思いを連ねて、束にして
「・・・よかったですね、雪女さん。」
「祈莉ちゃん・・・」
「は、はい。何でしょう?」
「・・・ありがとう。」
「えっ?」
「雪女くんを、励ましてくれて」
「・・・そ、そんな!私が言いたいことを言っただけです!」
「でも凄いよ。私でも少ししか元気付けてあげられなかったのに・・・」
「・・・雪女さんは、自分で言うのもなんですが、私に似てる気がするんです。」
「似てる?」
「はい。・・・だからこそ、憧れたのかもしれませんね!」
そう言うと、祈莉は薄く笑ってこう呟いた。
「・・・それに、勇気にも似てる気がしますから。」
「えっ?」
「いっ、いや、なんでもありません!」
「そう?」
「はい。・・・そ、それよりお仕事しましょう!マネージャーのお仕事!」
「う、うん・・・」
そして夕方。
空が少しずつオレンジに染まっていく。
「3日くらい練習してないから、ちょっと体が鈍っちまったなっ・・・」
雪女は着替えたあと、
大きく伸びをしながらつぶやいた。
「・・・そろそろ、行かねーと。」
そう呟いて、雪女はバッグを掴んだ。
「ん?どっか行くのか?」
「まぁな。ちょっとした野暮用だ。」
「・・・そっか。早く帰ってこいよ?」
「ん。なるべく早く帰ってくるつもりだ。じゃ、行ってくる」
「あぁ。」
そう言って雪女は、
急いで走り出した。
「・・・土門くん、雪女くんは・・・」
「あぁ、今日も吹雪のところに行くつもりみたいだ。」
「やっぱり、心配なのかな・・・」
「・・・そうかもな。」
そして今日も・・・
「・・・士郎。いい加減目を覚ましてくれよ・・・」
「なぁ・・・お前はどれだけ眠れば気が済むんだ?」
「いい加減寂しいんだよ、バカ野郎・・・ッ」
吹雪の手をぎゅっと握りながら、
雪女はそう呟いた。
その時。
静かな部屋に、部屋の扉が開いた音が響いた。
「・・・?」
「失礼するわ」
「監督・・・?」
扉を開けた主は、瞳子だった。
「・・・まだ、気絶したままなの?」
「はい・・・。ずっと、眠ったままで・・・」
雪女は、吹雪の手を握りながらそう言った。
「単刀直入に聞くわ。貴方にとって吹雪君は、どんな存在?」
「・・・聞くまでも、ありませんよ」
そう言うと、雪女は瞳子のほうに視線を向けた。
その眼差しは、本当に真剣で・・・
「士郎は・・・士郎は、俺の大切な人なんです。」
そう言い終えると、雪女はまた視線を吹雪に戻した。
「だから、苦しまないで欲しいし、笑っていて欲しい。」
「・・・自分で言うのもなんですが、士郎もきっと同じ事を考えてると思います。」
「そう・・・」
そして、雪女は瞳子に向かってこう言った。
「監督。」
「何?」
「監督は、天使って信じますか?」
「天使・・・?」
「・・・俺と、士郎はそっくりなんです。・・・でも、違うところが一つだけ・・・」
「それは何?」
「士郎の中には、アツヤという“人格”が居て、人格が入れ替わる。でも俺の場合は違って・・・」
「・・・」
「俺は俺という人格のままで、死んで“天使”になった兄ちゃんと、入れ替わるんです」
「!」
「まぁ、信じられないのも分かります。俺も最初はそうでしたから」
「・・・」
「でも俺は、無理に「信じてくれ」とは、言いませんから。」
そう言うと、雪女は薄く笑った。
その時、瞳子は疑心に満ちた顔から真剣な表情になり、こう言い放った。
「・・・貴方や吹雪君が苦しんでいるのは十分に分かってるわ」
「・・・。」
「それでも、私は貴方達を試合に使うつもりよ」
「・・・俺は、構いませんよ」
「自分の体が、もう二度とサッカーが出来ないほどに壊れても、良いと言うの?」
「サクリファイトを習得したあの時で、俺の覚悟は決まってます。」
「・・・」
「そもそも・・・本当は女の俺が、ここまでサッカーが出来た事、それ自体が一番の幸運です。」
「例え試合で大怪我をしても、それが元でサッカーが出来なくなっても・・・」
「・・・俺は、監督を絶対に恨みません」
「!!」
「それが・・・俺の選んだ道ですから。」
「・・・そう。」
「はい。」
「・・・失礼するわ。」
そう言うと、瞳子は部屋から出て行った。
が、雪女は見た。
瞳子の目に、僅かに涙が浮かんでいたのを。
瞳子が出て行った後、また雪女は
吹雪の手を握り、ずっと士郎を見つめていた。
「・・・士郎・・・」
コチ、コチ・・・
二人の呼吸音と、時計の音だけが響く。
その時、雪女はこう呟いた。
「あのな、士郎。」
「今日、俺・・・祈莉ちゃんに気づかされたんだ。」
「きっと俺、今までお前やみんなに、たくさん、たーくさんの迷惑をかけてきたんだな。」
「・・・お前が目を覚ましたら、謝る。」
「たくさん、謝るから。」
「それに・・・お前に言いたいことも、あるからさ。」
「・・・じゃあ、俺は帰るな。暗くなってきたし・・・」
「じゃあな・・・また明日。」
そう言うと、雪女は吹雪の額に
小さいキスを落とした。
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