今度は絶対に
(ツキヨと紅葉(シキ)の昔話)
(ちょいぐろ)
・・・あなたは、私が今まで出会った人間の中で、
一番美しく、一番優しい女性でした。
「紅葉さま!そんな汚らしい猫を触ってはいけません!」
「あら、どうして?この子は少し泥で汚れているだけよ。お腹もすいているみたいだし・・・」
「では、私たちが洗いますから!お渡しください!」
「いやよ。私が洗ってあげるの。それでこの子は私の友達になってもらうわ!」
トモ・・・ダチ・・・?
「・・・さあ、これで綺麗になった。お前は本当は雪みたいに真っ白な白猫だったのね」
水で綺麗に洗ってもらい、エサも貰ってお腹いっぱい。
紅葉の膝の上で、幸せそうにぐるぐると喉を鳴らし、ツキヨは静かに撫でられていた。
「お前に名前を付けてあげようね。お前は真っ白で満月のように綺麗だから、「ツキヨ」と言う名前を付けてあげるね。」
「にゃ〜ん・・・」
「ふふ、ツキヨ。お前は私の友達だよ。」
そう言うと、紅葉はツキヨを胸に抱き、ころんと寝転がる。
そのうち、ぽつぽつとこんな話を始めた。
「・・・私は、逃げてきたんだ。意味の分からない僧に、「この娘のせいで経基さまが病にかかった」なんて・・・」
「確かに、私は魔王に祈って生まれた子だと聞く。だけど病は私のせいじゃない・・・」
「愛している夫に、そんなことをする妻がどこに居るかしら?」
ツキヨを抱きしめ、くすんくすんと泣き出す紅葉。
「京に、帰りたい」
・・・あなたは、なんと悲しい人だ。
勝手に鬼女呼ばわりされ、愛した人から引き離され、
こんな山の村に身を潜めなければならないとは。
「みゃあ」
「・・・ああ、ごめんねツキヨ。こんな話を急にしちゃって」
神様、お願いです。
私の命などいくらでも捧げましょう。
だから、この人に幸せを返してあげてください。
・・・そう何度も、願ったのに。
「鬼女紅葉、この月山 義信が召し取ったり!!」
・・・やめろ、主人からその汚らしい足をどけろ!
「げほっ・・・つ、きよ・・・?」
「にゃあ、にゃあ!!」
「・・・にげ、て。ここは戦場に、なった、の」
胸に刀を刺され、侍に踏まれ、
息も絶え絶えでツキヨに話かける。
「・・・ごめんね、ツキヨ」
「私は、死んだら絶対に妖怪になるわ」
「お前は、私のことなど気にせず極楽へ行くといい」
「みゃあ!」
「・・・さあ、お行き!兵士の食糧にでもされたらどうするの!」
手をぶんぶんと振り、私を追い払おうとする主人。
・・・いやだ、離れたくない。
まだあなたのそばに居たい!
「おい、鬼女が生き返ったら厄介だ」
「早く首をはねておけよ」
「もちろんだ。・・・よっと」
まるで魚の首でも取るかのように、
主人の首は、切り取られてごろんと落ちた。
「お、あそこに猫がいるぞ」
「久しぶりに肉にありつけるぜ、捕って食っちまえよ」
・・・よくも、主人を!
あんなにやさしく美しい主人はいなかった!
あの人は「貴女」だ!
「鬼女」なのではない!
人間にも、私達畜生にも、やさしくしてくれたあの人を!
・・・よくも!!
主人、分かりました。
・・・私も死んだら、妖怪になりましょう。
ただの猫又でも化け猫でもない妖怪に。
この大きな戦火を一瞬で消せるほど、大きな力を持った妖怪に。
そうしたら、今度はあなたと永遠にいられる。
まな板に押さえつけられ、振り下ろされた包丁を一瞬だけ見て、
私はそのまま目を閉じた。
今度は絶対に
ただの昔話。
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