君が流したユメナミダ。


涙の溶けた雨


アリシアが死んだ次の日、
スクアーロは長期任務から戻ってきた。

「・・・どういう、ことだぁ?」

ザンザスは何も言わなかった。
いつものように椅子にもたれていつものように書類を乱雑に渡して、いつもとは違う表情をして。

「ちょっと待てよ意味わかんねえぞ。そんな冗談、」

「冗談なんかじゃねえ」

窓が開いていて冷たい風が容赦なく吹きこんでくる中、頭が真っ白になった。
嘘だ、嘘だ嘘だ。絶対に嘘のはずだ。
あいつが簡単に死ぬわけが無い。

「アリシアは死んだ。」

視界が、足がよろめくのが分かった。
この前まであんなに笑顔であんなに元気で居たのに。
アーロとじゃれあったり、サフランと笑っていたのに。

「お前が任務に出ている間、ミルフィオーレが攻めてきた。このアジトに、だ。」

「・・・」

「そこでアリシアは死んだ。正確には撃ち殺された。生き残った奴によってな。」

「・・・あ・・・」

なぜ。どうして。

「あいつらは、もともとアリシアの命が目当てだったらしい。死んだのを確認したら直ぐ引いていきやがった」

「どうしてだぁ」

「知るか」

「アリシアが殺されなきゃなんねえ理由が、あったのかよ」

「知るかっつってんだろ」

「なんでなんだよぉおおおっ!」

「黙れ!」

スクアーロの叫び声と、ザンザスの荒げた声が部屋に虚しく響く。


どうしてこんなことになったんだろう。

誰か教えてくれ。もっと詳しく、何があったのか、どうしてこんなことになってしまったのか。

アリシアは、なんで死ぬことになってしまったのか。

納得がいかねえよ。なんなんだよ。なあ。

「俺達だけで葬儀はした。てめえは出る必要はねえと思って勝手に済ませた。」

「・・・」

「・・・裏庭の奥、あの場所にアリシアはいる」

よく裏庭の開けた場所の大きな木の下で、よくアリシアはルッスーリアとお茶をしていた。

そこが凄く好きで、しょっちゅう行っていた。俺も、よく一緒に行った。

あそこには、俺と一緒に育てた薔薇も咲いている。



・・・なぁ、アリシア、嘘だろぉ?



こんなにも君は愛されていた。

     
ねぇ、1日でも会えないと寂しいのに

永遠に会えなかったらどうすればいい?





声が聞きたいよ






ポツッ・・・


小雨が降る中、スクアーロは歩いていた。

今にも大雨が降りそうで、雷も鳴りそうなほどなのに。

ここまで気分が沈んだことなんてなかった。

いつもの、開けたその場所に行くと、見慣れない大きな箱のようなものがあった。

ぞわっと毛が逆立つような、冷たい何かが背中を駆ける。

棺桶。紛れもなくあれは、人が死んだときに入る箱だ。

「・・・あ・・・」

自分の声だとは思えない、掠れた声が出た。
異常なまでに、まるですぐここに心臓があるかのようにばくばくと脈を打つ。
俺は、そっと棺桶を開けた。

「・・・っ」

俺の大切な、アリシア。
まるで、寝ているように綺麗な顔をしたアリシアがいた。当たり前だ。
本当は分かりたくなかっただけなんだ、俺は。

日本人特有の白い肌。今は病的なほど白くて・・・。
眠っているようにも見える、目を覚まして笑いそうな顔。

それに、新しい隊服。きっとルッスーリアが着せたのだろう。

スクアーロとおそろいの隊服。

「ま・・・てよ・・・」

本当に震えが起きる程美しくて怖い。

「アリシア・・・?」

呼吸するのも忘れてしまいそうで。
手が、震える。頬に手を伸ばしても、頬は信じられない程冷たい。

「ぁ・・・」

ずるりと力が抜けた。
ぼたぼたと流れるそれが、涙だということに気づくのに左程時間はかからなかった。
この年で泣くなんて思ってもみなかった。
いいから目開けろよ。
スク、っていつもみてえに呼べよ。

「なぁ、アリシア・・・」

どうして、守れなかったんだろう。
いや、むしろ守るどころか何もできなかった。
こんなに大切でこんなに愛している、唯一無二の存在だったのに。

「うぁ・・・」

ぎり、と奥歯を噛み締めて涙をこらえようとしても、声を押さえようとしても、それは全く止まろうとしない。
むしろとめどなく溢れ出てくる。これが、悲しい、とか寂しい、とかそういう感情なのか。

俺にはお前が必要なのに。

ぽつ、ぽつとアリシアの頬に滴が降ってきた。
それが、アリシアの顔や身体を濡らしていく。

「悪ぃ・・・アリシア。濡れたら、嫌、だ、よなぁ。寒い、よなぁ。」

アリシアの氷のように冷たい唇に一度だけキスをして、棺桶を閉める。
空を見ると、どす黒い雲が一面に広がっていた。雨は止まず、雨脚を強めていくばかり。
そろそろ雷も鳴るだろう。

なぁ、今日くらい、泣いてもいいよなぁ。
お前なら、許してくれるよな。


「ゔ、・・・うあああああああ・・・・」





どんなに泣いたって

愛しい人が戻らないことなんて

知っている。



瞳だって口だって体だって

寝ているのと変わりないのに

(違うのは、もう動かないことと名前を呼んでくれないことだけ)

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