卒業式


・・・そして、あれからしばらく経った頃。
俺は3年生になり、白姫もちょっと大きくなった。


そして今日は、とうとう卒業式。


「ふぁ・・・おはよう、白姫」
「あうー」

いつものように白姫を抱きかかえて、1階に降りる。
下に降りると、キッチンで母さんが朝飯の用意をしていた。

「おはよう、母さん」
「おっ、早いな雪女。」
「・・・まあ、今日は卒業式だしな」

俺がそう言うと、
母さんは白姫をやさしく撫でて、白姫にも朝の挨拶をしてくれる。

「おはよう、白姫」
「あー」

「なあ母さん、頼みがあるんだけどよー」
「何だ?金銭的なことじゃなければ叶えてやるぜ」
「ちげーよ。卒業式に、無理しない程度でいいから、白姫連れてきてくれるか?」
「・・・へ?何でだ?」
「卒業式の後に、卒業試合やるんだってよ。せっかくだから、母親の雄姿を見せてやろーかな、なんて」
「・・・ぷっ、いっちょまえに言いやがって」
「る、るっさい!」
「まあ、白姫は大人しくて滅多に泣かないから・・・なんとかなんだろ」
「ありがとう母さん、マジで愛してる」
「バーカ、さっさと飯食え、飯。」
「あぁ、分かった!」

食パンを齧りながら、今日一日のことを考える。

「・・・あ、そういえば母さん!卒業式見に来てくれるんだろ!?」
「もーちろん。一人娘の大切な行事見逃すわけにいかねーだろ」
「父さんは?」
「正義は、始まるギリギリ前に行くってよ。」
「仕事か」
「仕事だ」

そんな話をしていると、
なぜか笑いがこみあげてくる。

「ふふっ、くっ・・・」
「どうした、急に笑って?」
「・・・ふふ、なんでもねーよ。」

今日が中学生最後の日。

・・・なんだか、寂しさと嬉しさがこみ上げてくるな。

そして玄関先。
白姫を抱きかかえたままで、
少しくたびれた靴を履いてからドアを開けて、白姫に別れを告げる。

「じゃあ行ってくるからなー、大人しくしてるんだぞ」
「あー」

そして、母さんに白姫を渡そうとした瞬間。

「・・・ふ、ふぇ、・・・ふぇええええん・・・」

「わわっ、泣き出しちまった!」

美幸が慌てて雪女に白姫を渡すと、
打って変わって白姫は笑顔になる。

「ふー・・・」
「頼むから、今度は泣いてくれるなよ〜」

そしてまた雪女が美幸に白姫を
渡そうとすると・・・

「ふぇ・・・ふぇええええん・・・」

「あらら、また泣いちまったな」
「俺が居なくなるのをわかってるのかな・・・」

参ったなあ、なんて思っていると。

「おはよう、雪女くん!」
「雪女、学校行こうぜ!」
「あっ、秋ちゃん、守!」

「おはよう、白姫ちゃん」
「あうー」

白姫にあいさつした後、
秋ちゃんは困った顔でこう言った。

「・・・雪女くん、そろそろ学校行かないとまずいよ?」
「でも、母さんに渡すと白姫が泣き出すんだよなあ・・・」

雪女は腕の中の白姫に、
困ったようにこう言った。

「あとで試合見せてやるから、頼むからちょっと我慢してくれよ〜?」

ゆらゆらと腕を揺らしながらそう言うと、
白姫は気持ちよさそうに目を閉じ、
小さな寝息を立てて眠ってしまった。

「・・・お、寝た寝た。」
「じゃあ、俺が抱くぜ」
「母さん頼む」

そーっと起こさないように手渡して、
俺は守たちと学校へ歩いていった。

「白姫ちゃん、相変わらず凄く可愛いね!」
「だろー?大人しくて本当に可愛いんだよ!」

「・・・それにしても、何だか緊張するね。」
「そうか?俺は何だかワクワクしてるけどなあ」
「俺も!昨日からワクワクが止まらなくてさ!!」
「あはは・・・」

そんな他愛ない話をしていると、
いつの間にか学校に着いていた。

会場に向かう途中、俺はあることを思い出した。

「あ!そうだ・・・俺、机の中にファイルしまったままだったの忘れてた!先に会場行っててくれ!」
「うん、わかった!」
「早く来いよー?」

素早く行って素早く帰ってこようと
校舎へと走り出したその時。

「あっ、あのっ!!雪女様!」
「・・・え?」

俺を呼び止めたのは、
まだ雷門中サッカー部が弱小だったころから、俺を追いかけていた子だった。

「あの、初めまして!私・・・津環葺光恵です!」
「・・・あぁ君、まだ弱小だったころから俺の試合見てくれてた子だよね?」
「は、はい!雪女様ファンクラブの会長でもあります・・・!」
「ファンクラブ、まだあったのかあ・・・」

俺、女なのになあ。
そういや、臨月の頃も数回学校に来てたのに、
いまだに俺を男だって思ってる子もいるんだっけなあ・・・

・・・なんてことを考えていると、
光恵ちゃんが真っ赤な顔でこう言ってきた。

「そ、卒業式が終わった後でいいので・・・」
「後でいいので?」
「せ、制服の・・・だ、第二ボタンくださいッ!!」
「・・・別にいいけど?」
「や、やったああーーーーッ!!」

天にも上りそうな顔で笑う光恵ちゃん。
・・・ふつう反対だろう。

「じゃ、じゃあ予約ですからね!頼みますよ!!」

そういって真っ赤な顔で走り去る光恵ちゃん。
・・・そんなに俺の第二ボタンが欲しいのか・・・?

そして、卒業式は何事もなく終わり・・・

「・・・卒業、しちまったなあ」

卒業証書の筒を片手に、
第二ボタンの無くなった制服を着ながら、
俺は空を見上げた。

桜がふわふわと舞い散って、とてつもなく綺麗で。

目を閉じれば、この2年間の記憶が
ぐるぐると駆け巡る。




ちょちょちょちょ待て!
・・・まさかここって・・・

イナズマイレブンの世界かよ!?






あぁ・・・兄ちゃん。俺もこの特訓でそっち(天国)に行けそうだよ・・・





・・・俺はもう、何も失いたくない。失うのが一番怖かった
守り通す力を手に入れた、今の俺に・・・もうそんな恐怖はどこにもない!!!





・・・な、生のイナズマキャラバンだ!




でも、会えたからって・・・恋仲になれるわけないよな・・





諦めなきゃいけないのに、さらに好きになっちまったじゃねーか・・・ばか・・・





・・・雷門を信じろよ。いつだって、お前はそれで乗り越えてきたんじゃないか

でも・・・俺・・・

頑張れよ、雪女。・・・俺の自慢の妹。頑張れなくなったら、代わってもいいさ。





ああ、神様。


どうして貴方はいつでも


俺の大切なものを、傷付けるのですか。






士郎は・・・士郎は、俺の大切な人なんです。





俺こそ謝らなくちゃならねーんだ。
俺はきっと今まで、お前やみんなにいっぱい迷惑をかけてきたんだろうな。





士郎・・・本当に、産んでもいいんだよな?この子を・・・育ててもいいんだよな?

・・・勿論さ。僕たちで育てていこう。





・・・ありがとう、士郎。
僕こそありがとう、雪女。






「雪女ー!」

母さんの声で気が付けば、
俺はいつの間にか泣いていたみたいで、
頬に涙がすうっ、と伝った。

急いで涙を拭いて振り向くと、
母さんの腕に抱かれている白姫と目が合った。

「あ、あー」
「・・・あぁ、ごめんな白姫。」

母さんの腕から白姫を受け取り、
しっかりと抱きとめる。

「円堂が呼んでたぞ、試合するからって」
「あぁっ、そうだった!」

俺は白姫をもう一度母さんに預け、
ユニフォームに着替えるべく、走り出した。

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