あたらしい いのち


「・・・ん」

目が覚めると、そこは病室だった。

「そうか、俺倒れたんだったっけ・・・」

目をくし、と擦って、
時計を見上げる。

「(・・・試合、終わってるころだな)」

そう思っていると、病室のドアが開いた。
見てみると、そこには母さんが立っていた。

「雪女、どうだ?」
「・・・あぁ、だいぶ調子いい。」
「そうか。」
「俺、貧血気味だったからなー・・・」
「先生もそう言ってたぜ。」

そう言うと、母さんは真剣な顔をした。

「雪女、話がある」
「・・・ん?」
「先に言っておくが、驚くなよ」
「・・・なんだよ、もったいぶって!」
「先生に聞いたんだが、お前が倒れた理由は、二つあるそうだ」
「二つ?」

貧血とかかな、と
そんな風に軽く考えていた俺は、
そのあと母さんの口から出た言葉に驚いた。

「一つは、鉄欠乏性の貧血。」
「(あぁ、やっぱり貧血だったんだな)」
「二つ目は・・・」














「雪女・・・お前は、妊娠してるそうだ」




「えっ・・・?」


俺が、妊娠してる・・・?


「現在、3か月目だそうだ」
「ほ、本当なのか!?」
「・・・あぁ」

雪女はすっ、と自分のお腹を撫でた。

「・・・この中に・・・」

そして、美幸はめったに見せない厳しい顔で
こう言った。

「その子の父親は、誰なんだ」
「・・・」

頭に浮かぶのは、士郎の顔。

・・・体を重ねたのは、あいつとだけだ。

「・・・」
「雪女、どうする気だ?お前はまだ中2なんだぞ」
「・・・俺は・・・俺は、この子を産みたい」
「それがどれだけ苦しいことか、分かってるのか?」
「でも、この子を堕ろすことはできない!せっかく、俺を選んで生まれてきてくれたのに!!」
「・・・」

雪女は腕でお腹を抱えた。

「・・・今、分かった。あの夢に出てくる子は、この子だったんだ。」
「夢?」
「この子が成長した姿だろうな、少女の姿で現れたんだ。そして、笑って俺を見ていてくれた。」
「・・・」
「俺は、どんな苦労をしてでもこの子を育てる。」


・・・例え、あいつがこの子を認知してくれなくても。


「・・・あぁ、もう負けたよ!お前にゃ負けた!!」
「母さん・・・?」
「お前の思いが、俺にビシバシと伝わってきた!!」

「・・・その子の父親は、吹雪士郎なんだろ?」
「・・・あぁ。」
「そいつとよく話し合って考えろ。」
「それって・・・」
「・・・俺は、その子を産むのを認める。」
「!」
「正義にはさ、俺が伝えておくよ。」
「すまねぇ、母さん・・・」
「・・・お前は本当に、俺たちに似てほしくなかった所が似ちまったな。」
「え?」

そう言うと、美幸は髪をかきあげた。

「・・・俺もお前達を妊娠したのは、丁度お前くらいの頃だったよ」
「俺くらいの頃・・・?」
「あぁ。まだ結婚もできない年だったから、父さんにさんざん平手打ちで殴られた」
「・・・」
「でも、俺は堕ろすのだけは嫌だったんだ。「せっかく俺を選んでくれたのに」ってな。」
「俺と、同じ理由・・・」
「・・・色々と大変だろうけどよ、俺もできるだけ協力するぜ。」
「母さん、こんな娘で悪ィ」
「はは、大丈夫だ。俺の大切な娘と孫のためだからな」

そう言うと、母さんは俺を
ぎゅうう、と抱きしめた。

その時、病室のドアが開いた。

誰だろう、と思って
ドアのほうを見ると、そこには
松葉づえをついて歩いている士郎が立っていた。

「雪女、大丈夫!?」
「士郎・・・」
「今さっき、試合が終わったから急いで来たんだ。」
「お前、その足・・・」
「・・・うん、やっぱり怪我してた。」

その時、美幸が士郎に向かって
厳しい顔でこう言った。

「吹雪、話がある。」
「・・・?」


「・・・士郎、俺が倒れたのは貧血が原因らしいけど・・・もう一つ、理由があるんだ」
「もう一つ?」
「俺・・・妊娠、してるらしい・・・」
「!?」

士郎はそれを聞くと、凄く驚いた顔をした。

「・・・俺、この子を産みたいんだ。俺を面倒って思うなら、今ここで別れてもいい。」
「・・・」
「でも、この子をどうしても育てたいんだ。せっかく俺を選んでくれたのに・・・」
「!」
「・・・っ?」

カラン。

その瞬間、士郎が松葉杖を投げ捨てて、
俺を勢いよく抱きしめた。
いつもの士郎らしくない、強い力で。

「士郎・・・?」
「・・・別れるなんて、できないよ」
「えっ?」
「今言うのも不謹慎かもしれないけど・・・僕、今すごく嬉しいんだ」
「嬉しい・・・?」
「別れるなんて、とんでもないよ!」
「じゃあ、そばに居てくれるのか・・・?」
「勿論さ。」

ボロボロと涙が溢れてくる。
悲しさとかじゃなくて、ただ嬉しくて。

「・・・今はまだ結婚も出来ないけど、その年になったら、僕は君を絶対に迎えに行くよ」
「士郎・・・」
「・・・よかったな、雪女」
「母さん・・・」
「おい吹雪、俺の娘をお前に預けるぜ。・・・泣かすんじゃねーぞ?」
「・・・美幸さん・・・」
「水臭いな、もう「お義母さん」でも良いんだぜ?」
「えっ・・・」
「さっきの言葉、この耳でバッチリ聞いたからな。お前がいい年になったら、お前に縄付けてでも雪女のもとに連れていくぜ。」
「なっ、母さん!」
「・・・じょーだんだよ、冗談。」

「士郎・・・本当に、産んでもいいんだよな?この子を・・・育ててもいいんだよな?」
「勿論さ。僕たちで育てていこう。」

ぎゅっ、と優しく抱きしめられて、
さらに涙がぽろぽろと溢れ出してくる。

「・・・ありがとう、士郎」
「僕こそ、ありがとう。」

そう言って、俺たちは手を握り合った。



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