想いと思い出



暗い

真っ暗で、寒い




・・・ここはどこだっけ





泣きたくないのに、涙が溢れてくる

頬が痛い




士郎に、あいたい・・・




そう思ったらさらに、涙があふれてくる。




悲しい

寂しい

苦しい


雷門のみんなに会いたい

士郎に、会いたい・・・。




すると、目の前に小さな光が見えた。
急に現れた光が眩しくて、目をぱちぱちとさせた。

「(なんだ、これ・・・)」

そう思い、目を凝らして覗いてみると・・・






「(雪姫、ばあちゃん・・・?)」



俺の、小学生の頃の記憶・・・?


雪姫ばあちゃんは、俺の父さんの母親。
いつも縁側に座って、少し物悲しい表情をしていたのを覚えている。

俺の事をよくかわいがってくれたし、兄ちゃんが死ぬまで
兄ちゃんも可愛がっていてくれた。


「ばあちゃん、俺サッカークラブのエースストライカーになったんだぜ!」
「雪女はサッカーが、好きかい?」
「あぁ、大好きだぜ!」
「・・・あの人も、いつもそう言って笑っとったっちゃ・・・」

そう言って物悲しい表情を見せるばあちゃんに、
俺はそれ以上何も言えなかった。


ばあちゃんは、いつも誰かを思っているようだった。

いつも、いつも。




そして、
俺が中学に上がる前に、ばあちゃんは天に召された。





今際の際の言葉が、今でも妙に脳裏に残ってる。


「会いた、い・・・最後に、いち、ど、だけ・・・」

「・・す・・さ・・・あい・・た・・・」


ばあちゃんは最後まで、あの人を思っていたんだろうか。


「(何で今、こんなことを・・・)」


そう思いながら、俺はまた三角座りに戻った。


もう何も見たくなくて。
もう何も聞きたくなくて。




「・・・俺はもう、この世界には必要ない人間だ・・・。」

「小さいころ、兄ちゃんの代わりに俺が死ねばよかったんだ。」



・・・俺じゃ、誰の役にも立てないくせに。



「誰の、役にも・・・」





・・・でも、俺・・・



この世界に来たときは、本当にうれしかったんだ。

円堂たちとサッカーできて、すごく楽しかった。


辛いことも、悲しいことだってあったけど、
みんなで乗り越えられてこれた。


“雪女”


“僕には、雪女しかいないんだ”



「し、ろ・・・・」


「会いたいよ、士郎・・・っ!」


《泣かないで》


その瞬間、優しい女性の声がする。


「誰・・・?」

《あなたは、愛されて生まれてきたのだから》

その瞬間、後ろから抱きしめられた感触が。
俺の胸の上あたりに、優しい白い手が見える。


「・・・俺はもう、この世界には必要ないんだ」

《そんなことは無いわ。あなたはあの人の血を受け継いだ子なのだから》

「あの人・・・?」

《さぁ、この殻を破って外へ出て!今ならまだ間に合うから・・・》

「嫌だ!俺はもう、外になんか出たくない!!」

「きっと俺は、もう誰にも必要とされてなんか・・・」

《・・・あなたを待ってる人が、外にいるのよ!》

「えっ・・・?」






「雪女!!」








俺の目の前に映ったものは・・・


「士郎ッ・・・!!」


愛しい、士郎の顔だった。


《ほら、あなたは必要とされてる・・・》

「俺、この殻から出たい!士郎に会いたいよ・・・!」

《・・・それだけでよかったのよ》

「えっ・・・?」

彼女は俺を後ろから抱きしめたまま、話をつづけた。

《この殻を壊すには、「士郎に会いたい」って気持ちがあれば、それでよかったの》

《何もかも拒絶したけど、あなたは愛する人・・・吹雪士郎だけは拒絶できなかった》

《彼が、カギの役目をしていたのよ》


「士郎が、殻を破るための鍵・・・?」



その瞬間、俺の真上でピシ、と音がした。
驚いて上を見ると、殻はひび割れて崩れはじめた。


「!?」


その瞬間、周りが一気に明るくなる。
さっきまで寒かったのに、まるで春のように体が暖かくなる。


「殻が・・・」

《あなたは迷いを振り切ったのよ》


その瞬間、俺の後ろにいたはずの彼女が、
俺の隣に移動していた。


《あなたはもう、立派な女性よ。・・・そろそろ彰人を、妹離れさせてあげなさいな》

「・・・!?」

《まだたくさんいろんなことが残っているけど・・・逃げちゃ駄目よ、雪女》

「あ、貴方はいったい誰なんですか・・・!?」

《・・・お祖母ちゃんの顔を忘れるなんて、ひどい孫ねえ》


そう言って、彼女・・・雪姫ばあちゃんは微笑んだ。
でも、俺が小さなころに見た顔ではない。
俺と同じくらいにまで若返っていた。

でも、面影がある。

俺と同じ白銀の髪。
ガラスのように澄んだ、水色の瞳。

「(・・・死んでるからって言っても、若すぎる・・・)」

そんなことを考えていると、雪姫は雪女の手を取った。
ほんのり、懐かしいぬくもりと感触がする。

《もうすぐ、私の遺したものが見つかるはずだから、雪女にそれを見てほしいの》

「遺したもの?」

《あの人に、伝えたかったことを・・・。この世界で私が、何を残したかを・・・・。》

《だから、逃げちゃだめよ。》

《例え、つらくて悲しいことがあっても、目をそらしたらおしまいだから》

雪姫の水色の目から、ぽろりと涙がこぼれる。
その瞬間、つないでいた手が離れ、
雪姫はすぅ、と消えていく。

「待ってよ、雪姫ばあちゃん!」


「“あの人”って誰なんだ!?“遺したもの”って!?」


「ばあちゃん!」









―ばあちゃんは


    なんで、俺に・・・・・・―


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