は背中に担いだままだったたくさんの刀箱や刀袋を優しく畳の上へと下ろす。


そして、一つずつ袋や箱を開けて、ゆっくりとゆらぎに刀を見せていった。




「・・・これは“加州清光”でございます。新撰組で有名な「沖田総司」の打刀でして」


「こちらは、“歌仙兼定”でございます。歴代兼定でも随一と呼ばれる二台目、通称之定が打った打刀です」


「えっと・・・こちらは“陸奥守吉行”、元はあの「坂本龍馬」の佩刀でございます。打刀ですよ」


「こちらは“蜂須賀虎徹”でございます。蜂須賀家に伝来したことにより、この名前になったそうで・・・」




そんな風に1本ずつ刀を見ていくと、
ゆらぎは、ある1本の刀に目を奪われた。
そして、すぐ青年に刀の名前を聞く。



「あら・・・これは、なんという刀?」


「ああ、それは“山姥切国広”と申しまして・・・写しの打刀でございますよ」

「・・・写し?」

「足利城主「長尾顕長」の依頼で“山姥切”と言う刀を模して打たれた打刀でございます。」
「・・・ですが、国広の最高傑作と呼ばれる刀ですので、切れ味は保障いたしますよ」


そう言うと、青年は山姥切国広をゆらぎに手渡した。

ゆらぎは山姥切国広を鞘から少しだけ抜いて、刃をしばらくじっと見つめた。


「綺麗な、刀ねえ・・・」

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