君が流したユメナミダ。


地球


スタッ。

「ここが・・・地球・・・?」

ステラは辺りを見回したけど、まわりは岩ばかり。

「誰も居ないけど・・・」
「まさか、星を間違えたのかな?」
「・・・こんばんわー。」

ステラは挨拶をしてみたけど、返事は返ってきませんでした。

「こ、こんばんわ・・・」
《こんばんわ。》
「えっ?」

シュル・・・

そこに居たのは、月のような色をした、
一匹の蛇でした。

《珍しいなあ、こんな所に子供が居るなんて。》
「ねぇ、私はなんていう星に落ちてきたの?」
《んー、地球のアフリカだったと思うわよ》
「あぁそうか!じゃあ、地球には、誰も居ないのね」
《そりゃ砂漠には誰も居ないわよ。》
《地球は、それはそれは大きいんだから。》

と、蛇は言った。

「そっかぁ・・・」

ステラは、近くにあった石に腰を下ろして、
星を見上げながら、こう言った。

「星が光ってるのは、みんながいつか、自分の星に帰っていけるためなのかなあ」
「私の星を見て。ちょうど真上だよ・・・」
「だけど、なんて遠いんだろう!」
《美しい星ね。》
《あなたは、どうしてここへ来たの?何をしに?》
「私、ある花と喧嘩しちゃったの。」
《ふうん。》

2人は暫く黙っていました。
その沈黙を破ったのは、ステラ。

「・・・人間達は、どこに居るの?」
「砂漠って、少し寂しいね。」
《人間達のところにいても、やっぱり寂しいわよ》

と、蛇が言った。
ステラは蛇をまじまじとみて、こう言った。

「君、変な動物ね。指みたいに、細くって・・・」
《でもあたい、王様の指より強いのよ》
「君は、強くないよ・・・きっと。」
「手も足も無いじゃない・・・。それじゃ、旅行にも行けないじゃない!」
《だとしても、あなたを遠くに運ぶことにかけちゃあ・・・》
《世界一足の速い人間だって、船だって、あたいには絶対かなやしないよ。》

蛇はそういうと、まるで金の腕輪のように、
ステラの足首に巻きついた。

《あたいが触った奴は、そいつが出てきた地面に戻してやるんだ。》
《だけどあなたは、無邪気な人だし、おまけに星からやってきたんだから・・・》
「ふーん。」
《・・・どうも調子が狂うわね。》
《あなたみたいな弱い人は、こんな岩でカチカチの地球には不釣合いよ。》
《いつか自分の星に帰りたくなったら、あたいが何とかしてあげるよ。それから・・・》
「ああ、分かったわ。だけど・・・なぜあなたは、謎のようなことばかり言うの?」

そして蛇は、ニヤリと笑って、こう言った。

《謎は、みんなあたいが解くよ》

ステラは、砂漠を横切りましたが、
たった1輪の赤い花に出くわしたきりだった。
花弁が4つの花だった。
でも、とても赤い花だった・・・。

「こんにちわ」
「よう」
「人間達は、どこにいるの?」
「あ?人間?5,6人は居るんじゃねーのか?」
「何年か前に、見かけたっきりだけどな」
「ふーん・・・」
「でもどこで会えるかはわかんねーぞ。」
「あいつらは根っこがねーからな。風に吹かれて歩き回るしかねーんだ」
「そっかぁ・・・ありがとう、お花さん。」
「あぁ。気をつけろよ。」

ステラは、大きい山の前に来た。

「おっきー・・・。これ・・・山?」
「凄いなあ。今まで膝の高さの山しか知らなかった・・・」
「あ、そうだ!この山に登ろう。こんな高い山なら、みんな一目で見渡せるよね」

そして、山の上に上りましたが、
そこからは、刃のように尖った岩のほかには、何も見えませんでした。

「・・・こんにちわ」
「・・・こんにちわー!!」

ステラは、あてもなく言った。

〈こんにちわー・・・・〉
「えっ、誰か居るの!?」
〈・・・誰か居るの?〉
「ねぇ、友達になって!私、1人なの!」
〈私、1人なの・・・・〉

こだまが応え終わると、ステラはこう思いました。

「・・・変な星。」
「カラカラで、トンガリだらけで、塩っ気ばかり。人間はだぁれも姿を見せない。」
「人の言うことをオウム返しにするきり。」

「私の星には・・・花があった。」



「あの花は、こっちが何にも言わなくたって、勝手に色々喋ってたんだけどなぁ。」

そしてステラは、砂道や岩や雪を踏み分けて、
長いこと歩いていると、やっと1本の道を見つけた。
道という物は、みんな人の居るところへ通じているものですから。

「こんにちわー。・・・あれっ?」
「この庭・・・」

そこは、薔薇の花の咲きそろっている庭でした。

「・・・こんにちわ。」
《こんにちわー》

ステラは、薔薇の花を見つめた。
なぜなら、星に残してきたあの花と似ていたから。

「あなた達、誰?」
《あたしたち、薔薇の花ー!》
「あぁ、そうか・・・」

ステラは、泣きそうになって、その庭を出た。

「はは・・・もしあの花がこのありさまを見たら、さぞ困るだろうなあ・・・」
「自分と同じ綺麗な花が、あんなに沢山あるんだもの・・・」
「あんなに、沢山・・・」

ステラは、また、こう考えた。


「私は、この世にたった一つの珍しい花を持ってるつもりだった。」
「でも実は、当たり前の薔薇の花を、一つ持ってるだけだった・・・」
「そうだよ、私が持ってるものなんて、どこにでもある花と膝の高さしかない火山だけ」
「でも、あの花は・・・あの花は・・・」

ステラは、草の上に突っ伏して、泣き出した。

「あの花は、私を好きといってくれた・・・」
「ワガママは、単なる愛情の裏返しだったのよ・・・」
「なのに私は・・・私は・・・」



「・・・何を泣いているんだ」



「え・・・誰?どこに居るの・・・?」
「ここだ、林檎の木の下。」

そこに居たのは、美しい狐だった。

「君・・・なんていう生き物?」
「狐だ。」
「ねえ、私と遊ぼうよ。今、凄く寂しいの・・・」
「無理だ。俺は飼い慣らされるわけにはいかないからな」
「駄目かぁ・・・」

ステラは、じっと考えた後で、こういった。

「ねぇ、「飼い慣らす」ってどういうこと?」
「お前は、ここの人間じゃないようだな。・・・一体、何を探しているんだ?」
「人間を探してるの。「飼い慣らす」って一体どういうこと?」
「人間?銃を持って狩りをする連中のことか。奴らニワトリも飼っているが・・・」
「お前は、銃とニワトリとどちらに用があるんだ?」
「違うよ、友達を探してるの。ねぇ、「飼い慣らす」って何のこと?」
「「仲良くなる」と言うことだな。人間はまったく大事にしていないがな。」
「仲良くなる?」
「そうだ、俺から見ればお前は、そこらの十万の子供と、何ら変わりがない。」
「そしてお前にとっての俺は、そこらの十万の狐と同じ価値しか持たない。」
「つまりお互い居なくてもいい訳だ」

「だが、お前が俺を飼い慣らすと、話は違ってくる。」
「お前は俺にとって、この世でたった一人の人間になる。」
「・・・どうだ、わかったか?」
「あぁ、何となく、分かった気がする。」

ステラは、こう言うと
空を少し見上げて、こう言った。

「ある花がね、私を好いてくれたんだけど・・・」
「花が懐く?・・・地球にはいろんなことがあるからな・・・そんなことがあっても、おかしくない」
「地球じゃないの。私の星の話。」
「他の星、か?」
「うん。」
「ふむ・・・その星には、狩人は居るか?」
「いないよ、そんな人。」
「じゃあ、ニワトリは居るか?」
「いないよ、そんなもの。」
「・・・思い通りには、行かないか」
「狩人もニワトリも、皆似たり寄ったりだ。」
「俺がニワトリを狙い、人間が俺を狙う。その繰り返しで、少々退屈しているんだ。」
「じゃあ、私と遊ぼうよ。」
「・・・「仲良くなる」とは特別なことだ。」

そして狐は、話を元に戻した。

「特別って、どういうこと?」
「例えば、足音だ。」
「人間の足音がしたら、俺は即座に巣穴に逃げ込む。」
「俺の貧弱な爪と牙じゃ、人間には勝てないからな」
「(本当かなあ)」
「だがそれが友達の足音なら、心地いい音楽に変わるんだ。」

「そして、お前の服・・・夜明け前の空を切り取ったような色だな、上も下も。」
「元々、俺にとって空はただの空。何ら特別な感情は湧かない」
「だが友達がその色を纏っているなら」
「夜明け前の空を見るたび、お前を、お前の服の色を思い出すだろう。」
「今までただの空だったものが、夜明け前を待ちわびることになる。そう、特別なんだ」

そういうと、狐は黙って、ずっとステラの顔を見ていた。

「何なら・・・俺と仲良くするか?」
「私、とても君と仲良くなりたい。でも、あんまり時間がないんだ」
「友達を見付けたいし、知らなきゃいけないことが沢山ある。」
「人間は、自分のものにしなれば、何も分からない。」
「物品なら商人から買えば良い。だが「友達」を売り物にしている商人など居ない。」
「友達がほしければ、俺と仲良くすればいい」
「でも、どうすればいいの?」

ステラが尋ねると、狐はこう答えた

「辛抱が大事だ、最初は俺から離れて、こんな風に草に座る」
「俺は、お前を横目でちらちらと見る。お前は、何も言わない。」
「言葉は勘違いの元だからな」
「一日一日と経っていくうちに、俺とお前は仲が良くなるんだ」
「じゃあ、いつもここにくれば、君と仲良くなれるんだね!」
「あぁ、いつも同じ時間に来るとなおいい。」
「私の好きな時間じゃ駄目なの?」

「例えばお前がが午後四時に来るなら、三時にはもう心が弾むだろう」
「それはただの四時じゃない。友達に会える特別な時刻だ。」
「お前が好きな時刻に来るのなら、いつお前を待つ気持ちになれば良いか、分からなくなる。」
「そういう「決まり」が要るんだ。」
「「決まり」って、何?」
「あぁ、今となってはいい加減なものだが、「決まり」があればこそ特別が生まれる。」
「一つの日が他の日と違い、一つの時間が他の時間と違う意味を持つわけだ。」
「俺を追いかける狩人にも決まりがある。木曜日は村の娘と踊る日だ。」
「だから木曜日というのは、俺には素晴らしい日だ」
「狩人が踊り惚けている隙に、ブドウ畑まで足を伸ばせるからな」
「だが、狩人がいつも踊っているなら、俺はどんな日もみんな同じだ」
「休暇なんて、なくなってしまうだろう」

ステラはこんな話をしあっているうちに、
狐と仲良くなりました。
そしていろんなことを知りました。
狐の名前が豪炎寺と言うことも、彼には妹が居るということも。

だけれど、ステラが別れていく時間が近づくと、豪炎寺はこう言った。

「俺は、泣いてしまうかもしれないな」
「それは、君のせいよ。私は君に悪いことをしようとはしなかった。」
「だけれど君は、私と仲良くしたがったんだ・・・」
「それはそうだ」

と、豪炎寺はそう言った。

「でも、あなたは、泣いてしまうんでしょう!」
「それは、そうだ」
「じゃあ、何もいい事は無いじゃない」
「いや、あるな。麦畑の色がある」
「麦畑?」

ステラは、きょとんとした。

「お前の髪は、麦畑のように綺麗な金色だ。」
「前はどうでもよかった麦が、とてつもなくいい物に見える。」
「麦を見れば、お前を思い出せるからな」

そう言うと、豪炎寺はこう付け足した。

「もう一度、薔薇の花を見に行って来い。」
「お前の花が、世の中に一つしかないと言うことが、よくわかるだろう」
「それから、お前が俺にさよならを言いにここに来たら、俺は一つ、秘密を贈ろう」
「・・・うん。」

ステラは、もう一度薔薇達を見に行き、
そして薔薇達にこう言った。

「君たち、私の薔薇とは全然違うわ。それじゃ、ただ咲いてるだけよ」
「誰も、私とは仲良くしたがらなかったし、誰とも仲良くしなかったんだもの。」
「私が初めて出会った狐と同じよ。」
「あの狐は最初、十万もの狐と変わらなかった。だけど今じゃ、仲良しなのよ。」
「だから、この世で一匹しか居ない狐になったの。」

そう言われて、薔薇達はたいそう決まり悪がりました。

「君たちは美しいけど、ただ咲いてるだけね。君たちのためには、死ぬ気にはなれないわ。」
「それは私の薔薇の花も、通りすがりの人が見たら、君たちと同じ花だと思うでしょうね」
「だけどあの花は、私が水をかけてやった花。」
「ついたてで風が当たらないようにしたり、覆いガラスを被せてやったりした花。」
「毛虫を、3匹ほど蝶になるよう置いておいたけど、取ってやった花。」
「愚痴も聞いてやったし、自慢話も聞いてやった。 」
「黙ってるときだって、ずっとそばにいた花。」
「私の、大切な花なの」

薔薇の花たちにそういって、ステラは豪炎寺の元に帰ってきた。

「じゃあ・・・さようならね」
「さよならだ。」

と、豪炎寺はそう言った。

「さっきの秘密を話そう。なに、なんでもないことだ。」
「心で見なければ、物事は良く見えない。つまり、大切なものは目に見えないと言うことだ。」
「お前の薔薇の花が特別なのは、お前がその薔薇の花のために、時間を費やし、心を砕いていたからだ。」
「私が、あの薔薇を大切に思っているのは・・・」
「人間は、この大切なことを忘れている。」
「だけどお前は、これを忘れてはいけない。薔薇との約束を、守らなきゃいけないからな」
「私は、あの薔薇との約束を、守らなきゃいけないのね・・・」

ステラは、忘れないように繰り返した。

「ありがとう。」
「いや、どうってことはない。」
「さようなら。」
「あぁ、さよならだ。」

そして、ステラは
また次の場所へ走っていった。

「さようなら、だ。」
「俺の、初恋の人・・・」

そう言って豪炎寺は、零れ出た涙を荒く拭いた。

「こんにちわ。」
「ああ、こんにちわ」
「何をしてるの、ここで?」
「旅客を、1000人ずつ荷物にして、選り分けているのさ」
「俺の送り出す汽車が、旅客を右や左へ送っていくんだ」

と、スイッチ・マンが言った。
そこへ、キラキラと明かりのついた特急が、雷のようにごうごうと、転轍小屋を揺らして行った。

「みんな急いでるのね。なにを探しているんだろう。」
「さぁな。本人も分からないんだろう」
「あれ!みんなもう戻ってきたの?」
「あれは、同じ客じゃない。すれ違ったんだろう」
「自分達の居るところが、気に入らなかったのかな?」
「人間ってのは、いるとこが気に入るなんてありはしないさ。」

すると、キラキラと明かりのついた3番目の特急が、ごうごうと音を立てて通った。

「はじめのお客を、追っかけてるの?」
「何も、追いかけてはいないさ。あの中で眠ってるか、あくびをしているだけだ」
「子供達だけが、窓ガラスに鼻をぺしゃんこに押し付けているだけだ・・・」
「子供達だけが、自分が何をほしいか、分かってるのね・・・」
「布きれで出来た人形なんかで遊んだりして、その人形をとても大切にして・・・」
「もしその人形を取り上げられたりしたら、子供たちは泣くんだわ・・・」
「子供達は、幸福だな」

スイッチ・マンがそう言った。

「やあ、いらっしゃい。安くしておくよ!」
「何を売ってるの?」
「素晴しい丸薬だよ。一週間に一粒飲むだけでそれきり何も飲みたくなくなるのさ」
「なんで、そんなもの売ってるの?」
「水を飲む時間が倹約できるからさ。」
「その道の人が計算したんだが、一週間に五十三分の時間の倹約になるんだ」
「・・・その五十三分、どうするの?」
「したいことをすればいいんじゃないか?」
「ふーん。」



「(もし私がその五十三分を使えるなら)」

「(どこか泉のほうへ、ゆっくり歩いていくんだけどなあ)」



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