冷たい雪解け
リングに倒れたのは了平ではない。うつ伏せに倒れたその背からはおびただしい血が流れ、リングから離れているツナ達の所まで血の臭いが届く。
「な、んで」
「さすがボス補佐だね、ゴーラ・モスカ
「弱者は消す。これがヴァリアーが最強と呼ばれる所以の一つだ」
「モスカ、よく出来ました」
仲間を褒めるマーモン。モスカを撫でるファルファ。静かに了平と戦い負けたルッスーリアが撃たれたわけを言うリボーン。どちらもマフィアの深い場所で生きていたから平然と言っているが、それを素直に受け止められるほどツナ達は大人でもない。闇に染まっていない。
「大丈夫か!?」
「近づかないでください」
「ルッスーリアは戦闘不能、晴戦の勝者を笹川了平とします」
「っ、こんな勝ち方・・」
「今宵の勝負はこれで終わります。次回の対戦カードは、雷の守護者同士。時刻は本日と同じ11時からです」
「このアホ牛が!?」
「いきなり・・っ」
ツナの腕の中で眠っているランボを強く抱きしめる。最初、ヴァリアーと会った日に真っ先に潰しにかかってきたレヴィを見れば、鋭い目でランボを睨んでいた。
「・・ルッスーリアは、どうするの?」
「ヴァリアーに弱者は必要ない」
「仲間なのに!?」
「甘ぇな・・お前なんかが大空のリングの保持者だなんて家光もヤキが回ったなぁ」
「そうよね。ま、私が応急処置だけはするけどね、死んじゃったら困るから」
自分に向けられるスクアーロとファルファの視線に動じず、試合の途中で現れた家光はツナの肩を掴んだ。
「ツナ、お前は何も間違っちゃいない」
「親父・・・」
「お前の優しさこそ、10代目に相応しいと思ったから俺は大空のリングを渡したんだ。自分に自信を持て」
「・・」
「お前にとっちゃ自分の息子もボンゴレの為の道具ってわけかぁ?」
「兄貴、言い過ぎじゃね?そのとおりだけどさー」
「てめぇ、10代目のお父様にっ・・」
「言葉を慎みくださいスクアーロ様、ファルファ様。守護者同士での場外乱闘は失格となります」
チェルベッロによって守護者同士での乱闘という危惧はなくなったが、ヴァリアーを見る獄寺達の視線は鋭かった。自分の上司への無礼でバジルすら武器を構えている。
「それでは皆さん、明晩にお会いしましょう」
手に持っていたボタンを押す。リングが煙を上げ解体され了平の目の前でモスカがルッスーリアを回収する。
「っ助ける気がないなら置いて行け!」
「何言ってんの?私が応急処置やるんだってば。」
「ツナ、待て!」
「ツナ殿!」
バジルと家光に肩を押さえつけられながら叫ぶ。気絶しているルッスーリアを抱えそばにきたモスカの横で、1度だけツナを見たスクアーロ達は無言でその場を去った。解体されたリングの破片が散らばる校庭で、その場に残されたツナ達を沈黙が包み込んだ。
湯上りで火照った体を拭きながら今日の試合を思い出す。仲間を平然と殺.すと言われたことで胸に抱いたのは大きな悲しみ。暗殺部隊といえど共に戦ってきた仲間なのに1度の負けで殺されるなんて。ゴーラ・モスカに抱えられ消えたルッスーリアがどうなったかは分からないが、殺されていないことを願う。
どんな手を使ってでも明日、ルッスーリアの生死を問い詰めてやろう。その前にランボを試合に出させない方法を考えねば。自分が脱いだ服を畳んでから脱衣所から出る。
「あれ?」
台所が光っている。誰か起きてる・・お母さん?奈々だったらどうしようと顔を覗かせると、そこには10歳成長した牛柄シャツの青年。
「ランボ?」
「こんばんはツナさん。湯上りですか?」
「え、なんでランボがここに?」
「眠れなくて牛乳を飲んでいたら・・多分昔の自分が寝ぼけて撃ったかと」
「本当に器用なことするよね」
「すみません」
頬をかいて目を逸らすランボに苦笑する。ランボもつられて苦笑しているが、急に真剣な目つきをした。
「・・・泣いて、たんですか?」
「え?」
ドキッとした。泣いていたのが図星だったし、まさかランボに悟られるとはまったく思わなかった。小さい姿のランボのイメージが大人ランボにも定着しているせいか油断してしまった。
笑って誤魔化そうとしたが、立ち上がったランボは無言でツナを抱きしめる。
「ちょ、ランボ!?」
「・・あなたは俺にとって大事な、大切な男性・・子供の頃からずっと憧れていた」
「ランボ・・」
「何があったんですか?俺がここにいられるのは5分間だけ・・ほんの少しの間だけでも、俺は貴女の力になりたい」
教えてほしい。囁かれた言葉は真剣だった。
頬を伝った温かいものに、やっと収まった涙がまた流れだした。
「・・俺は、敵とか味方なんて関係なく、誰にも死んでほしくない・・傷つかせたくない」
「はい」
「なのにいつも皆を巻き込んで、今度は子供のランボまで巻き込んで」
「えぇ」
「皆一生懸命なのに、必死に戦ってるのに、俺はっ」
「・・」
「俺は、あの人をっ・・敵なのに、好きになって、皆を裏切って!」
「・・それは違います、ツナさん」
「違わない!」
ほんの少しだけでも、ファルファが喋るだけで胸が高鳴る。目が合うだけで体が熱くなる。
命を賭けて戦っている仲間の前で。誰も傷つけたくないと言っておきながら。
「忘れようと思ってるのに、どんどん好きになっちゃうんだっ・・・!」
「・・誰かを好きになるということは素晴らしいことです」
頭を撫でながら優しく、言い聞かせる。
「苦しくなるほど貴女はその人を真剣に好きなんです。とても素晴らしいことじゃないですか」
「出会わなければよかった」
「そうなこと思っちゃ駄目です。人は必ず誰かを好きになります、愛します。その気持ちは誰にも妨げることはできません。ツナさんが誰を好きになっても、それは裏切りではない」
「でも、あの人は」
「貴女は逃げているんですツナさん。その人にツナさんの想いを断られることに」
逃げている・・。違う、とはいえなかった。自分は敵を好きになってしまった、仲間を裏切った。だから忘れなければならない。アルティが敵だと分かってから必死に自分に言い聞かせていた。
「逃げてはいけません。ちゃんと、相手に想いを告げてください。大丈夫、貴女はこんなにも愛らしい・・泣いていようが怒っていようが」
「・・あの泣き虫のランボが凄いこと言うようになったね」
「やめてください。貴女に言われると、嫌味でも照れてしまう」
「嫌味じゃないよ」
ギュッとランボの背に手を回す。
自分から抱きしめてきたのに慌てるランボの動きが面白く、吐き出せずにいたことを吐き出したことにより軽くなった胸は、痛くなかった。そう、逃げていたのだ。初めて好きになった人は、自分が戦うXANXUSの部下。絶対に無理だと決め付け、本人の口から拒絶の言葉を吐かれるのを恐れていたのだ。
そのことに気づかせてくれたランボを見上げる。照れて顔を赤くしている姿は小さい時とは違い、大人に近づいている。10年という歳月はちゃんと、ランボを成長させていたのだ。
「ありがとう、ランボ」
体を伸ばしてランボにお礼を言う。
気づかせてくれたお礼と、逞しく成長したランボに感謝を込めて。
「ツナさん・・っ」
ボフン。白い煙に包まれ、小さな体が腕の中に収まる。
スヤスヤと眠るランボ。今はなにも知らない子供だが、成長すれば頼もしい男の子に。
「絶対に、守るから」
死なせないからと、決意を込めて抱きしめた。
湯上りで濡れている髪を拭きながら今日の試合を思い出す。ツナの甘さには、ほとほと呆れる。
弱者が消えるのはマフィアでは当然ではないか。そう思いつつ、冷蔵庫からとってきた、ミネラルウォーターを飲み干した。一応、ルッスーリアは死なれても困るので、応急処置はした。
・・・明日は雷戦。レヴィの番だ。
「ボンゴレ・・・十代目・・・貴方は・・・・何者なの?」
ツナのことを考えると、胸が痛んだ。
「私・・・馬鹿っだよね・・・あいつはっ、私たちの敵。標的なのにっ・・・何でっ・・・」
「・・・泣いてるのかい?」
「え?」
マーモンが、目の前に浮いていた。
ドキッとした。
泣いていたのが図星だったし、まさかマーモンに悟られるとはまったく思わなかった。
油断してしまった。笑って誤魔化そうとしたが、立ち上がったマーモンは無言でファルファの涙を拭き取る。
「マーモンっ・・・」
「 」
「え・・・」
あまりにも小さい声だったから、聞こえなかった。
マーモンそそくさと、部屋を出て行ってしまったから、聞くことは出来なかった。
教えてほしい。囁かれた言葉は真剣だった。
頬を伝った温かいものに、やっと収まった涙がまた流れだした。
「私は馬鹿だ。マフィア失格だね・・・私は、あの人をっ・・敵なのに、好きになって、皆を裏切って!」
ほんの少し、ツナが喋るだけで胸が高鳴る。目が合うだけで体が熱くなる。
命を賭けて戦っている仲間の前で。
「忘れようと思ってるのに、どんどん好きになっちゃうの!」
涙がぼたぼたと零れ落ちる。こんなに泣いたことなんてないのに
「出会わなければよかった」
逃げている・・。今の自分にはその言葉が一番あっていた。
違う、とはいえなかった。自分は敵を好きになってしまった、仲間を裏切った。だから忘れなければならない。ツナが標的と分かってから必死に自分に言い聞かせていた。
そう、逃げていたのだ。
初めて好きになった人は、自分が戦うボンゴレのボス。絶対に無理だと決め付け、本人の口から拒絶の言葉を吐かれるのを恐れていたのだ。
「私は・・・幸せになれるのかな?こんなに血で汚れていても・・・闇の中で生きていても」
暗くなった部屋に写ったのは、月の光と、ファルファの銀色の髪の毛だけだった。
雨が激しく地面を跳ねる。鳴り響き光る雷の中、やはりリング戦は行われることとなった。この雷雨、間違いなくチェルベッロは分かっていたのだろう。試合会場となっている屋上の扉を開ける。
「ヒッ!?」
「あら、ボンゴレの皆さん」
雷が落ち、屋上の一部に電流が走る。なのに普通にファルファは避けている。
(て言うか、入って良いのかいファルファby柚留)
何あれ普通に死ぬんじゃん!鬼畜も真っ青なあれは絶対リングだ。チェルベッロ恐るべし。
「エレットゥリコサーキットの床に特殊な導体を張り巡らせています」
「避雷針に落ちた電流が床に何倍にも増幅され、床を駆け巡る仕組みになっています。今宵はこのフィールドで、雷の守護者同士の戦いをしていただきます」
「かなりのドSですね」
負けるもんか!表情を中々変えないチェルベッロに向かって言う。顔色一つ変えませんでした。負けた!
「対戦相手は2時間前から待機されています」
「2時間!?」
ツナが声を上げたと同時。タイミングを合わせてきた空気の読める雷の光に反射し、夜の闇と混じっていたレヴィの姿が浮かび上がった。
「お化けー!?」
「ヌッ!?」
「幼稚な叫びだな、ツナ」
「でも・・確かにお化けに見えるな」
「あーゆーの居たよな、お化け屋敷とかに」
「・・・売れるかな?」
「守護者をテーマパークに売ろうとする算段はお辞めください」
「え、レヴィ売られるの?何処の物好きに?」
「売るなら僕にいいなよ。そこそこの値段で売ってあげるから」
「「沢田様/ボンゴレ」」
「ごめんなさい」
ツナ側からも仲間からも酷い扱い。チェルベッロに注意を受け、謝っているツナの謝罪はレヴィには向けられなかった。虐めだ。中学生に虐められてる。いや、それよりも。
「う゛お゛お゛ぉい!ファルファ!てめぇら!傘ぐらい差しやがれぇ!」
「兄貴ーうるさいよーフード被ってるから平気だしー」
「あ!ルッスーリアは!?死んでないよね!?」
「ボンゴレ!話を聞け!」
カッパを着込んでいる自分達とは違い、頭からずぶ濡れのツナ達。あれでは風邪をひく。それなのにルッスーリアの生死の心配をするツナがとても腹立たしい。自分の体調の心配をしろ!
「アイツは生きてるよ。何てったってファルファが治療したんだし?がそれより何で傘差してねーの?」
「そっか・・・」
「安心してないでさ、傘差してねー理由は?」
「あ、私も聞きたい」←(ファルファ)
ルッスーリアが生きてることに安心する。本当に、嬉しそうに顔を綻ばすツナにまたさらに苛々した。
「そう言えば、昇降口の傘立てに置いて来ちまったな」
「そうだね・・違和感すら抱かずに置いてきちゃったよね」
「雨の日は置いてきますからね、傘」
「昇降口に置いてきました」
「馬鹿かお前らぁー!?」
「ヒーッ!」
怒鳴られた!スクアーロが言うことは尤もで、リボーンは何も言わなかった。屋上だと言われて移動したのに何で置いてきたんだお前らは?こんなところで傘を差したら真っ黒こげに焼きあがってるだろうが。こんがりなんて物ではない。ウェルダンなんてレベルじゃない。中も外も真っ黒焦げ。炭です。
「ツナー、ランボさんあれで遊ぶー」
「遊具じゃないから!ウェルダンになっちゃうよ!?」
食べられたくないでしょ!?サッと抱き上げリングから離れる。
「では早速円陣だー!」
「ヒッ!?」
「なっ、またか!?」
「ほれほれ、せーの!ランボーッファイッ!」
「オーッ!極限ーッ!」
「つ、つる!足つる!」
「ガハハハー!面白ー!も1回ー!」
「喜ぶなバカ牛!大丈夫ですか10代目!?」
「どうせ小さいよ!」
「逆キレだな」
「うるさい!ランボ、こっち来て!」
面白がっているランボをがっちりと掴み、しゃがみこむ。
不思議そうに見上げてくるランボを見つめながら、レヴィを見る。ランボを真っ直ぐ睨む目はギラギラと危ない輝き。
「今からランボがすることは遊びじゃない、危険なことなんだよ。無事じゃすまないかもしれない」
「ツナ?」
「俺はね、ランボに戦ってほしくない。下手したら死んじゃう目になんて合ってほしくない」
「・・昨夜ツナを泣かしたのは、あいつ等?」
ヴァリアーを指差し、言う。何故知っているなんていえなかった。後ろで獄寺や山本、了平が息を詰めたから。
「あいつ等のせいで、ツナは泣いたの?」
「私、泣いてないよ?」
「寝ながら泣いてたの、知ってるもんね」
モゾモゾと動きツナから脱出する。寝ながら泣いてたとは、昨夜はかなり涙腺が緩んでいたのだろうか?
「ツナを泣かせる奴は俺っちが成敗するもんね!」
「ランボ、待って!」
トテトテと歩いていってしまうランボを追おうとするツナをリボーンが制する。
「邪魔すんな」
「でもっ」
「あれでもあの馬鹿、ずっとお前のことを心配してたんだ。戦わせてやれ」
ツナを守りたいと思う気持ちは獄寺達にも負けはしない。ツナを本気で慕っているから、この戦いの意味を理解できていなくてもランボは立ち向かおうとしている。これは成長するための試練。ランボの雷の守護者としての。
「信じろ」
「・・うん」
「その甘さが命取り」
出だしから流れはレヴィへと傾いていた。一方的な攻撃、圧倒的な力の差。痛みに泣きさけんだランボが色々と物が詰まっている髪から取り出したのは10年バズーカだった。それにより10年後から成長したランボが現れたのだが、それでもレヴィとランボの力の差は埋まらなかった。
危ない。10年後のランボが殺されると緊張が走る中を、大人ランボはさらに自分に向かい10年バズーカを撃った。初めての現象。まさか更に撃つとは思わなかった面々の前に現れたのは、20年後のランボ。
持つ雰囲気は洗礼された威圧感。受けた雷を地面へと逃がすことを造作もなくしてしまった、雷の戦士だった。勝てる。足元に転がっていた角を装着し、レヴィへと向かっていった姿に安心しているツナ達に襲ったのは、5分という時間の終わり。
ランボが、殺される。
20年後ランボが纏っていた電流を子供のランボが耐えられるはずもなく、全身に浴びてしまったランボはその場に倒れている。微弱に、動くことなく。意識を失ってしまったランボを前に、レヴィは一切の手加減をしなかった。
「レヴィ!」
「ランボォ!」
「待てツナ、失格になるぞ」
ランボに向かい足を振り落とすレヴィがいるリングへと向かおうとするツナに言う。失格になってしまえばツナが持つ大空のリングは向こうに渡る。それだけではない、雷のリングも向こうに渡ってしまう。
こちらが不利になるのは火を見るより明らか。
「だから何だよ!?」
高々と電気傘を天に掲げる。雷が傘へと落ち、電流を帯びた傘の先をランボの心臓に狙いを定めて。
「とどめだ!」
振り下ろす。
電流を帯びた電気傘を勢いを生かしたままランボに向かい刺そうとした。
だが、自分に目掛けて何かが倒れてくる、風を切る音が耳を掠めた。
ほんの一瞬、それらを確認したレヴィは飛び上がる。そこに居れば下敷きになるからだ。
重い音を立てて倒れたのは避雷針。綺麗にランボを避けて倒れた避雷針は、何かに溶かされた跡が残っていた。
「熱・・?」
「熱が避雷針の細い場所を溶かしたみたいだね」
「!サーキットの外に」
熱で溶かされた避雷針の根元から上がる蒸気に隠れるように誰かが立っていた。
チェルベッロのその言葉に皆の視線が集まり、息をのむ。
いつもは橙色の目で見上げてくる大きな優しい瞳は、珊瑚色へと変わっている。
「リングなんて・・」
首から鎖でぶら下げていた大空のハーフボンゴレリングを触り、それを無理矢理首から引きちぎる。
項に鋭い痛みが走ったが、そんな事気にもならない。ランボが受けた痛みに比べたら、こんな痛み。
「誰かが傷つかなきゃ手に入らないリングなんて、いらない」
「・・・フッ・・・成長したみたいね、沢田 綱吉」
「リングとかボスなんてどうでもいい俺は、そんな物の為に戦いたくない」
無理矢理鎖を引きちぎったせいで切れた箇所が雨に濡れて痛む。ジクジクとした痛みが体を走る。でも、気にならない。避雷針が倒れているサーキット内へ向かい歩き、倒れているランボを抱き上げる。
小さく、断続的にされる呼吸。とても危ない。
「なら、何のために戦う?」
頭上から響く声。
ゆっくりと上を見上げるツナの目に映るのは紅い目を持つ男、XANXUS。
2人の視線は交差し合ったまま逸らされることはない。無言で、見つめあう。
「護る為に戦うよ」
珊瑚色となっていた瞳が、徐々に本来の橙色へと戻っていく。それに伴い額で揺れていた炎も消えていく。
「敵とか味方とかそんなこと関係なく、死なせたくないから、傷つかせたくないから。だから護るために戦う」
決意を込めた目に、XANXUSは目を伏せた。スクアーロ達は動揺した。どんな時でも傲慢に、自信を持つ最強の男が小娘1人の視線から逃げるかのように目を伏せたのだ。
「雷戦への妨害行為により、勝者をレヴィ・ア・タン様とし沢田様のリングを没収します」
この空気を壊すためか、それとも己の審判としての義務を果たすためなのか。表情がつかめないチェルベッロは唐突に今回の試合の判定を行った。
「何で10代目のリングまで!?」
「避雷針はフィールドの一部です。それの破壊は試合への妨害行為と取るのが当然・・よろしいですね?」
近寄り大空のリングを受け取ろうとするチェルベッロを無視をした。ランボの首にぶら下がっている雷のリングを鎖から抜き取り、自分が持っている大空のリングを右手でしっかりと握り締める。確かにランボを助けるために避雷針を破壊した。妨害行為ととられても仕方がないこと。
「こんな物っ・・」
給水タンクの上に立っているXANXUSに向けて、二つの指輪を投げる。渾身の力で。投げられた指輪は軽々とXANXUSの手の中に収まったが、投げたツナは背を向け入り口へと走っていた。
「待ちなさい。」
給水タンクから入り口まで跳躍。ツナの目の前に着地をしたファルファを下から睨みあげる目には、敵意が光を放っていた。
「リングを没収されてもまだ、護るために戦うとほざくの??」
「リングなんてどうでもいい」
「ガキだね・・・お前達が負け、ボスが勝てば、お前の大切な人間を全員殺されるわ?それでも?」
「そんなことさせない、絶対に護る。退いて!」
「護るって言う割には泣いてるね。・・・・沢田綱吉」
ファルファを押し退け進もうとするツナの頭を押さえ込む。雨に濡れ、水分を含んだ髪がわしゃっと手の中で束となった。
「ボスに忠誠を誓いなさい。そうすれば、助けてあげられる」
「・・・え?」
「例えあなたが私達に勝ったとしても、待っているのはボンゴレに利用され捨てられる運命だけだ、それでもいいの?」
「っ」
銀色の目が悲しげ揺れていた。その目が何故か、見つめていられなかった。一秒でも長く、その目に見られたくなかった。手を払いのけ、校舎の中に駆け込んでいく背に向かいリボーンや家光がツナの名を呼ぶ。止まりたくない、あの場所に居たくない。
何故か知らないが、酷い罪悪感が胸を締め付け、止めどなく涙があふれ出た。
公園のブランコに座り、何度も何度もあふれ出る涙を袖で拭う。すでに雨はやんでいるがすでに10月に入っている。濡れてしまった服が体に纏わりつき、体温を奪っていく。寒さで震える体と嗚咽を繰り返しながら、必死に涙を拭った。ランボを病院へと運び込み、急ぎ奈々に連絡を取ってきてもらった。
滅多なことでは声を張り上げない奈々が自分に問い詰めてきたが、事情を話すことは出来なかった。
雷が傘に落ち、坂から転げ落ちてしまったと言い張るツナに奈々は何度も問い詰めた。それでも、答えられなかった。今晩が峠だと言われても、もしかしたら死んでしまうかもしれない。子供のランボが。自分のせいで。
無理矢理にでも棄権にさせていればこんなことにならなかったのに。
何度も、何度も。ランボを戦わせてしまった自分自身を責める。責めずにはいられない。
「ランボ・・らん、ぼぉ・・」
アルティに向かい護ると宣言したのに、泣いて後悔して意識を取り戻すのを待つことしか出来ない。
とても歯痒い、悔しい。泣いてもランボが目を覚まさないのに泣き続ける。そんな自分にすら怒りを抱く。
「もぉ、いやだ・・」
袖を目に押し付ける。雨で散々濡れている服にさらに涙を何度も拭っているせいで一向に乾かない。
寒い、痛い、悲しい、悔しい。様々な感情が襲い掛かってくる。
「何がいやなのかしら?」
後ろから、頭の上から降りかかった声。大きな声でなく、気遣うような優しい声に恐る恐る振り返った。
雷雨が去った空に浮かび上がった月と人工的につくり上げられた光を反射した銀の髪。
ヴァリアーの漆黒の隊服を着たファルファが、ツナを見下ろしていた。
「っ震えてるじゃない・・」
真っ赤に腫れた目から流れ落ちる涙。カタカタと震えている体を包み込んでいる服は濡れている。あの屋上から走り去ってからずっと、同じ格好で夜の公園にいたのは明らか。
「貸してあげる、風邪引いたらどうするの」
「あ、ファルファっ・・・ちゃん・・・・」
肩にかけられたコートが、暑い位。嗚咽のせいでうまく名前を呼べない。何でこんな時に現れたんだ?どうして優しくするんだ?
「す・・き・・」
もう何がなんだか分からない。体中の水分が涙となって目からあふれ出てくるみたいだ。実際にそうなのかもしれない。驚くファルファを涙の膜越しに見つめ、容器からあふれ出した水のように口から言葉が、想いがあふれ出す。
「すき・・・好きなんだ。ファルファちゃんが・・っ好き・・・・ごめ、ん・・なさい」
ごめんなさい、好きになって。
ごめんなさい、言ってしまって。
感情が昂ぶって、ごちゃごちゃになって、わけがわからなくなって。想いを伝えようとは思っていた。10年後のランボのおかげで決心はついていた。それなのに涙を盾に、悲しさとか制御できない感情を道具としての勢いの告白。
愚かな男だと思われた。不謹慎な男だと思ってる。
涙は、止まらない。
「好きに、なって、ごめ・・な、さい」
「謝るぐらいなら言うんじゃないわ!」
ファルファの怒鳴り声に肩が跳ねる。ああ、断られた。やっぱり無理だよね。
当然といえば当然、それでも溢れる涙は止まらなくて、これ以上泣き顔を見られたくなくて両手で顔を覆い隠す。
「超直感も上手く使えないあんたなんか、好きになるわけ・・・なかった。でもね・・・不思議だねっ・・・最初は、憎んでたのに。殺したいって・・・思ってたのに。」
両手を掴み顔から退かす。鼻と鼻が触れ合う寸前まで顔を近づけ、ツナの目を真っ直ぐに見つめる。
屋上では珊瑚色へと変わり、街で見せたときよりも一段と綺麗に輝いていた死ぬ気の炎。
今は本来の橙色の瞳が涙に濡れている。
ファルファの目もだ。
「だ、いすきよっ・・つなよしっ・・・。」
片方の手だけを解放し、指を絡める。ひんやりとした冷たい指に驚いたが、目はツナを見つめる。
逃がさない、逸らさせない。ファルファの目を見つめ返すしかないツナの目に刻み込ませるように、口の端を吊り上げる。
ファルファは一度抱きしめ、こうささやいた。
「ヴァリアーを裏切ったってかまわない・・・大好き。」
涙交じりに吐かれた言葉の後に、唇を塞がれた。
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