君が流したユメナミダ。


「箱」の中の羊


「・・・え?」

《羊の絵を描いて。》


そこに居たのは、

ふわりと長い金髪を靡かせて、

蒼い瞳をきらきらと輝かせた、

一人の少女だった。




大切なことだから確認しておくよ。

ここは人里から1000マイル離れた砂漠。
そんでもってこの子は、どう見ても行き倒れじゃない。

「ね、羊の絵を描いてよ。」
「(・・・これは夢なのかな。そうだ、夢に違いない。)」
「何ブツブツ言ってるの?早く羊の絵を描いてよ!」
「・・・うん、いいよ。」
「やったぁ!」

とは言え、僕に描ける絵なんて・・・

「出来たよ。」



「・・・これじゃない。」
「ゾウを飲み込んだ蛇の絵なんて頼んでないよぅ。」
「Σ・・・!?」
「ゾウなんて場所とって大変だもん。私のところ、ちっぽけだから羊が欲しいの。」
「だからね、羊を描いてよ。」
「う、うん。羊だね・・・」

内心ビックリしながらも、僕は羊を描いた。

「よし、完成。」
「ひ弱そうだなぁ。もっと長生きする羊を描いて欲しいの。」
「わかった。・・・これは?」
「う〜ん、ツノが欲しい。」
「・・・じゃあこれは?」
「えー?一番弱そうだよぅ。もっと強そうなのがいいー。」
「うーん・・・(困った・・・あ、そうだ!)」


「はい。」
「ん?」



「この箱の中に、キミが欲しがっている羊が居るよ。」
「・・・・・・・」
「(やっぱり、駄目だったかなぁ・・・)」

駄目出しされるのは、承知の上だった。

「本当!?」
「え?」
「わぁっ、本当だ!私、こんな可愛い羊が欲しかったの!」
「本当に?」
「うん!・・・ね、この羊、草をいっぱい食べるかな。」
「え?うん・・・なんで?」
「・・・私のところ、本当にちっぽけだから。」
「大丈夫だよ。僕が描いた羊はとても小さいから。」
「あー・・・でもそんなにちっぽけじゃないかな。」
「あ、ふふっ、この羊、寝ちゃった。」



そして。

「(夢だと思ってたら夜が明けた・・・)」
「(と言うか・・・)」

「ねぇねぇ、この羊、私のところの草好きかなぁ。」


「(夢じゃなかった・・・)」


【2日目】


「・・・」
「(飛行機を凄く見てる・・・初めて見たのかな)」
「ねぇ、これなあに?しなもの?」
「しなものじゃなくて、僕が乗ってきた飛行機だよ。早く直さないと・・・」
「ヒコーキ?」
「それで飛んできたんだよ。でも途中で壊れちゃって・・・」
「Σえっ、これ飛ぶの!?」
「そう、飛ぶよ。僕はね、空を飛べる人間なんだ。」
「じ、じゃあ、あなたは天から落ちてきたの!?」
「まぁ、そうなるかな。」
「そうなの、そりゃあ・・・ふふっ、あははっ!」
「そ、そんなに笑うことかなぁ?」

急に笑い出した彼女に、僕はそう聞いた。


「ふふっ、だってあなた・・・天から落ちてきたなんて・・・」
「(ちょ、調子に乗りすぎたかなぁ・・・?)」
「私と同じなんだもの。・・・ところで、あなたはどこの星から来たの?」
「・・・星?」
「ねぇ、あなたの星はどんなところなの?」
「ちょ、ちょっと待って!キミはどこか別の星から来たって言うの!?」
「え。・・・そっか、じゃあそんなに遠いところから来たわけじゃ、ないんだね。」
「ねぇ、教えて。キミは一体どこから来たの?」
「「私のところ」って、どこなんだい?僕の描いた羊を、どこに連れて行くの?」
「・・・よかった」
「へ?」
「これ。」

そう言うと、彼女は絵の箱を指差した。

「あなたのくれた箱・・・これ、羊の家にぴったりなの。」
「そっか。なんなら、綱も描くよ?それで羊を繋いでおけばいいから。」
「・・・綱?繋ぐ?変な事言うのね、あなた。」
「え?・・・だって、羊が迷子になっちゃうよ?」
「迷子になんて、ならないわ。」
「だって、まっすぐまっすぐどんどん行っちゃったら、居場所が分からなくなっちゃうよ?」

そう僕が言ったら、
彼女は軽くはにかんで、こう言った。

「・・・大丈夫。私のところ、本当に小さいの。」
「どこまでもまっすぐ行ったって、そう遠くには行けやしないの。」
「・・・それって・・・」
「あぁ、ここの空は、蒼いのね。」
「・・・え?」
「私のところと似てるの。私のところね、空も星も、もうちょっと濃い青色なの。」
「ここの、夜明け前の空みたいな色なの。私のスカートの色みたいなの。」
「蒼くて、ちっぽけで、でも綺麗な星に住んでるの。だから私はステラ。」
「・・・あ、僕は吹雪士郎って言うんだ・・・。」
「へぇ、カッコいい名前だね。」
「ステラ、の星はそんなに小さいの?羊がまっすぐどんどん行けないくらいに?」
「・・・うん。でも私にはちょうどいい大きさなんだけどね。」
「ふぅん・・・じゃあ小惑星あたりかなぁ。」
「ショーワクセイ?何それ?」
「あっ、いや、なんでもないよ」
「ねぇねぇ!ショーワクセイって何!?」

ステラの勢いに負けて、僕は話し始めた。


「・・・ここではね、新しい星を発見した人は、その人が発見した星に名前をつけて、みんなに発表するんだ。」
「・・・でもね、あるときB-612っていう星を見つけた人が居たんだ。だけど、その人はみんなに相手にされなかったんだ」
「・・・どうして?」
「服がとても乱雑だったからさ。」
「へぇ・・・」
「そして次の年、またその人は同じ星を発表したんだ。・・・そして、今度はみんなに受け入れられたんだ。」
「どうして?」
「・・・ちゃんとした服を着ていたからさ。」

僕がそういうと、ステラは
凄くビックリした顔をして、こう言った。

「・・・どうして?私、服なんて気にしないよ?」
「気にする人が居るんだよ。そういう、目に見える分かりやすさを欲しがる人が。」
「僕も、今まさにそうなってた。ステラの星は小惑星の何番だって、自分に分かるように決め付けようとしてた。」
「ただ、「夜明け前の空のような色をした星」・・・それで十分だったのにね。」
「うん。私のところはそう。ショーワクセイの何番かなんて、私には分からないしどうでもいいから。」
「・・・でも「目に見える分かりやすさ」って、なあに?」

首を少しかしげて、可愛らしく聞くステラ。

「・・・例えば、ステラのこともだよ」
「私のことも?」
「そう。身長は何センチで、趣味は何で、故郷の星は何番で・・・。」
「そういう言い方じゃないと、キミをイメージすら出来ないこともあるんだよ」
「変なの!私はそんな数字、一つも知らないのに。」
「そうだよ。キミの名前はステラで、よく笑う子で、羊を欲しがってた。」
「・・・これで、十分なんだよ」
「そうね!!」

あまりに突拍子も無い話だけど、

ステラは他の星から来た王女さまだって、

僕は当たり前のように信じた。

なぜなら・・・・


ステラには、あの「帽子」の中の
ゾウが、見えていたから。




だけど僕は・・・




キミみたいに、「箱」の中の羊が見えないんだ。


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