君が流したユメナミダ。


シロツメクサの指輪


「みんな、今日から新しいお友達が増えますよ!」
「えっ?」
「だれだれー?」

「・・・どうけ、しゆうです」

そのとき、詩優は狐のお面をつけていた。
名前を言うと、詩優は恥ずかしいのか、
すぐに先生の影に隠れてしまった。

「おめんつけてるー」
「きもちわるいやつ!」
「こわーい!」

そして詩優は、仮面をつけていることから
なかなか友達が出来なかった。
だからいつも1人で、絵本を読んでいた。

「・・・」
「ねぇ」
「え?」
「きみ、なまえは?わすれちゃったんだ」
「・・・どうけ、しゆう。」
「しゆうかぁ!ぼくは、きやまひろとっていうんだ!」
「ひろ、と・・・」
「きみは、みんなとあそばないの?」
「・・・ぼく、おめんつけてるから、こわいでしょ?」
「ううん、こわくなんかないよ」
「・・・ふにっ?」

詩優は、びっくりした顔でヒロトを見た。

「ぼくはしゆうのこと、すきだよ?」
「ひろと、ぼくがこわくないの?」
「うん、ぜんぜんこわくない!」

詩優は、静かにお面の下で笑った。

「しゆう、ぼくたちといっしょにあそぼうよ!」
「ぼく、たち?」
「うん!ふーすけとはるやと・・・とにかくいっぱいともだちがいるんだ!」
「・・・いいよ。ぼくはえほんよんでるほうがすきだから・・・」

そういうと、詩優はいそいそと
絵本を抱えてどこかに行ってしまった。

「しゆう・・・」


そしてしばらくして、ヒロトと詩優はもっと仲が良くなった。

初めはオドオドしていたが、風介や晴矢とも仲が良くなっていった。

「しゆう。ぼくね、しゆうとであえてよかった」
「ひろと、きゅうになにいいだすの?」
「ぼく・・・しゆうがだいすき!」
「うん、ぼくもひろとがだいすきだよ」
「そうじゃなくてー・・・」

そう言うと、ヒロトは詩優の左手を掴み、
薬指にシロツメクサの指輪をはめた。

「なあに、これ?」
「せんせーからきいた。けっこんするときは、ひだりてのくすりゆびにゆびわをはめるって」
「け、けっこん!?」
「しゆうはぼくのおよめさんになるんだ!」

ヒロトは詩優をギュッと抱きしめた。

「ひろ、と・・・」
「しゆう、しゆうはぼくがきらい?」
「きらいじゃないよ・・・」

でもぼくは、いらないこだから。
きっとおとうさまみたいに、ひろともぼくをきらいになるかもしれない。

「ひろと、ぼく・・・・」
「詩優くん、ヒロトくん!何してるの?」

詩優がそう言いかけると、先生の声がした。

「せんせー。」
「おやつの時間ですよ?早く中に入りましょうね。」
「はーい。」
「あら?詩優くん、可愛いシロツメクサの指輪ね。誰にしてもらったの?」
「・・・・ひろと」
「ヒロトくんにかぁ。よかったねー。」

結局その日、ヒロトが詩優の返事を聞くことはなかった。


しばらくたった、ある日のこと。

「・・・ねぇ、そのおめんとってみてよ!」
「ふにっ!?だ、だめだよ・・・」
「なんでだめなの?ぼく、しゆうのかお、みてみたいんだ!」
「ふにぃ・・・だってぼく、おとうさんにいつも「おまえはみにくい」っていわれていたんだもん・・・だからおめんとらないんだ」
「ぼくなにもいわないから!ね?すこしだけ!」
「しょうがないなぁ・・・ひろとにだけだからね?」

詩優はオドオドしながら、ゆっくりとお面の紐を外して・・・素顔を見せた。

「・・・///(すごく、かっこいい・・・!)」
「・・・だからだめだっていったのに。・・・ふにっ。」

詩優は、泣きそうな顔になった。

「いや!そうじゃないんだよ!ぼく、しゆうのかおにみとれてたんだよ!」
「・・・ほんとうに?」
「うんっ!」
「ぼくのこと、そういってくれたのはひろとだけだよ・・・」
「だいじょうぶだよ!しゆうはみにくくなんかないから!」
「そう?」

詩優は、首をかしげながらお面を付け直した。

「ねぇ、しゆう!」
「なに?」
「まえにもきいたけど・・・ぼくのおよめさんになってくれる!?」
「えっ!?」
「いいよね?」
「・・・うん!いいよ!・・・でもね、ひとつやくそくしてくれる?」
「いいよ?」
「いつかぼくがどこかにいっちゃったときは・・・ひろと、ぼくをさがしてくれる?」
「いいよ!ぜったいにしゆうをみつけだして、ぼくのおよめさんにしてあげるから!」
「・・・うれしい!ありがとうひろと!」

その時、なぜ詩優が
あんなことを言ったのかはわからなかった。
だけれど・・・俺はその言葉を理解する出来事に遭遇した。

「みんな聞いてー!突然ですが、詩優くんの新しいお父さんが決まりました!」
「えーっ!?」
「しゆう、どっかいっちゃうの!?」
「寂しいけど、みんな詩優くんを笑って送り出してあげましょうね!」
「せんせー!しゆう、いついなくなっちゃうの!?」

ヒロトは叫ぶようにそう言った。

「あさってには新しいお父さんのところに行くわ。明日にはお別れ会をしましょうね」

「(そんな・・・しゆう、いなくなっちゃうの?)」


「しゆう・・・いなくなっちゃうの?」
「うん。きのうね、おとこのひとがきたんだ・・・」
「それが、しゆうのあたらしいおとうさん?」
「うん。」

詩優は珍しく、自分から仮面を外し
素顔を見せていた。

詩優の深緑の瞳には、大粒の涙がたくさん溜まっていた。

「ぼく、ほんとはひろととはなれたくない!」
「しゆう」
「ひろとがすきなんだもん!ひろとはぼくのなんだもん!」
「しゆう」
「ひろ、と」
「なかないで、しゆう。ぼくはしゆうがどこにいったって、みつけてあげるから」
「ひろと・・・」

ちゅっ

子供らしい、頬に軽く触れるだけのキス。

「しゆう、すき」
「ぼくも、すき!」
「ぜったい、むかえにいくよ」
「じゃあゆびきりしよ!」




ゆーびきーりげんまん

うそつーいたら

はりせんぼんのーます

ゆびきった




「ひろと、これあげるよ」

詩優は、母親の形見の仮面を差し出した。

「これ、だいじにしてた・・・」
「いいんだよ、これをぼくだとおもってくれたら」
「ありがと、しゆう」
「どういたしまして、ひろと」



深緑の瞳から、また涙が零れた。




そして次の日。

「いままで、ありがとうございましたぁ!」
「詩優くん、元気でね」
「うん!」
「では、失礼します」

そういうと、男は詩優の手を握って車に乗せた。

「詩優ちゃん、これどうぞ」
「じゅーすだっ!もらってもいいの?」
「いいのよ。」

詩優はもらったジュースを飲み干した。
すると、急に眠気が襲ってきた。

「あれ・・・ねむい・・・」
「じゃあ寝なさい。」
「うん・・・おやすみ・・・」

詩優は、すやすやと寝息を立てて眠った。

「起きたら地獄が待ってるから・・・」

その言葉を聞くことなく。

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