“魔法”
それから数日後。
すっかりジョナサンと打ち解け、毎日外で遊ぶ仲になったマリアは
母親から渡された本を、嫌そうに読んでいた。
「レディーのたしなみ、レディーの作法!・・・もう嫌だ、完全に耳にタコ」
ばさっ、と机に乱雑に本を置くと、
マリアは椅子にもたれかかる。
「マリー、暇そうだね」
「ええ、暇で暇でしようがないわ!ジョジョはどうなの?」
「・・・ああ、ディオのところに友人だと思うんだけど、女の子が来ててね、ちょっとどいてようかと」
「あら珍しいのね。じゃあよかったらいっしょに外に出ない?」
「いいよ。木登りでもしよう」
「賛成!」
そう言うと、マリアはひらひらとしたスカートを
動きやすい様にきゅっと結んだ。
そして外に出た二人は、ジョナサンがいつも居る敷地内の大きな木に二人はよじ登る。
「あー、いい景色ね。高くていい風が通って気持ちいいわ。」
「だろ?」
「・・・私が男だったら、普通にこんな風にして遊べるのに」
「マリー、それはどういう・・・?」
「・・・私は物心ついたばかりのころから、レディーとしての勉強を教え込まれてきたの。」
そう言うと、マリアはため息を吐いた。
「私はレディーになんてなりたくない。ただ大人しく目立たないようにして、夫にすがって・・・」
「そこまでして生きる気なんて、これっぽっちもないの!」
そう言うと、マリアは不機嫌そうな顔をした。
「・・・あーあ、男に生まれたかったわ!」
「例えば、私が城を守る騎士とかだったら、この闘争心をもてあますこともないのに」
「マリーは、女の子にしては珍しい性格なんだね」
「そうでしょ?よく言われるわ。バカみたいよね・・・」
「そうとは思わないけどな。面白くて素敵だと思うよ」
「そう言ってくれるのって本当にあなただけ!ありがとう、ジョジョ」
そう礼を言い、マリアはふわりと笑った。
女の子なのに男のような性格のマリアでも、笑顔はまるで絵の中の天使のように
愛らしく、慈愛に満ちていた。
「・・・じゃあ、そろそろ木から降りようっと。」
そう言うとマリアは木の枝からぴょん、と飛び降りる。
そこそこ高い位置ではあったが、マリアはお構いなしと言う様に、綺麗に着地した。
「じゃあ僕も・・・痛っ!!」
それを見たジョナサンも木から降りたが、
降りた途端に、急に手を押さえた。
「・・・どうしたの、ジョジョ?」
「節か何かわからないけど、出っ張っていたところで手の甲をこすったみたいで・・・」
ジョナサンが押さえていた手を退けると、
手の甲には真っ赤なひっかき傷ができていた。
傷は少し深いらしく、すぐに血がにじみ出る。
「大変、血が出てる!すぐ治してあげるわ・・・」
そう言うと、マリアはジョナサンの手に
自分の手を重ねた。
その行為に、ジョナサンは不思議そうな顔をする。
「マリー、何を・・・?」
傷口の上をマリアの手がさするように行き来する。
ジョナサンは2回ほど手が傷口に触れる
チリチリとした痛みに顔をしかめたが、
3回目にマリアの手が傷口の上を通った時、
その痛みは、まるで最初から無かったように消え去っていた。
「はい、終わり」
そう言ってマリアが覆っていた手を退けると、
ジョナサンの手の甲から傷は消えており、
傷があったことを証明する血が、マリアの手のひらと、
ジョナサンの手の甲に少しついているだけだった。
ジョナサンは驚きに目を白黒させる。
「・・・い、一体これは!?」
「ヴェルハートの人間だけが使える魔法みたいなもの。・・・いや、“魔法”は言い過ぎね」
「それを説明するには、少し長くなるんだけど・・・」
「・・・なに、長いといっても簡単なたとえ話よ。」
「心臓は脳の指令を受けて動いてる。じゃあ、その脳を動かすのは何だと思う?」
「えーと・・・何だろう」
「分かりづらかったかしら?・・・正解はね、一種の「エネルギー」なのよ。」
「ヴェルハート一族には、特別にそのエネルギーを多く持ってるの。」
そう言うと、マリアはさっき治したジョナサンの手の甲を指さした。
「私たちは、自由にそのエネルギーを誰かに分け与えたり、自分で使ったりすることができる一族なの。」
「そのエネルギーで自分や他人の傷を治したり、やろうと思えば、髪とか身長だって伸ばせるのよ」
「・・・私達がこの能力を使えるってことは、絶対に内緒ね。信用できるジョナサンだからこそ、教えたんだから」
そう言うと、マリアはジョナサンの手を引いた。
「じゃあ、そろそろ帰りましょ!」
「あっ、ちょっと、マリー!」
その頃、ディオと少女・・・
その名を「エリザベータ・ウィッチ」は。
「貴方がそんなことを考えているなんて、思いもしなかったわ」
「・・・何とでも言え、エリザ」
「別に、何か文句があるわけじゃないのよ。ただ・・・」
「ただ?」
「・・・いいえ、やっぱり何でもないわ。」
そう言うと、エリザは窓の外に居る
マリアとジョナサンを見つめた。
マリアのことはディオから聞かされ、
エリザはどうしてもマリアと友達になりたかった。
だがしかし、そんなことをすれば
ディオに対する裏切り行為になってしまうだろう。
ディオと昔から付き合いがあり、ディオを愛しているエリザには、
どうしてもディオを裏切ることはできなかった。
「(・・・どうして、貴方は「そちら側」なの)」
そう考え、エリザはあきらめにも似たため息を
一つ零した。
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