エリーゼという名の


「士郎。」

相変わらず士郎は目を閉じたまま。

「・・・」

雪女は何も言わず、
ベッドの傍の椅子に座り、やさしく吹雪の手を握った。

「(頼む)」

「(うわ言でいい、何か一言でも)」

「(話してくれたなら)」

そうしているうちに、
だんだんと眠気が・・・

「(眠たい・・・)」

そうして、雪女はつい座ったまま
眠ってしまった。


そして、夢を見た。


「あれ、ここは・・・?」

気がつくと、
俺はただ真っ暗な空間に一人で立っていた。

「なんでこんな所に・・・うわっ!?」

その時、まぶしい光と共に、美しい女性が俺の前に現れた。

そして、俺は言葉を失った。

女性の背中には、6枚の美しい羽がついていて、
しかも、この前夢に出てきた女性にそっくりだったから。

《我が名は、エリーゼ・F・サンライズ。》

《すべての天使を司る、大天使なり・・・》

名を聞いた瞬間、兄ちゃんの言葉が
頭の中にフラッシュバックした。


“エリーゼ・F・サンライズに気をつけろ”


「・・・!!」

《貴様は、火月雪女か》

「あ、あぁ!」

《そうか。なら話は早い》

《我は回りくどいことが嫌いでな》

「話・・・?」

《・・・火月彰人と別れよ》

「兄ちゃんと、別れる・・・!?」

《そうだ。貴様の兄は、“天界規律32540条”に違反しておる。》

《我は不規律も嫌いなのでな》

「ちょっ、意味わかんねぇよ!!」

《・・・これだから人間は。》

《簡単に言えば、お前の兄は、天界規律32540条に違反しておるのだ。》

《32540条とは、『見習い天使、および小天使は、下界に降りることを禁ず』というものじゃ。》

《規律を破りし者は、何があっても引き戻し罰を与えねばならぬ。》

《それ故に、お前の兄を引き離さねばならない》

「何で、俺にそんなことを言うんだ!?」

《我とて、お前などに協力など得たくない》

「じゃあ、何で・・・!!」

《貴様の魂と彰人が同化し始めているからだ》

「同化・・・?」

《そうだ。》

《単刀直入に聞く。貴様と彰人が入れ替わるとき、貴様の体に激痛が走らぬか?》

「確かに、痛いけど・・・」

《同化し始めておるから痛むのだ。》

「な、なんでだよ・・・!?」

《貴様に説明しても無駄だ》

「!!」

《前に貴様から彰人を引き離そうとしたのだが、貴様の意思で跳ね飛ばされてしまった》

《それ故に、貴様の了解が無ければ貴様から彰人を引き離せなくなってしまった》

《・・・まったく、本当に面倒だ》

「じゃあ、前見た夢に出てきた女性は・・・!!」

《ああ、我だ》

「そんな・・・!」

《・・・だが、彰人も哀れな奴よの。》

《妹の体を借り、妹の体に負荷をかけてまで生にしがみつくとは》

《・・・哀れなものだ。》

『哀れなのはあんたよ、エリーゼ!』

その時、エリーゼの声とは違う、
女性の声が、俺の後ろから聞こえた。

後ろを振り返ると、そこには、
サクリファイトの天使にそっくりな女性が立っていた。

《・・・テュシアー》

『天界規律なんかにしがみついて、バッカみたい』

《貴様に何が分かる!人間などに力を貸す堕天使同然の貴様に!!》

『あんただって昔はそうだったでしょ!?』

《・・・ッ!!》

『雪姫さんの思いに惚れたから、感心したから!あんたは自分からスタンドになったんでしょ!?』

《昔の事だ!!》

「雪姫ばあちゃんの、スタンド・・・!?」

《ぐっ・・・また、来るぞ・・・!!》


そう言い、エリーゼは消えてしまった。

『あの規則女め、二度と来るなッ』

「どういう、ことだ・・・っ!?」

混乱している雪女に気づくと、
テュシアーと呼ばれていた女性はあわてた。

『・・・あわわ、貴方のことをすっかり忘れてたわ・・・!!』

「あなた、は・・・?」

『お久しぶりね。「犠牲」の天使よ』

「サ、サクリファイトの!?」

『・・・そう。』

「でも、どうして・・・!?」

『時間が無いから早口で言うわ。彰人と入れ替わるのはもうやめたほうがいいわ』

「どうして!?」

『あの子は小天使。小天使が下界に下りることは禁じられてる。』

『けど、あの子は貴方を守りたいが故に、罰を承知で降りて来たの』

「俺を、守りたいために・・・?」

『そう。でも頭の固い連中は、それを絶対に認めないの。』

『今帰ってくれば、まだ罪は軽いから罰もそんなに受けなくて済むかもしれないわ』

「それって、どういう・・・」

『ごめんなさい、詳しく説明してる時間は無いわ。』

『彰人を諭せるのは貴方しかいない、だから・・・』

「・・・!」

『お願いだから頼むわよ、また会うときがあれば、そのときはちゃんと・・・』



ちゃんと、詳しく伝えるから・・・




「・・・待ってくれ、テュシアー!!」

目が覚めると、そこは病室だった。

・・・士郎はまだ、眠ったままで。

「・・・寝ちまったのか・・・。」
「それにしても、変な夢だったな・・・」


“彰人と入れ替わるのは、もうやめたほうがいいわ”

“彰人を諭せるのは貴方しかいない、だから・・・”

さっき言われた言葉が、頭の中にリフレインする。

「・・・そうだ、俺は兄ちゃんに頼らずに、試合をしなきゃいけないんだ・・・」

「みんなを、守るんだ・・・」

雪女はぐっ、と強く拳を握った。
その時、外からぽつ、ぽつ、と音がした

「・・・あぁ、雨が降ってきたな」



俺の心も、雨模様だ。


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