ひどいゆめ


小さい頃の、夢だった。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん!砂のお城できたよ!」

「すごいな雪女!」

「ねえお兄ちゃん、次は何して遊ぶ?」

「そうだな、シーソーもいいし、ブランコも・・・そうだ!サッカーしよう、サッカー!」

「うんっ!」

そう言って、小さい彰人が雪女の手を引いた。

そして二人でサッカーをしていると、雪女はあることに気がついた。
さっきから自分達をずっと見ている女性が居るのだ。

「ねえねえ、お兄ちゃん。あそこにいるお姉ちゃん、あたしたちを見てるよ?」

「・・・雪女、見るんじゃない。」

「えっ?」

「ううん、なんでもないよ。ねえ雪女。サッカーは終わりにして滑り台に行こう!」

「う、うん・・・」

そう言って雪女は彰人に手を引かれた。

雪女はどうしても気になり、ちらりとさっきの方向を振り返った。

だが、そこに女性の姿は無かった。

「あれ?」

無邪気に滑り台で遊ぶ二人。

「雪女!滑ってここまでおいで!」

「うんっ!」

そう言って、雪女は楽しそうに滑り台を滑り降りた。

しかし、勢いよく着地したせいで、
ペンダントの紐がほどけ、少し遠くに飛んでいってしまった。

「あっ、ペンダントが!」

「本当だ!」

「あたし、取ってくるね!」

「・・・うん。」

そうして、雪女はペンダントの飛んでいったほうに走った。

「あった、あった」

ペンダントを見つけ、紐をきっちり締めて、
雪女は彰人のところに戻った。

そこには、驚くべき光景が広がっていた。

なぜなら・・・

さっきの女性の背中に6枚の綺麗な羽が生えていて、
彰人の手を引っ張り、連れ去ろうとしていたからだ。

しかも、彰人の背中にも2枚の小さな羽根が生えていた。

「くそっ、離せ!!」

女性は小さい声でこう囁く。
なぜか、小さい声なのにはっきり聞こえる声で。

《あなたの居る場所は そこではない》

《あなたが居るべき場所は 天界だけ》

《妹から離れなさい この世を捨てなさい》

「雪女から離れる!?やなこった!!」

彰人を助けに行きたいけど、足が動かない。
声を出したいけど、声が出ない。

雪女はただ、目の前を見るしか出来なかった。

《離れろ!!離れるのだ!!》

「やめろ!俺から手を離せ!!」

《お前は妹を犠牲にしてまで生きたいのか!》

「違う!俺は・・・俺は・・・!!」


雪女は必死に声を出そうとした。
そして、ようやく・・・



「兄ちゃんを連れて行くなーーーーッ!!」

はっ


目が覚めると、白い天井があった。

「・・・ゆ、夢・・・?」

雪女は額の汗をぬぐって、
周りを見回した。

「ここは、どこだ・・・?」

すると、雪女の居る部屋のドアが開いた。

「あら、目が覚めたみたいやね。」
「ここは・・・どこですか・・・?」
「ここ?ここはナニワランドの救護室やで。あんさん、試合中にぶっ倒れたんやで!」
「試合中に・・・倒れた・・・」
「うち、テレビで見てたんよ〜。急に叫んでぶっ倒れるやなんて・・・」
「叫んで・・・」
「・・・ただの過労みたいやね。練習しっぱなしやったんとちゃうの?」
「あ、はい・・・」
「休みはしっかり取らんとアカンよ。」
「はい・・・」
「外であんさんの目覚めを待っとる子たちが大勢おるんよ。今呼ぶさかいに・・・」
「どうも、すみません・・・」
「・・・いえいえ、これもあちきの仕事っス!!」
「えっ!?」

目の前を見てみると、さっきまでそこにいた女性はおらず、
変わりに狐狸がそこに立っていた。

「こここ、狐狸・・・!?」
「久しぶりっスね、雪女さん!」
「な、なんでここに!?」
「バイトっスよ。・・・いやぁ、妖狐も生きるためには働かなきゃいけないんスよ!」
「え・・・」
「それに、今あちきのお腹には赤ちゃんが居るんス!だから今のうちに働いとかないと!」
「・・・えっ!?」
「妖狐には歳という概念は無いっスからねぇ。何歳でも子供を産めるんス。10年あれば大人になるっスから。」
「へ、へぇ・・・」
「妖狐は人間と違って、10年経ってれば誰でも子供は産めるっスから。」
「そういう、物なのか?」
「そういう物なんス。じゃあまたどこかで!」

そう言うと狐狸はくるりと回り、
さっきの女性の姿になって、部屋を出た。

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