愛してる、これからもよろしく


「・・・じゃあ俺、白姫預けに帰るな」
「あら、もう帰っちゃうの?」
「雪女さん、女子の打ち上げ行かないんですか?」
「あぁ、白姫も眠たいのかぐずりはじめたしなあ。あと用事もあるし」

「用事ぃ?」
「きっと吹雪さんとのことですよ!」
「プロポーズとかでしょうか!?」
「ちょっ、祈莉ちゃん!ヒカリ!!」

・・・でも、あながちありえない話でも・・・

「・・・でも俺・・・」

「雪女さん?」
「・・・どうかしたんですか?」
「あっ、いや、なんでもないや!」

そう言って、照れ隠しに歩き出した。

「じゃあまたな!」
「時間見つけて、また会いましょうね!」
「待ってますからー!」
「ああ!」

「ふぇ・・・」
「母さん、ちょっと出かけて来るからなー。大人しく寝てるんだぞ?」
「あう・・・」

うとうとしている白姫をリビングのベビーベッドに寝かせて、
やさしく頭を撫でてあげる。

「俺、ちょっと出かけて来るから白姫頼めるか?」
「・・・あぁ、構わねぇよ。」

母さんに白姫を頼んで、
俺はそのまま、士郎と待ち合わせをしている鉄塔まで走った。

当たりが夕焼けで、綺麗に真っ赤に染まった頃、
俺は鉄塔に着いた。

きょろきょろと士郎を探すと、
いつものところで夕日を眺めているのが目に入った。

「士郎ーっ!」

俺がそう声をかけると、
士郎はバッ、と後ろ手に何か隠して振り向いた。

「(あれ、今何か隠さなかったか・・・?)」

でも、そんな考えはすぐ吹っ飛んだ。
なぜなら、士郎が夕日と相成って、何だかすごく綺麗で・・・
無意識に頬が熱くなる。

「・・・急に呼び出してごめんね。」
「い、いいんだよ!ちょうど家に母さん居たから白姫も預けてこれたし」
「そっか。」

そう言うと、士郎はにこりと笑った。
また顔が熱くなったから、話を逸らしてごまかした。

「・・・それにしても、相変わらず綺麗だよな、ここの景色。」
「だから、ここで言いたかったことがあるんだ。」
「あ、そっか!言いたいことあるって言ってたもんな!」


「でも、今更畏まって話し合う仲でもー・・・」


その瞬間、俺は言葉を失った。



振り向いた士郎の片手には、小さな箱。
もう片手には、これまた小さな、
アイリスやアネモネやバラの詰まった花束。


・・・士郎の言いたいことなんて、一瞬で分かってしまって。



「・・・雪女、僕と結婚してください」



「えっ、あっ・・・えっ?」

もう頭の中混線。
恥ずかしさと嬉しさが混じり合って、
最終的には涙まで出る始末。

「まだ結婚できない年だけど・・・予約させておいてくれないかな?」

そう言って、士郎は俺の手に指輪をはめてくれた。

はめられていた石は、
俺の目の色と同じ、青色のサファイア・・・。

「・・・気に入ってくれたかい?」
「気に入らないわけねーよ、嬉しくて嬉しくて、もう死にそうなくらいだよ・・・ッ」

うれし涙が出てきて止まらない。
声はかすれるし、たぶん今すごい顔になってると思う。



でも俺はその時、あることを思い出した。
それを思い出した瞬間、涙がぴたっ、と止んでしまった・・・。

「・・・どうしたの、雪女・・・?」
「嬉しいよ・・・嬉しいけど・・・このプロポーズ、受けられない・・・・」
「ど、どうして!?」

いつもとは違う強さで、士郎が肩をつかむ。
その眼は、涙で潤み始めていて・・・

「俺、高校卒業したら・・・韓国に留学しなきゃならないんだ・・・」
「留学・・・?」
「最低でも、4,5年はかかる・・・」

今度は、悲しい涙が
俺の目からあふれ出してきた。

「父さんも母さんも仕事で海外に行くって言ってるし、預けられないから、白姫も連れていくつもりだし・・・」
「・・・」
「それに、お前に4,5年も待たせるわけにはいかねーだろ・・・」

涙がぼたぼたと零れだす。

こんなに嬉しいのに。

こんなに幸せなのに。


自分から、この幸せを投げ出すのが辛い。


「だから、だから・・・っ」


その瞬間、士郎が強い力で俺を抱きしめた。


「えっ・・・」
「僕は、待つよ。」

「・・・僕は、ずっと雪女が帰ってくるのを待つよ!」
「士郎・・・」
「手紙も書くし、メールも出す!4,5年どころか10年だって、100年だって君を待つ!」

抱きしめる腕の強さが少し痛いけど、
それを上回る嬉しさと幸せで胸がいっぱいになる。

「・・・ごめん、士郎ッ・・・!!」
「雪女・・・」
「早く、絶対に早く帰ってくるから!だから・・・俺を、待っててくれるか・・・?」
「・・・もちろんさ。」

ぎゅうう、と抱きしめてくれる士郎の腕が
とてつもなく心地よくて。

不安も、悲しみも、
幸せと嬉しさが全部吹き飛ばしてくれた。


・・・きっとお前となら、俺はどこまででも生きていける。


もうこのまま一生、あの世界に戻れなくても。


・・・いや、もう戻るつもりなんてない。



士郎と一緒に、この世界で朽ち果てよう。





その決意を胸に固めたあと、
なぜか涙がまた零れた。





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