青い目に再び光を


円堂と喧嘩したあの日から、雪女はずっとボーッとしていた。
吹雪を見舞いに行く以外は、
木陰でずっと練習を見ていて動こうとしなかった。

「・・・円堂も雪女もあの調子か」
「二人とも、食事も全然とらないし・・・」

その中、祈莉はスクッと立ち上がって、
珍しく大きい声でこう言った。

「・・・私、雪女さんを説得しに行きます」
「祈莉ちゃん?」
「見てられないんです。私の憧れてる雪女さんが、あんな風にしてるの」
「でも・・・」
「から元気で頑張って、無理してるのを見てられません・・・」
「・・・」
「だから私、雪女さんに元気を取り戻してもらいます!」

そう言った祈莉は、
いつもオドオドしているいつもの祈莉では無かった。
そして、祈莉の赤い目は、爛々と輝いていた。

「じゃあ、言ってきます!」
「う、うん・・・」
「雪女さんっ!!」
「ん・・・あぁ、祈莉ちゃん。」
「・・・どうしたんですか、雪女さん!」
「俺はどうもしてねーよ?ほら、こんなに元気だし・・・」
「から元気はやめてください!」
「・・・から元気、なんかじゃ・・・」

雪女は下を向いた。

「ほら、またそうやって下を向く!」
「・・・」
「果敢に立ち向かっていた、勢いのいい貴方はどこへ行ったんですか!」
「俺は、何も変わってなかったんだ!」
「・・・ッ」
「俺は、凄く強くなったと勘違いしてた!だけど、あいつらは格が違ったんだ!!」
「・・・それなら、それならもっと強くなればいい話じゃないですか!」
「そんなに簡単に出来るわけないだろ!?」
「貴方は、貴方は・・・そんなに簡単に諦めるような人だったんですか?」
「・・・!」
「貴方にとってのサッカーは、そんなものだったんですか!?」

祈莉は、雪女の肩をつかみ、
目線を合わせた。

「・・・だって、俺は弱いから!」
「そんなこと、ないです!」
「好きな奴一人すら守れない、弱虫のグズだから・・・」
「そんなの、ただ自分から逃げるための口実に過ぎません!」
「!!」

雪女の動きが、完全に止まった。
だが、目はしっかりと祈莉を映している。

「何が「弱虫」ですか、何が「グズ」ですか。」

「そんなの、自分を見つめたくないから、言い訳をつけて逃げてるだけです」

「私の憧れた雪女さんは、自分を見つめずに逃げるような人じゃ、ありません。」

「自分を見つめて、困難に果敢に立ち向かって・・・」

「そんな人だから・・・そんな人だからこそ、私は貴方に憧れたんですよ。」

祈莉がそう言った瞬間、
雪女の青い瞳に、涙が溢れた。

「・・・だから、前を向いてください。」

そう言って、
祈莉は雪女の顔をやさしく両手で包み、そっと前を向かせた。

「・・・ほら、見えますか?貴方のことを心配してくれる人や、仲間が。」


「雪女先輩・・・」

「雪女。」

「雪女くん!」

「・・・雪女さん!!」


その瞬間、雪女の目に、
また涙が溢れ出した。

「だから、無理なんてしなくてもいいんですよ!」

祈莉は子供をあやすように、
やさしく雪女を抱きしめた。



あぁ。

・・・俺は、今まで何を見ていたんだろう。

いや、きっと俺は、何も見てなかったに違いない。


こんなに心配してくれる仲間や友達を、

きっと俺は、何度も無視をしてきたんだろうな。


重ねられた手を振り払ったり、頭を撫でる手を叩き落したり、

助言してくれていたのに、耳を塞いでいたんだ。


・・・本当に、俺は何を見ていたんだろう。


前のことにとらわれて、後ろを見てなかった。


きっと後ろでは、みんな、みんな・・・



















俺のことを気にかけてくれていたはずなのに。


「雪女さん、分かりましたか?皆がどれだけ貴方を心配していたか。」
「・・・うん、分かった、分かったよ・・・ごめん、みんな・・・ッ・・・」
「分かれば、それでいいんですよ」

そう言うと、祈莉は雪女から離れた。

「・・・さぁ、元気を出して立ち上がってください!」
「あぁ!」

雪女は涙を袖で荒く拭くと、
ニコリと、まったく変わっていない笑顔で笑った。
そして、勢いをつけて立ち上がった。

「・・・俺、マジでどうかしてた。」
「そうですね、きっと道を見失ってたんですよ」
「皆のことを見ないで、何が「守る」だよ。自分で言っててマジで腹立つ。」
「・・・じゃあ、もう大丈夫ですね?」
「あぁ、マジで悪かった。」

そう言って、雪女はまたニコッと笑った。

雪女の、空より蒼い目には、
輝きが完全に戻っていた。

「んじゃ、練習するぞー!」

そして雪女は、皆がいるグラウンドに、
満面の笑みで、駆け出していった・・・

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