君が流したユメナミダ。


薔薇


それから、僕達は仲直りをして、いろんなことを教えあった。

僕はいくらもたたないうちに、その花がどんな花なのか、
もっとよく知るようになった。

「・・・私のところね、小さくてすっきりした花ならたくさん咲いてたよ。」
「草の中に咲いて、夕方になれば、いつの間にか消えているような花。」
「でもある日、どこからか種が飛んできたの。」



そう、種が飛んできて・・・



ステラの長い旅が始まった。


「・・・何かなぁ、この芽。はじめて見るけど。」
「まさか新種のバオバブ?だったら早く引っこ抜かなきゃいけないけど・・・」



「・・・様子を見てみるか。」



「バオバブ・・・じゃなかったみたい。」
「・・・あれ?つぼみだよね、これ。」
「どんな花が咲くのかな。早く顔を見せて欲しいなぁ。」

しかし、1週間経っても、
花は化粧をやめようとしません。
まるで、1枚1枚花弁を整えて、綺麗に咲こうとしているようでした。


そして、暫くたったある日。

「ふわ〜ぁ・・・あ?」
「Σあっ!!」



いつの間にか、
真っ赤で綺麗な、薔薇が咲いていたのです。
ステラは一瞬驚いたが、すぐに笑顔になってこう言った。


「綺麗だなぁ!!」
≪当たり前でしょ?≫



≪俺は、お日様と一緒に生まれたんだから。≫

ステラは、この花はあんまり謙遜じゃないな、と、
確かに思いはしました。

が、本当にその薔薇は綺麗で、
ホロリと泣いてしまいそうなほどでした。

「うん、本当にキミは綺麗!」
≪今、朝ごはんの時間だよね。・・・俺にも、何かくれないかな?≫
「う、うん!ちょっと待ってて!」

お気に入りのピンクのジョウロに、たっぷりと水を入れて。
ステラはそれを薔薇にかけてあげて、薔薇に朝ごはんをあげました。

「(・・・不思議だなぁ、この花を見てると、だんだん人に見えてくる・・・)」
「(赤い髪の男の子に、だんだんと見えてきて、表情まで分かるようだなぁ・・・)」
≪あ、まだ髪を梳かしてなかった・・・≫
≪ん?何、ジロジロ見たりして。≫
「キミみたいに綺麗な花、初めて見たの。キミはなんていうお花なの?」
≪そんなことも知らないの?俺は薔薇。美しいのは、まぁ当然かな。≫
「へぇー。」
≪虎に狙われるかもしれないな。美しいのも考え物だね≫
「ここに虎はいないよ?それに虎は草なんか食べないし・・・」
≪俺は草じゃないよ≫
「あ・・・ごめんなさい。」
≪虎なんて、ちっとも怖くなんてないさ。≫
≪それより、ここの風が気に食わないんだ。ついたてを用意してくれないかな?≫
「ついたて?わ、分かった!」
≪あと、夕方になったら、ガラスの覆いを被せて。ここは寒くて嫌だから。≫
≪星の位置が悪いんじゃ?俺のもと居た国では・・・≫

薔薇は、こういいかけて口をつぐんだ。
もと居たと言っても、薔薇がいたのではなく、種がいたのでした。
ですから、薔薇が他の世界なんて知っているわけがありません。
薔薇は、すぐばれるような嘘をついたのが恥ずかしくなったのか、二、三度せきをした。

「もと居た国・・・?キミって種なんじゃ・・・」
≪・・・ついたては、どうしたの?≫
「いや、取りに行こうとしたら、キミが喋るもんだから・・・」
≪・・・そう。≫
「・・・」



それからというもの、ステラはちゃんと
ついたてを用意して、
毎日、夕方になったら
薔薇にガラスの覆いを被せたりした。


「あの花の言うことなんて、聞いてはいけなかったんだわ。花は眺めるもの。匂いを嗅ぐもの。」
「・・・わがままで、意地っ張りで、私を困らせてばかり。」
「あの花は本当に綺麗だったし、私の周りも、私の星もいい香りに包まれてたわ。」
「・・・だけども、私はちっとも楽しくなんてなかった。」
「・・・・」

「私はあの時、何も分かってなかった。花の言うことを真に受けて。」
「大人たちは、花の言うことなんていい加減に聞いていればいいなんて言うけど・・・」

「あの花のおかげで、私は明るい光の中にいたの。何があっても、あの花から逃げちゃいけなかった。」
「花の心の根っこを、見てやらなきゃいけなかったの。」

「花のすることってとんちんかんでね」

「私はあまりにも子供だったから、花を愛するってことが、わかってなかったんだわ。」


「あとね、私の星には火山もあったの。」
「火山?」
「そう、それも2つ!朝ごはんを温めるときとかに便利だったんだ。」
「え?」
「あと休火山も1つね。火山って、ちゃんと煤を払ってやれば、爆発なんてしないんだ」
「ちょ、ちょっと待って!朝ごはんを温めるとか、煤を払うとか、どういう状況なの?」
「あはは!士郎も自分のところと同じように考えてるでしょ?」
「・・・え?」
「私のところ、すごくちっぽけなの。・・・だからね」
「・・・あ!」
「私のひざくらいの大きさの火山なの。」
「そうね、あの日も・・・念入りに煤を払ったっけ。」


「・・・よし。」


いつも通りに、だけど念入りに・・・
バオバブの木を引っこ抜いて、
火山の煤を綺麗に払った。

そして、薔薇の花に水をやり、覆いガラスをかけようとした。

だけど・・・ステラは泣きそうになった。

「・・・さよなら。」
≪・・・≫
「さよなら。」
≪・・・行くの?≫
「うん。」
≪・・・俺、馬鹿だったね≫
≪ごめんね、そしてさようなら。お幸せに・・・・≫

ステラは、薔薇がちっとも咎めようとしないので、驚いた。
なぜ薔薇が大人しくしているのか、全然わからなかったから。

「・・・君は、私を責めないの?」
≪俺・・・君が好きだ。≫
「・・・!」
≪それはもう、俺・・・君の事が、とっても好きなんだ。≫
≪・・・君がそれを知らなかったのは、俺が悪かったんだよ。≫
≪俺もそうだったけど、君もやっぱりお馬鹿さんだったんだよね。≫
≪今までごめんね。お幸せに・・・。≫

すると、薔薇はふいっと
向こうを向いてしまった。

≪もう、どうでもいいことだけどね。・・・覆いガラスはもう要らないよ。≫
「で、でも風が・・・寒いんじゃ・・・」
≪涼しくていいじゃないか、きっとさっぱりするよ。だって俺は、花なんだから。≫
「でも、獣や虫が・・・」
≪俺ね、蝶と友達になりたかったんだ。毛虫の2,3匹くらいは、我慢するよ。≫
「虎が来たら、どうするの!?」
≪俺にはトゲがあるんだよ?虎なんか怖くないさ。≫
「でも・・・だけど・・・」


≪・・・じれったいなぁ。君は何をぐずぐずしてるの?≫
≪行くのを決めたのは君でしょ?なら行きなよ、さっさと!≫
「ありがとう・・・そして、さよなら。」
≪・・・さよなら。≫

ステラは星を飛び出した。

薔薇の葉っぱに、涙の露が流れていたことも知らずに。



「(いろんなところを見ていこう)」
「(いろんな星を見て回るの)」



そして、私はある星に降り立った。




- 205 -

*前次#


ページ:



ALICE+