兄と妹の話


「ふんふんふーん♪・・・あ、いた!」

機嫌よく鼻歌なんて歌いながら、河川敷に向かっていた俺は、
ふと、橋から円堂達を見下ろす豪炎寺がいるのに気がついて、走った。

「・・・おーい、ごーえんじー!」
「火月・・・・」
「お前・・・まだ、考え中なのか?」
「・・・」

俺は、寂しそうにサッカーをするみんなを
見下ろす豪炎寺の隣に移動した。

「・・・わー、染岡荒れてる。染岡ピンクだからすぐ分かる。」

とか一人笑っていると、
豪炎寺が帰ろうとしたから、それを慌てて引き留めた。

「・・・なあ!豪炎寺は何で、サッカーやってたんだ?」
「・・・お前には関係ないだろ」
「うーん、確かに関係ないなぁ。だってお前の事はお前しか分からないからな。」

笑って、ちゃかすように答えを返せば、
豪炎寺と目が合った。

「・・・夕香と、妹と約束をしたんだ・・・もう、サッカーはやらない。お前が目を覚ますまでやらない。」
「・・・」
「決めたんだ。約束したんだ。・・・だから俺は「・・・なぁ豪炎寺、それなんかおかしいぜ?」

あぁもう、やっべぇ。

・・・我慢の限界だ。

「雪女「・・・そんなのおかしい。絶対おかしい。おかしすぎ。ぶっちゃけ自己中心的だろっ!」

がっしり、と
豪炎寺の頭を掴んで目と目をしっかりと合わせた。

驚いた豪炎寺の目がめいいっぱい開いちゃってる。
・・・もう知るか。

「・・・豪炎寺はさ、夕香ちゃんのために、サッカー辞めたって、それはおかしいぜ?」
「な、」
「だってさ、夕香ちゃんは豪炎寺のサッカー好きなんじゃなかったのかよ?」

ゆらゆらと揺れる黒い瞳。
もう本当に知るか。我慢の限界だ。

「聞けよ・・・俺だってな。昔・・・昏睡した兄ちゃんに、目を覚まして欲しくて、戻ってきて欲しくて・・・」


“・・・あたし、兄ちゃんが目を覚ますまでサッカーはしないよ”


「兄ちゃんと欠かさずやっていたサッカーやめた。・・・けど、起きた後兄ちゃんは、こう言ったんだよ。」

よみがえる昔の記憶。
出そうな涙をこらえ、前を向く。
豪炎寺がマジで驚いてるのが丸わかりだ。

「“俺は、雪女のサッカーが見たくて、戻ってきたんだ。・・・なのにお前がサッカーやめてたら意味がないじゃないか・・・”ってな。」
「・・・」
「・・・夕香ちゃんが一番、豪炎寺にサッカーをやってほしいって、思ってる人じゃねーのか?」
「そ、それは」
「・・・なのにそんな、ほんと悪い言い方ですまねーけど・・・夕香ちゃんのせいにしてるように聞こえるぞ、それ?」



豪炎寺の体の動きが完璧に止まり、ゆらゆら揺れながらもその目ははっきりと俺を映していた。



「少なくとも、経験者の言うことは聞いとけ。・・・後悔するのは自分だぜ。じゃあな。」

ゆっくり後ろを振り向いて、グランドに行こうとすると、手をガッと掴まれた。
そしてズンズン引っ張られていく。

「(・・・え、え、え?何この状況。)」

引っ張られて円堂たちがいる河川敷のグランドまで連れてこられみんなが集まる中、豪炎寺が顔を上げて、


「・・・円堂、俺、やるよ。」
「ほんとか、豪炎寺!?」


わー、わー!とはしゃぐ円堂と一年たちの中で染岡のなんとも言えない顔がほんの少し見えた。
と思ったら豪炎寺が俺の手を向き合うように両手とも握りしめてきた。
え、本当に何この状況?

「・・・なぁ火月。俺、これから頑張ってみる」
「お、おう・・・」
「だから、見ていてくれ。」
「わ、分かった。豪炎寺なら、出来るぜ!」

そう、笑って言い返してやった。

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