何も変わっちゃいなかった
「士郎ーーーーーッ!!」
そして吹雪は、吹き飛ばされて
地面に倒れこんだ。
「吹雪さん!」
「吹雪!」
「吹雪くん!!」
背中に走る激痛を堪え、雪女は急いで起き上がった。
「士郎!!士郎ッ!?」
「吹雪!」
「お、俺・・・救急車呼んできます!!」
雪女は吹雪の手を握り、体を数回揺らした。
だが、吹雪は気絶しているのか動かなかった。
「雪女くん、せ・・・背中・・・!!」
そのとき、秋が雪女の背中を指差し、
ガタガタと震えていた。
それも当たり前だ。
なぜなら、雪女のユニフォームの背中には、
石か何かで切ったのか、すれた跡があり、
しかも、血が広範囲ににじんでいたのだから。
「俺はどうでもいい!早く士郎を・・・!!」
そう言い放つ雪女の目には、
鬼気が満ち、涙が零れていた。
「・・・それじゃあ、またね」
その騒ぎの中、グランは円堂に一言だけ言うと、
ほかのチームと一緒に、どこかへ去った。
「・・・でもよかったわね、大事に至らなくて」
「ええ・・・」
「俺達が悪いんでヤンス・・・俺達が止められなかったから・・・」
「・・・そんな事言うなよ。お前達だって凄かったからさ・・・」
「雪女先輩・・・」
心なしか、雪女の目から
少し光が失われたように見えた。
「きっと大丈夫だ・・・きっと、すぐ元に戻るから・・・。」
いつもはキラキラと輝く、
サファイアにも負けないほどの青い目が、
なぜか今は少しだけ、くすんで見えた。
「ここは俺が何とかするからさ・・・みんなは練習しろよ。目が覚めたら教えるからさ」
「で、でも・・・」
そう言う円堂の肩を、夏未が軽く叩いた。
「じゃあ失礼するわ。」
「あぁ・・・」
そして皆は、そこから居なくなった。
「うっ・・・ひっ・・・」
雪女の目から、ぽろぽろと涙が零れる。
そしてぽたぽたと、手の甲に落ちる。
「お・・・俺・・・守れ、なかった・・・」
「・・・ごめんな・・・ごめんな、士郎・・・」
「ひっ・・・・う・・・うわああああああ!!」
そして、雪女は堪えきれなくなったのか、
少し大きな声で泣き出した。
「・・・俺、守るって・・・言ったのに!兄ちゃんに、約束したのに!!」
俺は何も変わってなかった。
泣くことしか出来ない、小さい時の俺のまま。
守るって言ったのに、守られてばかり。
俺は、何にも変わっちゃいなかった。
「雪女くん・・・守れなかったのが凄くショックだったみたい・・・」
「凄く元気が無かったっスね・・・」
「でも・・・吹雪先輩と雪女さん・・・本当にボールを取りに行っただけなんでしょうか・・・?」
そう、ぽそっと春奈がつぶやいた。
「・・・どういう事?」
「あ・・・いえ・・・」
「何だよ、音無。」
「私・・・少し怖かったんです。」
「・・・」
「あの時の、二人の顔・・・」
「・・・確かに、見たことないような顔してたな・・・」
「雪女先輩も、鬼気迫る顔してたでヤンス・・・」
「それに、イプシロンのときでも・・・。」
そう言うと、みんなの表情が変わった。
「吹雪先輩がボールを持ったら、感じが変わるのは、何度かありましたけど・・・」
「そういえば、雪女もそんな時あったよな?」
「なんと言うか、感情が高ぶっていたような・・・」
「確かに、言われてみれば・・・」
「・・それに、ナニワランドで雪女先輩が倒れるときの言葉・・・」
「“やめろ、エリーゼ”」
「あれも何だか引っかかります・・・」
「もしかしたら、雪女も吹雪も、相当悩んでいたんじゃ・・・」
その時、
雪女がふらり、と出てきた。
「雪女!」
「雪女くん!」
「あー・・・みんな、どうしたんだ?集まって・・・」
「雪女くん、どうしたの?元気がないけど・・・」
「・・・あぁ、大丈夫大丈夫!俺は平気だよ・・・」
そう言って、雪女は歩き出した。
雪女が背を向けた瞬間、みんなは吃驚した。
なぜなら、雪女のユニフォームの背中には、血のシミが大きく出来ていたからだ。
「雪女!それ・・・!」
「ん?あぁ、これか?落ちたときに石か何かで切っちまったみたいでさ・・・平気だよ、こんぐれー。」
「駄目だよ!こっち来て!治療しなくちゃ!」
「あ、大丈夫だよ、秋ちゃん・・・」
「駄目!」
そう言うと、秋は雪女の手をぐいと引っぱって連れて行った。
「雪女・・・」
「・・・うぐっ・・・」
「我慢だ、我慢。こんなに大きい傷なのに、破傷風になってないだけ儲けもんだ。」
「・・・すみません。」
「傷口が乾いてるし、かなり放ってたな?こりゃ浅いが、傷跡が残るぞ」
「いいんです、背中ですし・・・」
「ほう、男らしいな」
「いえ・・・」
雪女は、秋に連れられて、
病院で診察を受けていた。
雪女の背中には、
浅いながらも広い範囲で、刀で背中を斜めに切られたような、傷が出来ていた。
「・・・ふむ、大きい血のシミが出来ていたから、どんな大怪我かと思えば、浅い傷だな」
「そう、ですか」
「こりゃ、ある意味勲章だぞ」
「・・・そうですね」
「あと、落ちたときに頭を打ったみたいだな、頭に小さい傷が出来てるぞ。まあこのくらいなら心配ない」
「・・・はい。」
「じゃあ薬を出しておくから」
「はい・・・」
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