君が流したユメナミダ。


雪解けは間近


リボーンがツナにさせている修行により常に超死ぬ気モードになれるようになり、長時間その状態を維持することができるようになった。それが2日目の昼ごろ。午後からは基礎体力と死ぬ気のコントロールをマスターするためにバジルと組み手。平均男子以上の体力を見につけ始めたツナの超死ぬ気モードとバジルの死ぬ気モードでの状態は五分五分。コントロールをマスターすればバジルですら敵わないだろう。ツナの急成長に、これならば10日後にはあの技を習得することが出来るだろうと安心する。茜色に染まりだした住宅を歩くツナとバジルとリボーン。向かうは沢田家。そこに、バジルの親方様がいるとリボーンは言った。
「バジル君に日本文化を教えてくれたその親方様ってさ」
「はい」
「・・・・」
リボーンはツナが誰のことを言おうとしているのかがわかった。素晴らしい超直感。
自宅がすぐそこまで迫ってきている。
「沢田家光って名前?」
「はい」
「その人が俺のお父さんだって知ってる?」
「はい、よく写真を見せてもらってました」
皆知ってますよ。バジルが指すそのみんなが誰なのか聞くのはやめておいた。
多分小さい時に誘拐されたのは家光が写真を見せびらかしたのが原因だ。それで顔が割れてしまったんだ。
家光が聞いたら空笑いをしながら逃げるだろう。所詮図星。
「・・・あんなのが親父だなんて・・・」
搾り出された声に苦笑いをすることしかバジルには出来なかった。リボーンはフォローする気はなかった。自業自得だ、それは。
「ただい・・・・どこか行くの親方様?」
玄関の扉を開けた先、靴の紐を結んでいる家光に嫌味を込めてツナは言った。無言で涙を流す家光はとてもむさ苦しい見苦しい。そして平然と言い放つ娘は怖い格好良い。
「くっ・・招かれざる客がやってきたと、本国の俺の影から連絡がきたんだ」
「!本当か、家光?」
「招かれざる・・・っ、暗殺部隊が?」
「本当ですか親方様!?」
「あぁ。俺は守護者全員の安全を確認しに行く。バジルついて来い」
「はい!」
父親の顔からマフィアの顔つきに変わった家光と命令に従うバジル。2人の姿よりもまだ正体を知らない残り3人の守護者のことが気になった。晴の守護者が笹川了平であったことも心配なのに、残りの3人は・・。
「ツナ、お前は雷の守護者を保護してくれないか?」
「雷の・・?」
「雷の守護者はまだまだ未熟だ。それにツナに懐いているからな」
「懐くってそんな動物みたいな・・・・ん?懐く?未熟?雷?」
浮かぶのは10年後の成長した姿。まさか、そんな?顔を青くするツナの頭を優しく撫で、扉を開ける。
「雷の守護者の名は『ランボ』だ」
「っこの、駄目親父ぃーーーーーーーー!!」
大声で怒鳴ったそれは扉に遮断された。
「ボヴィーノのボスはなんて言ったの!?」
「泣いて喜んだらしいぞ」
「今度説教してやる!」
小さい子供が守護者だなんてふざけてる喜ぶな!選んだ家光にも泣いて受け入れたボビーノのボスにも怒りを露にしながら道を走る。ヴァリアーが日本に上陸してしまった以上、リングを持っている人間を片っ端から狙い奪おうとするだろう。となると、ランボを保護しても家に帰ることは出来そうにない。保護できしだい修行で篭っている山の方に向かおうという話しはリボーンの了承済みだ。直感を元に走り続ける先。小さい子供の悲鳴が聞こえる。
「今のはフゥ太だな」
「っ、フゥ太!」
手袋を急ぎ装着して角を曲がる。必死に黒い人間から走って逃げてくるフゥ太とランボ、抵抗しながら走るイーピン。黒尽くめのその服装に、ツナの脳裏に誘拐されたときの恐怖が走った。
「ツナ兄!」
「早くこっちに・・・っ危ない!」
「大丈夫だぞ」
男が武器をチラつかせながら歩みよってくる。子供と大人では圧倒的に追いつかれる。超死ぬ気モードになろうとするツナの肩に飛び乗り、男の背後から拳を握る守護者に微笑んだ。それは重い一撃の音。空に弾き飛ばされた男がいた場所に立つ姿に立ち尽くしてしまった。
「ボンゴレファミリー晴の守護者、笹川了平推参!」
「せ、先輩・・・?」
力強く言い放つ了平。コロネロの弟子となって病院から走って出て行った了平と目の前にいる了平は同じのようで違っている。それよりも今ボンゴレファミリーと言った。
「おお!沢田、久しぶりだな!」
「あ、お久しぶりです」
「極限にボクシング部に入れ!」
「やっぱり同じだこの人!」
普通の挨拶からお決まりの台詞に。駄目だ、根本的なところが変わってない。せめてそこは変わっていてほしかった!腹に抱きついてきたフゥ太をしっかりと抱きしめてやりながら空笑い。
「む、新手か?」
堀の上に現れた吹っ飛ばした男と同じ姿の男がもう2人。今度は不意打ちではないため恐怖は抱かなかったが、やはり慣れなかった。
「こちら02。目標を補足―グハッ!」
「02!?」
茜色から徐々に暗くなってきた外で煌く一閃。倒れた仲間の横で狼狽しているもう1人に向かい曲線を描きながら向かっていくのは見覚えのある爆弾。
「危なかったな、ツナ」
「お怪我はありませんか10代目!?」
爆発音など気にせずにツナへと近寄ってきた山本と獄寺の姿に、ツナは微笑を浮かべた。
山本は父親に。獄寺はシャマルに修行を見てもらっていたのだが今はここにきている。家光が間に合ったのだとホッとした。
「ランボ、リングは?」
「リングー?ランボさんそんなの知らない」
「なっ!?アホ牛がリングを?」
「知らないって・・・・あ」
もじゃもじゃの髪の中に埋まっているのを見つけてしまった。何でもかんでも髪の中に突っ込むなと前に注意したのに忘れてしまっている。とにかく、隠そう。髪の中に手を突っ込みリングを見えないようにしてみた。バレませんように。祈るほかない。
「なんでこいつが・・・」
「うん、そうだね後で問い詰めとくよ死ぬ気で」
逃げろ家光。
「しかし思ったより骨のない連中だったな」
「油断するなよ。こいつらはヴァリアーの下っ端だ。お前達が相手にするのは・・・・くるぞ!」
いつにないリボーンの真剣な声に堀の上を見た。
そこに、黒い服を着た男が現れる。先ほどの男達と似たような服でも、纏っているもの覇気が違った。
「・・お前がやったのか?」
背追っている武器に手を伸ばす男に警戒をする。獄寺、山本、了平、ツナ、ランボへと視線を動かしツナの腕の中にいるランボで止まる。
「そのパーマのガキが持っているのか」
なんで分かったんだこの人。目が良すぎるのかそれとも勘でなのか。視線に怯えしがみついて来たランボの分まで睨みつけるツナを鼻で笑う。
「待てぇ!レヴィ!」
「待て!この変態め!」
一触即発の中に響く2つの声。聞き覚えのある声にツナの肩が跳ねた。レヴィと呼ばれた男は視線だけを後ろへと投げる。着地をする音は上からやってきたことを表し、仲間が集合したことを知らせる。
「勝手に狩っちゃ駄目よぉ」
「他のリングの保持者も集まってみるたいだね」
「なあ、あの女が話してた10代目候補って奴?」
「・・・赤ん坊・・・」
「ベル、落ち着きなさい、あとナイフしまって」

ヴァリアーのメンバーの中に目立つ漆黒の赤ん坊にツナの視線は釘付けとなった。しかし、おしゃぶりは見つからない。リボーンのように赤ん坊ながら凄い力を発揮する者には必ずおしゃぶりが首から下げられている。なのにその赤ん坊にはなかった。
「う゛お゛ぉい!よくも騙してくれたなぁ!?」
「そうよ!しかも囮まで使って・・・3枚におろしてやる!」

「!」
「あんにゃろう・・!」
「ぁ・・・」
銀髪のファルファに、視線を持ってかれた。

「なによ、そんなに私たちの銀髪が珍しいの?昨日も見たくせに」

「う゛ぉおい!昨日も行ったのかぁ!」

「そうよ!兄貴のことを教えたかったのよ!」

「そうかぁ、可愛いやつだなぁ。」



(((シ、シスコンだっ!!!)))


そこに居た全員が、こう思ったのは言うまでもない。


堀の上に現れたヴァリアーを見上げるツナの前に急ぎ獄寺と山本は立ちふさがった。フゥ太とイーピンを背中に庇い、リングを持っているランボをしっかりと抱きしめる。了平が隣へと立ってくれてはいるが、ヴァリアーの迫力にこちら側は負けている。
「雨の守護者は誰だぁ?」
「・・俺だぜ」
「ハッ!・・3秒だ、3秒で卸してやるぜ」
「兄貴ー、3秒はないんじゃないかなぁー?」
山本と同じ雨の守護者だというスクアーロの指にはハーフリングがはめられている。ここに集まったメンバーがもう一つのボンゴレリングの保持者。しかし、ヴァリアー側は1人足りていない。どんなに数を確認しても7人しかいないのだ。まだ、着いていないのだろうか?
「―――邪魔だ」
スクアーロの肩を掴み、横へと退かす行動と低い怒気の含まれた声にツナ達に緊張が走った。ヌッと姿を現した男の顔には酷い痣が刻まれ、身体から放たれる殺気にツナにしがみつくフゥ太達の震えが伝わってきた。
「ボス!彼方が来るほどではないのに・・・・」
「この日が来るとはな・・・・・XANXUS」
重々しく男の名を呟くリボーンなど珍しい。それほど今回の相手は強いということか。XANXUSの気迫に動けずにいる獄寺と山本の後ろで、ランボを抱きしめながらツナは紅い目を見つめていた。目を見開いて。
大きく、目を開きただ一心にXANXUSを見つめるツナの様子をおかしいと思ったのはスクアーロだ。
XANXUSの殺気に満ちた視線を浴びているというのに心は此処にあらずといった姿。無防備すぎて今にも殺されてしまいそうだ。いや、自分達は殺.すために此処まできたのだ。心配などしてどうする。
「沢田綱吉・・・・」
確認するように呟かれた名。左手を上げたXANXUSの手に光が集まっていく。
「ちょ、ボスここでそれを!?」
「俺達まで殺すつもりか!」
慌てだす部下すら気にせずに睨みつけるXANXUSの先にはツナ。
ツナが見つめる先にはXANXUS。
「      」
ツナの口が声を出さずに動かされた。獄寺も山本も、了平やリボーンもツナを見てはいなかったので口がどのような動きをしたのかは分からない。分かったのは、XANXUS1人。ツナ本人には意識して動かしたわけではなかったのか変わらずXANXUSを見つめているが、XANXUSを僅かに動揺させたらしかった。ツナと同じように開かれた紅い目。その目がまた殺気を漲らせたのを合図に正気を取り戻した。
何かを思い出せそうだったほんの一瞬のことだったが、大切な何かを思い出せそうだった。睨まれているXANXUSと自分の何かを。
「XANXUS・・?」
「ボ、ボスの名前を軽々しく呼ぶな!」
XANXUSの名を確かめるように、どこか懐かしい響きを持って呟く。今度はしっかりと音となったツナの声と共に、XANXUSの足元に工事用具が突き刺さった。
「!」
「そこまでだ、XANXUS」
「っお父さん!?」


「沢田・・・・家光・・・」



ファルファの声は、誰にも届かず、消えた。




ヴァリアーとは反対の堀に現れた家光とバジル、そして知らぬ男は家光の部下だろうか?
可愛い娘の危機に颯爽と登場できたことに安堵と共にお父さん格好イイだろ!?
この場面で空気をぶち壊しそうになるのを堪えた。しかし、息子は壊した。
足元に落ちていた小石を素早く拾い上げ父親に投げつける。一瞬だけ死ぬ気になって。よって剛速球、顔面に当たった。
敵ではなく息子の攻撃に家光かなりのダメージを食らう。

「・・・・・ツナ」
「・・・あ、思わず・・」

ストレス溜まってて。
今回は本当に悪いと思い、謝る。リボーンに。父親に謝らないのは意地ではなく素で。
真剣な場面での思わぬハプニングを乗り越え、何事もなかったように振る舞いXANXUSを見る家光にほんの少しの同情をプレゼント。

「ここからは俺が仕切らせてもらう」
「今更口だすんじゃねー家光!逃げるだけの腰抜けがぁ!」
「何を・・っ!」
「よせバジル。XANXUS、お前の部下は門外顧問の俺に武器を向けるのか?」
「・・・部活の顧問?」
「おいツナどうしたんだお前なんで妙にボケるんだ今この重要な場面で?」
「痛い、痛い」

小声でのやりとり。容赦なく足を蹴ってくるリボーンに必死に謝る。好きでボケてるわけじゃない!
無意識ならば尚更性質が悪い。声に出すな。リボーンの制裁は簡単には止まない。

「俺は逃げていたんじゃない。最近のお前達の動きを黙認する9代目に疑問を抱き、異議申し立ての質問状を送ったんだ。その返事が、ついさっき届いた」

手にしている二つの手紙を見せる。
9代目からの返事が記されている大事な手紙を家光がXANXUSに渡し、ツナにはバジルが。

「わっ」

死ぬ気の炎が広げた手紙から燃え上がり声を出してしまった。確かな存在を示す炎と書かれているイタリア語にしばし見惚れていたが、重要なことに気づく。
イタリア語、読めない。
これでどうやって理解しろというのだろう。手紙を奪おうとするランボから死守をしながら家光を睨みつける。読めない。念を飛ばす。

「要約するとこうだ」



後継者に相応しいと思っていたのは家光の娘である沢田ツナだと思っていたのだが、死が近づくにつれて9代目は自分の息子であるXANXUSこそが10代目に相応しいのだと悟った。
しかし、家光などの反対する者が出ている。
現に家光はハーフボンゴレリングをXANXUSに渡すのを拒み、今はツナとその守護者の候補とされる7人に手渡されてしまっている。
そこで、リングを賭けたボンゴレリング争奪戦を行う。



あまりの内容に口を開けて家光を見つめてしまった。
なんだそれは?勝手に人を10代目候補に挙げておいて今度は相応しくないと?どれだけ自分やその周りを引っ掻き回せば気がすむというのだろうか?
あまりにも勝手すぎる事に、手紙を握る手が震える。

「XANXUSとツナ。そしてそれぞれの同じ種類の守護者同士のボンゴレ公認の決闘、1対1のガチンコ勝負を開催する」
「リボーン止めないで!!」

止めるも何ももう投げてるじゃねーか。
ランボの角を引っつかみ家光へと投げられたそれは綺麗な曲線を描き額へと突き刺さった。またもや一瞬死ぬ気モード。
投げた格好のまま怒りで肩を揺らすツナが冷静だったら超死ぬ気モードで投げていたかもしれない。
ちょっといい笑顔で親指を突き出しなにやら呟く家光の肩を必死にバジルが揺すっている姿はとてもボンゴレNO.2には見えない。見たくもない。
ヴァリアー側にはとても申し訳ない決闘宣言となってしまった。


シャンプーも終わって、水に濡れた髪を丹念にタオルで拭きながら見つめるのはハーフボンゴレリング。口からでるのは重い重い溜息。9代目直属チェルベッロ機関。突然現れたまったく似た容姿の女性は9代目に言われ審判をしに来たのだと言った。しかし、ボンゴレNO.2である家光ですら知らなかった機関の存在に異議をあげても無視。試合会場は並盛中学校だと残して去っていった。実に素早い。サッときてサッと帰る。質問は受け付けません。
「並中・・」
自分の学校が夜には血みどろの試合会場となる。子供の学び場をなんだと思っているのだろう。未来に貢献する大事な種達を。何よりもっとも恐ろしい人物が並盛にいるのだ。年齢不詳、常に自分が好きな学年に在籍する並盛の歩く秩序。
「咬み殺されるっ」
嬉々として愛用のトンファーを振り回しながら追いかけてくる姿を想像。身震い。ヴァリアーと戦う前に殺されてしまう。追いかけられる場面を想像するだけで鳥肌が立った。両腕で体を抱きしめベッドにダイブする。ヴァリアー側の守護者や父親の事やリングの事、短時間で凄い展開となってしまった。
「・・・XANXUS・・」
紅い目を持つ男、9代目実子で改めてボス候補にあげられた男。
スクアーロを押し退けツナ達の前に姿を現したとき、自分の意識がどこかに飛んでいたのをツナはしっかりと自覚していた。思い出せそうで思い出せない、XANXUSが目を見開いたのを合図に引き戻された後にはモヤモヤとした感情が残った。
「・・・・あーっ、もう!」
ベッドのスプリングを利用して体を起き上がらせる。リボーンは今ビアンキと共に入浴中。フゥ太達は散々走り回って逃げたのでもう寝ているだろう。簡単に着替えを済ませ、散々悩んだすえにリングを机の上に置いたままに部屋から出て行った。10月の中旬ともなれば夜はひんやりと冷えてくる。だが頭を冷やすために出てきたのだから別にいっか。本人は軽かった。電灯がつく道を歩きながら、改めてXANXUSやヴァリアーのことを考える。
暗殺部隊の幹部でありそのボス。向こうは殺.すつもりで向かってくるだろう。
一方こちらは中学生。殺すつもりの相手とは違いできれば気絶程度で済ませたいなんて考えているお子様達だ。
「霧と雲のリングを持つ人も分からないし・・」
霧と雲の守護者の正体だけは決してリボーンは教えようとはしなかった。半分期待して半分恐怖して待て。半分恐怖がとても気になる。会ったことがある人なんだろうが恐怖ってなんだ!?問い詰めようとしてもいつも簡単にあしらわれてしまうので結局今も分からないまま。明日の最初の試合が雲か霧のどちらかだったら・・。考えるだけでゾッとする。ギュッと両手を合わせて握り締めフルフル頭を振って恐怖を薙ぎ払う。今此処でゾッとしていても意味はない。戦う覚悟はリボーンと修行する時には決めていた。守護者に選ばれ、巻き込んでしまった皆を護る為に。自分に出来るのはリボーンの修行をこなし、初代の技を習得する事。
「自分に出来ることを、精一杯頑張るしかないよね」
それがこの戦いに勝つための最善の策と信じて。決意新たにリング戦へ挑む意志を固める。皆を信じて、自分も強くなるんだ。更に強く両手を抱きしめる。
「まだそんな甘いことを考えてるの」
「!?」
「生徒手帳、落としてたから。別に、不法侵入とかじゃないわよ?奈々さんにもちゃんと許可貰ってるから。」

長く、美しい、銀髪が、電灯の光に反射して、少しまぶしい。

「甘い考えを捨てて、覚悟だけ残しなさい。さもないと、死ぬわよ?うちのボスは手加減するほど優しくないからね。」

薄笑いを浮かべるファルファを、不覚にも可愛いと思ってしまったツナ。

「大空を包み込む清き存在・・・・それが雪のリング・・・代々、このリングを奪いあう人は、必ず片方が死んでいる。・・・大空に雪は一つでいい」

「君は・・・味方?それとも敵?」

「味方であって敵・・・かな?」

その言葉を残した後、銀色が目の前に広がった。

ツナとファルファの顔の距離が縮まる。

「私は、雪乃には絶対負けない。死ぬのはあっちだ。覚悟をしておくんだね。私は兄貴みたいに、怒り出したら止まらないから。でも、あんたらを本当には憎んじゃいないよ」

そう言うと、ファルファは美しい蝶になって、消えた。

きっと、幻術だったんだろう。

「俺は・・・どうしたらいい?」



ツナのつぶやきは、誰にも聞かれることなく、消えていった。



次の日


非常階段の手すりに寄りかかったまま空を見つめる。先ほどまで了平と一緒にいたのだが、コロネロの迎えが来たため別れた。
「・・・・」
昨夜の事はリボーン達には話してなく、1人胸の中に抱え込んでいる。ヴァリアーの幹部と話していましたなんて言ったらリボーンの銃が火を噴くし、獄寺や山本の修行にだって支障をきたしてしまうだろう。
それなのに・・。
「何、考えてるんだろ」
ファルファが言ったあの言葉が、脳裏に張り付いて、離れない。



「大空に雪は一つでいい」



敵のファルファを憎むどころか気持ちは、ファルファが正しいのではないのかと、どんどん惹かれていく。命を賭けて戦う相手なのに。仲間達への裏切りみたいで、情けない。誰かに話せれば少しは楽になるだろうが、それだけはツナには出来なかった。隠しているだけでも裏切りと感じているのに、言ってしまったらどうなるんだろう?
「情けない」
この不良の人達は懲りない。そして自分も。帰ってリボーンと修行でもしようと校門を一歩出たところで出くわしたのは並中OBにして海と祭りでツナ達がボッコボコにした不良。顔にはまだまだ湿布が張ってあったり青痣があったりと怪我の痕。ツナを見たときの笑みにその場を走り出す。ヤバい、今度こそ。捕まればどうなるかなんて想像もしたくない。ただ必死に走り出す。どこか人気がないところに。一般人がどうとかではなく、とりあえず人の目がないところだったらもう死ぬ気モードになって倒してもいいんじゃないか?心労と書いて開き直りと今は読む。
後ろで罵声を浴びせながら追いかけてくる不良達から程好い距離を保ち、目指すは並盛神社。あそこなら大丈夫だろう神様ごめんなさい!境内を走り階段を登っていざ神様の前でガチンコ勝負。クルッと振り返るとサングラスをした男がクネクネと腰を揺らしながらツナを見ていた。あれ?
「え?あれ、え?」
「ああ、あのヤンチャ君達はファルファがボッコボコにしてるわよ?」
気づかないで走り続けるから追いかけてきちゃった。ルンルン。自分で口ずさみながら近寄ってくる男を見上げる。いや、ボッコボコってちょっとやばいんじゃないんですか!?自分もボコボコにするつもりだったが、ツナとファルファでは手加減の差が違う。手加減するきないでしょあの人!?
「昨夜はありがとうね。おかげでファルファすっきりしたって」
「はぁ、どうも」
「試合前にお礼が言えてよかったわ!お仲間の子に知られたくないでしょ?」
「・・・」
「・・あら?気を悪くさせちゃったかしら?」
慌てて口を押さえる。この年頃の男の子ってちょっと分からないのよねー。そういう問題ではない。俯くツナの顔を覗き込むためにその場にしゃがみこみ、頬を両手で包み込む。押さえてるのではない、包んでいるのだ。
「ファルファがイラついてからボスの機嫌が悪くなっちゃってあの後大変だったのよ?スクアーロを殴ったり蹴ったり押し倒したり」
「う゛お゛お゛ぉい、うるせぇよルッス!」
「いやん危ない!」
ルッスーリアの頭の上に落とされるはずだった踵は地の上に。素早くツナの後ろに回りこみ肩を掴んで盾にするルッスーリアを睨むアルティの目はギラギラと危ない色をしている。
「でも殴られてたじゃない」
「うるせぇよ!」
「もう!素直じゃないわね!折角探す手伝いしてあげたっていうのに!」
「お前は黙ってろカマ野郎ぉ!兄貴が可愛そうだろうがぁ!」

頭上で交わされる言い争いが獄寺と了平を連想させる。あれ?守護者って皆こんななの?ファルファにボコボコにされてしまっただろう不良さん方を心配し、ちょいちょいと目の前で揺れる髪を引っ張る。
「あの、不良の方々は・・?」
「あいつらならそこら辺に捨ててきたぞぉ、私を触りやがったからな」
「ゴミのような扱い!?」
生ゴミにもならないのに!資源を汚染するだけなのに!ファルファよりも扱いが酷いことに気づいていない。
そしてハッとする。この人達敵だよ!気づくのが遅すぎるし警戒しだすのも遅い。ルッスーリアの手を振り払い逃げようとするツナを真正面からファルファが捕獲。逃げることはできない。
「逃げるな!武器は持ってねえ!もちろんアリシアは持ってきてねぇ!名残雪もだ!」
「そこら辺にある雑草ですら武器にして暗殺できそうな見た目の人が言ったって説得力ないんですけど!ていうかアリシアと名残雪って何ですか!?」
「ヴァリアークオリティーでなんとかなりそうよねぇーあ、アリシアと名残雪って言うのは剣と日本刀の名前よ」
「う゛お゛お゛ぉい!お前は黙ってろルッスーリアぁ!」
「やっぱり出来るんだー!?」
「出来ねーよ!黙ってろぉ!」
口を塞がれ会話強制終了。睨みつけてくるファルファに肩を竦め、退散しますよと一言残して歩き出す。
折角マーモンと修行できたのに!恨み言をブツブツと呟いて。大人しくマーモンにS級の報酬で探してもらえばよかったと後悔するが、アレで中々愉快犯なところがある。やっぱりルッスーリアでよかった。貞操が危ういが。
緑のモヒカン?が見えなくなったのを確認してから塞いでいた口を解放してやる。逃げられた。木にしがみ付いて見てくる姿がちょっと可愛い。しゃがみこみ、こいこいと指を動かすと目が指の動きを追っている。楽しい。
「こっちに来い。とって食ったりしねーよ」
「・・」
「・・あー、その、アレだぁ。ちょっと話をしてみたくって」
「敵なんですけど」
「んな事ぁ分かってる。ボスの為なら斬り捨てるぜぇ?」
「サヨウナラ」
「う゛お゛ぉい、兄貴みてぇな口調だが怒ってねぇよ。・・・雪乃以外はな」
「やっぱり怒ってるんだー!?」
「話が進まねぇから黙れぇ!」
この人我慢とか絶対出来ない人だ!ガッチリと前でホールドされて逃げることができなくなる。昨夜から一体何なんですかあなた方は!?
「お前、ボスと会ったことがあんのかぁ?」
「それは・・」
とても答えにくいことを聞いてくる。XANXUSと面識があるかどうかはツナ自身が知りたい事だ。
「多分、会った事がある・・・・のかな?」
「はっきりしねーなぁ」
「どこか、懐かしいとは感じるんだけどどうしても思い出せなくて・・・もしかしたら、誘拐された前後に会ってるのかも」
「誘拐だぁ!?」
何故そこで熱り立つんですか!?元々悪者顔なのに更に怖い。
「お前は隙があり過ぎだぁ!もっと気張れ!」
「過労死しろと!?どこまでドSの名を欲しいままにするのマフィアって!」
「うるせぇ!自重しろ!」
「マフィアがね!」
どちらも譲る気はない。目つきの悪いアルティに真っ向から睨み返すツナの目には怨念が混じっている。どれだけ酷い目に合ってきたのだろう。その話を聞かせてくれといわれたら、まずは父親から受けた嫌な思い出から話し出さなければならない。何故ならマフィアだから。ツナのマフィア嫌いは家光が原因に思えてならない。
「・・はぁ、分かった。とりあえずお前とボスが知り合いかどうかは忘れる」
「なんか忘れちゃいけないような気もするんですがそうして下さい」
「で、お前は自重しろ」
「しつこい!」
「うるせぇ!」
ファルファ自身しつこく言ってしまう自分に驚いている。
ツナは敵でXANXUSが命じれば何の躊躇もなく斬り捨てる。それだけは絶対だ。
XANXUSの憎しみと憤怒の力に惚れこんで兄貴と一緒に全てを捧げると誓った。そのために髪も伸ばしている。誓いを成就させるため。
「・・変な人」
困ったように笑うツナに口元が緩む。人を安心させるというか、ほのぼのとさせる力がある。荒んでいる心を自然に溶かし、ホッとさせる何か。夜から命を賭けて戦う相手の大将なのに。この笑顔をずっと見続けたいなんて思ってしまった。
(だめ・・・私は雪。誰かにとらわれることのない雪でないといけないのに)

「10代目!」
「っハァ・・ごめん!」
脇に抱えていたランボを下ろして必死に息を整える。まさか家を出る直前で隠れんぼするとか言われるとは思わなかった。あと隠れるの上手すぎ。やっと見つけて学校まで休まずに走ってきたツナの背中を山本が撫で、獄寺はランボを怒鳴りつける。
「10代目を煩わせやがって!」
「いいじゃねーか、まだ誰も来てねーんだし」
「霧と雲も姿を現してはおらんぞ」
「当たらなきゃいいんだけどな」
「それにしても・・・」
霧と雲がまだ姿を見せないことに多少の焦りはある。だがここで焦っていても仕方ない。気を取り直して校舎を見上げる。なんというか・・・。
「・・不気味・・」
「奴らはまだ来てねーのか?」
「それはないと思うけど」
「ツナー、ランボさん眠い」
「ちょっと黙ってようかランボー?」
グイグイと服を引っ張るランボの視線に合わせてしゃがみこみにっこりと笑う。激しく首を上下に振るランボの目は涙目。失礼だな。何をそんなに怖がっているんだろ?
笑みを浮かべて優しく聞くツナから少しずつ、悟られないように獄寺と山本は距離を取った。とても不機嫌です。
「・・我々はとっくにスタンバイできています」
淡々とした感情が込められているか分かりにくい女性の声が頭上から。見上げると渡り廊下の屋根の上に立っているチェルベッロとヴァリアー達。
「あ、すみませんお待たせしました」
「お前は何でそう低姿勢なんだ」
「痛い痛い!待たせたんだから謝るのは当然だろ!?何で蹴るの!?」
「マフィアのボスが簡単に頭下げんじゃねえ」
「黙る!煽り、禁止!」
リボーンの口を押さえ込む。強制閉口、もう喋るな。必死です。
「厳正なる協議の結果、今宵のリング争奪戦の対戦カードが決まりました」
チェルベッロは気にしない。協議って誰と話し合ったんだろ?素で気になっているツナの心を読唇術で読み蹴りを入れる。
「第1回戦は晴の守護者です」
バッと了平を振り返る。チェルベッロの隣、サングラスをかけた男を見る目は闘志に燃えていた。
「あいつか・・」
「あちらをご覧ください。晴の守護者のために我々が用意した特別リングです」
チェルベッロが指し示す先を見つめる。ライトが校庭に設置されたリングを照らし出していた。
「勝負ごとに各守護者の特性を考慮した特別戦闘エリアを設置していきます」
「今回は晴の守護者の特性を考慮した特別リングです」
「リングか・・先輩には悪くない条件だな」
「リングは俺の領域だー!」
リングを見てテンションをあげている了平とは違いテンションが下がっているツナ。
リング争奪戦が本当に始まってしまったんだという実感と、これから起こるであろう命を賭けた戦い。
僅かに震える身体を両腕で抱きしめる。ここで怯えていても仕方ないのに、不安になってはいけないのに。
目を瞑り頭を振る。深く息を吐き出し、大きく吸い込む。
「・・ッ」
自分を落ち着かせ目を見開くと、真っ先に視界に入ってきたのはアルティの銀の目だった。見られている。それだけで緊張してしまう。
「沢田!」
「っはい!」
挙手!手をかけられ大きく手を上へと挙げる。何故か嬉しそうに何度も頷く了平に首を傾げる。
「安心しろ沢田、俺は負けん!絶対に勝つ!」
ポムポムと頭を叩き、わしゃわしゃと撫でられた。
いつものように屈託のない笑みを浮かべる了平はとても緊張しているように見えず、何故かホッとした。
「俺が勝ってお前をボクシング部のマネージャーにする!」
「そっちー!?」
「ヴァリアーなんてよくわからん部にお前を入部させるものか!共に世界最強のボクシング選手になるぞ!」
「マネージャーからランクアップしてる!?」
「極限だー!」
「勝っても負けてもなんか微妙な気分になりそうなんで黙ってください!」
「おい芝生頭!10代目に迷惑かけるんじゃねえぞ!」
「隼人君も黙ってて!」
緊張感の欠片もないよこのメンバー!1人緊張していたのが馬鹿みたいだ。
がっくりと肩から力を抜き項垂れるツナの姿に、気づかれないように3人は息を吐いた。
ツナが緊張をしているのも、了平や山本、獄寺達を危険な戦いに巻き込んだ事で酷く傷ついているのを知っているからこその御ふざけ。戦う前に不謹慎なことであるのは重々承知しているが、それよりもツナが大切なのだ。
了平は可愛い後輩の為に。山本と獄寺は好きな少女の為に。
ただ、了平のボクシング談が冗談ではないことはいただけない。少しは諦めるということを覚えろ。
苦笑いをするツナの頭をもう1度くしゃくしゃにする了平に後ろから獄寺の蹴りが背中に入った。
とても面白くない。守護者達に馴れ馴れしく触れさせているツナがとても気に食わない。
苛々とツナを見ているスクアーロに、晴の守護者であり今から戦うルッスーリアは顎に指を添えた。
これはちょっと、色々と大変な事になってるかもしれない。ツナがファルファを見る目が恋する少年の目であることは昨夜のうちに気づいていた。そして自分の立場に悩んでいることにも。別にそれだけなら、ツナがアルティを好きになってそれで悩んでいるとかはどうでもいい。だって敵なのだから。しかし、その傾向がファルファにも現れてきているのだ。

「ねぇ、ファルファ」
「なぁに?」
「ボスが今すぐあの子を殺せって言ったら、殺せる?」
「と、当然でしょ?あいつは雪乃って奴を軽く信用しすぎたのよ。」
何を言い出すんだこのカマァ!即答で返されたその言葉に迷いも動揺もなかった。
誰以上にXANXUSに忠誠を誓い、XANXUSを待ち続けてきた兄弟。色恋沙汰ぐらいではその決意は揺るがない。安心し、ツナが可哀相だった。
「せめてあなたが殺してあげなさいね」

ちくり、その言葉でファルファの胸が少し痛んだ。

「なあ、思ったんだけどよ」
「何だよ」
「円陣とかしねーのか?」
リングへと向かおうとする了平の背を見送りながらの山本の一言。
クルッと振り返った了平はとてもいい笑顔。獄寺にしがみ付いてしまった。
「それはいい!1度やってみたかったのだ!」
「え、ちょ、そんな普通の試合ってレベルじゃないんですよ!?」
「そんなダッセーことできるかー!!」
「問答無用!」
「ほれ、ツナ!」
獄寺の首を無理矢理了平が押さえ込み、山本がツナを引っ張る。とても無駄のない実に連携された動きに抵抗する暇もない。どうしてこういう時だけ!ガッチリと肩にまわされた了平と山本の腕と強制的に回された獄寺とツナの腕。身長がっ、身長差が・・っ!
プルプルと足を震わせて必死に皆と高さを合わせるツナはさながら生まれたての鹿か馬だ。ちょっと可愛い。
「了平ーッファイッ」
「オーッ!!」
「・・・」
「ぉ、おー・・・辛い辛い本当に辛いお願い今すぐ腕放して山本先輩足つっちゃう!」
「っ悪ぃ!」
「すまん沢田!お前の身長がちい」
「それ以上言うな芝生頭ぁー!!」
遅いよ。暗雲を背負い落ち込みだす。どうせ小さいです。ネガティブ思考世界にいらっしゃいませ。
間に合わなかった事に必死で謝る獄寺の言葉すら笑い流すツナの目は何処までも遠くを見つめる。
皆足切ればいいんじゃない?とても怖いことを言い出し始めた。
「・・緊張感が無さ過ぎなのも考え物だな」
「そうねりボーン。あの子勝てるかしらぁ・・・」
リボーンの呟きに賛同するものは、ファルファのみだった。

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