入学試験

「·····ではこれより、試験開始です」


試験官のその一言で、受験生たちは一斉に動き出した。
·····もちろん、琉音も率先して負傷者の救護を行っていた。


「·····足はまだ痛みますか?折れてはいないようなので、私の個性で治療しますね。直ぐに痛みもなくなりますので、気を楽にして、力を抜いて下さい。」

「頭を打った?では·····今、酷い頭痛や吐き気はありませんか?もしあるようでしたら、プロヒーローの方に対処をお願いしなくてはいけないので·····」

「個性を使うので、傷に少し触れますよ。その間少しピリピリしますが、すぐに治りますから·····」


琉音は試験というプレッシャーにも負けずに、迷うことなく動いていた。
次々に負傷者に声をかけ、状態を確認して、治していく。
相手が安心するように、優しくわかりやすい言葉で何をするかを伝え、話しかける。
そして慣れた手つきで個性を使い、治し、優しく包帯を巻く。

その様子に試験官もほぉ、と感嘆のため息をついた。


「手慣れているな·····彼女はどこの学校の生徒だ?」

「·····あぁ、どうやらリカバリーガールのお孫さんらしい」

「なるほど、通りで手慣れているわけだ·····」


そして·····入試が終わりに近づいたその時、試験室の入口がざわつき始めた。


「騒がしいな·····向こうで何が起きたんだ?」

「それがすげーんだよ!でっかい“仮想敵”、ぶっ壊したやつがいるらしいぞ!!」

「はぁ!?ウソだろ!?」

「そばかすの奴があのでけぇ奴ぶっ壊したんだってよ、ヤバくねーか?」

「試験前にいたあの縮れ毛のやつが?メガネのやつに注意されてたやつだろ?」

「どんな個性だよ、ヤバすぎんだろ·····!」


周りの受験生もザワザワとざわつき始め、そのざわめきは琉音の耳にも入る。
·····恐らく彼らが話している“でっかいやつ”というのは、先ほどモニターに映っていた一番大きな“仮想敵”のことだろう。


琉音
「(すごいなぁ、あのおっきいやつ倒した人がいるんだ·····)」


琉音はそんなことを考えながら、負傷者の腕に包帯を巻いていた。


リカバリーガール
「ハイハイ、ちょっと通しておくれ。一人重傷者がいるんだよ」


·····すると、試験室の入口のドアからリカバリーガールが現れた。
その後ろには、背中に人を担いだ大きな獣の影が、その後ろに続いていた。

祖母であるリカバリーガールの登場に、ふと琉音は視線を上げ、動物に背負われている人を見る。
そして·····その背負われた人物に、琉音は見覚えがあった。



琉音
「·····ちゃーちゃん!?いずくん!?」



·····その動物に背負われていたのは、お茶子と出久だった。
驚いた琉音は、2人の元へ駆け寄る。


リカバリーガール
「·····おや、琉音。ちょうどいい所に居たね」

琉音
「おばーちゃ·····じゃない、リカバリーガールさん·····何があったんですか!?」

リカバリーガール
「説明は後だよ、とりあえず私のところを手伝っておくれ」

琉音
「は、はい!」











リカバリーガール
「琉音、先に軽症のその女の子の方から治してあげな。」
「こっちのボーヤは私が先にあらかた治しておくから·····それじゃあ黄明羅のボーヤ、その子をベッドに下ろしてあげてくれるかい」

陽太
「わかりました、じゃあここのベッドに下ろしますよ」

リカバリーガール
「それでいいよ·····じゃあ琉音。私は行くから、くれぐれも無茶はしないようにね」

琉音
「は、はいっ!」









陽太
「·····なぁ君、さっき名前呼んでたけど·····この子達の友達?」


グリフォンの姿をした彼はお茶子をベッドに優しく下ろすと、そう琉音に問いかけた。


琉音
「は、はい、そうですけど·····」

陽太
「中々に勇敢な友達がいるんだな、うらやましいぜ」

琉音
「勇敢?」

陽太
「あの緑色の髪した、そばかすの男子居ただろ?」
「あいつ、跳ね上げられたこの女の子を助けようとして——あのでっかい仮想敵、ぶん殴って倒したんだよ」

琉音
「·····えっ!?い、いずくんが!?」

陽太
「そーそー、そんでもってそのまま落ちてってよ。二人とも空中から落ちて行ってるのに女の子が個性使って男の子を助けてさ。地面に落ちる前に、俺と·····俺の双子の弟が急いで受け止めたんだよ。」


そう言うと、グリフォンは個性を解除して人間の姿に戻る。


陽太
「·····あ、自己紹介遅くなったな。俺、黄明羅 陽太きめら ようたってんだ。」

琉音
「あ、ご丁寧にありがとうございます。私は久智付 琉音です、よろしくお願いします。」

陽太
「ん、よろしくな。·····とりあえず俺達、リカバリーガールに頼まれてこの子達運んできただけだからさ、終わったら試験会場戻んなきゃなんねーんだよな。あとはお願いできるか?」

琉音
「はい、あとは任せてください。ちゃーちゃんを運んでくれて、ありがとうございました」

陽太
「いいって事よ。そんじゃ、あとは任せたぜ」


そう言うと、陽太は試験室を後にする。
·····その後すぐにお茶子が小さくうめき声をあげて目を覚ました。


お茶子
「う、うぅん·····」

琉音
「·····ちゃーちゃん、大丈夫!?」

お茶子
「るーちゃん·····?そっか、ウチ·····」

琉音
「とりあえずその傷と打ち身を先に治そうか。おでこにちょっとちゅーするよ」

お茶子
「うん、お願い」


そう言うと、お茶子は前髪をサッと手でよける。
そして露わになった額に、琉音は優しく唇を落とした。

すると薄ピンク色の柔らかな光が傷の周りにふわふわと浮かび、その光に照らされた傷が少しずつ薄くなっていく。
打ち身で出来たであろう内出血もじわじわと薄くなり、数分ほどキスを続けていると、最後には傷ごとまとめて全部消えてしまった。


琉音
「こんなものかな·····ちゃーちゃん、気分は大丈夫?」

お茶子
「うん、全然痛くない!」

琉音
「とりあえず、ちゃーちゃん·····個性使いすぎたなら吐いちゃったでしょ?口の中気持ち悪いだろうから、お水飲んで?」

お茶子
「·····うん、るーちゃんもモニターで見てたかもしれへんけど、あのもさもさ髪の人助けるために無理しちゃって·····でもそのあと、グリフォンの人が助けてくれたんよ」

琉音
「そっか·····でもよかったよ、ちゃーちゃんもいずくんも試験、ちゃんと受けれたんだね」


その時、琉音から渡された水を飲んでいたお茶子は頭に?を浮かべた。


お茶子
「もしかして、るーちゃん·····あの人と知り合いなん?」

琉音
「·····そうだよ?ちゃーちゃんが助けたっていうあの男の子が、私の幼馴染のいずくんなの!」


そう言うと、お茶子の顔が少し青ざめた。


琉音
「·····ちゃーちゃん?どうしたの?」

お茶子
「ど、どうしよう、るーちゃん·····あの人、ウチのせいでロスさせたかもしれん·····」

琉音
「えっ?」

お茶子
「あの人、最後に「せめて1P!」って言ってたから、もしかしたら0Pのままで試験終わってしもうたかもしれん·····」

琉音
「!」

お茶子
「こうしてられへん!ちょっと行ってくる!」

琉音
「えっ、ちょっ、ちゃーちゃん!?·····あっ、行っちゃった·····」


試験室から飛び出したお茶子を見て、琉音はあっけに取られたがすぐに我に返り、
「そうだ、いずくんも治療しにいかないと·····!」と言うと、その部屋を後にした。



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