「おっ·····お待たせしてすみません!」
走ったせいで上がった息を押しとどめながら琉音がそう言うと、
リカバリーガールが振り返り「待ってたよ、琉音」と声をかけた。
リカバリーガール
「·····走ってきたばかりの所ですまないけど、このボーヤの治療を頼んだよ。」
「琉音の個性も合わせないと治りきらないくらい、酷い怪我だからね」
琉音
「さっきは気づかなかったけど·····こ、これ、粉砕骨折じゃない·····!!」
「どうして·····いずくん、こんなに酷い怪我しちゃったの·····!?」
「·····もしかして·····こ、個性のせいなの·····?」
リカバリーガール
「自身の“個性”でこうも傷つくかい·····まるで身体と“個性”が馴染んでないみたいじゃないか」
リカバリーガールは琉音の言葉を遮りそう言うと、視線をベッドで寝ている出久に戻す。
出久の意識はなく、腕は壊死が始まりかけているのか深く暗い紫色に変色しており———
素人目にも出久が重傷を負っているのは明らかだった。
琉音
「いずくん·····こんなに怪我して·····痛かったよね、すぐに治してあげるから·····!!」
琉音は出久の変色した腕に両手を重ね、そっとエネルギーを流す。
お茶子の時と同じように周りにふわり、と薄いピンク色の光が浮かびその光がゆっくりと腕に集まるが·····
光に照らされても少し紫色が薄くなるだけで、劇的には治らない。
額へのキスじゃ、時間がかかりすぎる。
手で触れるだけじゃ、治りが追いつかない。
———だから、今取れる最善の選択は一つだけだった。
それを見た琉音はすぅ、と自分を落ち着かせるように深く息を吸うと、
「·····意識がないときに、ごめんね。」
と呟いて、そっと身を乗り出し·····出久の唇にキスをした。
その瞬間·····周りに浮かんでいた光は勢いよく輝きを増して、部屋の中まで明るく照らす。
その光に照らされる出久の腕は、ゆっくりとだが紫色から元の肌色に戻り始め、耳を澄ますとかすかにピシピシ、ピキピキ、と骨が再生するような音も聞こえだした。
琉音
「(·····これが一番治癒効果が高くて、早く怪我を治せる方法·····お願い、早く治って·····!!)」
そう祈る間も、琉音は出久にキスをし続けた。
・
・
・
———そして、そのまま10分ほど経ったころ。
琉音はそっと唇を離してふぅ、と息を吐いた。
琉音
「これで·····大丈夫な、はず·····」
リカバリーガール
「よくやったよ、琉音。ほら、チロルチョコだよ、チロルチョコをお食べ」
琉音
「うん·····ありが、とぅ·····」
リカバリーガール
「·····おやおや、フラフラじゃないか。そこの椅子に座ってチョコをすぐにお食べ」
治癒でエネルギーを使い果たしたのか、意識もぼんやりするほどにすっかりフラフラになった琉音は近くの椅子に座ると貰ったチョコをすぐに二個ほど口に入れ、咀嚼もそこそこに飲み込んだ。
そして琉音が新しいチョコの包みを開けようとしたとき·····
出久
「·····っ、あ」
琉音
「いずくん·····!」
·····出久が、小さく唸り声を上げて目を覚ました。
その声に気づいた琉音は、フラフラと足元がおぼつかないにも関わらず、出久のもとへ駆け寄る。
出久
「·····あれ、僕·····腕が折れたはずじゃ·····」
出久は折れていたはずの腕が治っていることに不思議そうな顔をしながら手を何度もグーパーと動かして、綺麗に治っている腕を何度も見つめた。
琉音
「·····いずくん、大丈夫?」
そう琉音が声をかけると、出久は不思議そうな顔をして琉音の顔を見つめる。
·····そして少し間を置いて、思い出したように口を開いた。
出久
「もしかして·····琉音、ちゃん?」
琉音
「あ·····わかって、くれたんだ·····!」
出久
「もちろん!琉音ちゃんが、治してくれたんだね·····ありがとう!」
琉音
「うん·····!」
お礼を言って微笑む出久に、琉音もほっとしたように笑い返した。
·····そんなやりとりもつかの間、琉音は糸が切れたようにふらりとバランスを崩し、出久の寝ていたベッドの上に倒れこんでしまった。
出久
「·····琉音ちゃん!?琉音ちゃん!!」
そんな出久の心配そうな声を聴きながら、琉音の意識は闇の中へと溶けて行った。
・
・
・
・
·····その数時間後、琉音は目を覚ました。
リカバリーガールによって出久はすでに家に帰されており、琉音が寝ていたベッドのそばでは、いつの間にか来ていた癒波がリカバリーガールと共に、心配そうに琉音を見つめていた。
琉音
「あれ·····わたし、どうしたんだっけ·····」
癒波
「·····あぁ、琉音·····大丈夫?あなた、試験の後に出久くんを治療して、その後倒れたって聞いたから·····お母さん急いで来たの」
琉音
「心配かけてごめんね、お母さん·····私、いずくんを治そうと必死で、個性を使いすぎちゃったのかな·····」
癒波
「ううん、大丈夫よ。私も若い頃はよく個性を使いすぎて、キャパオーバーで気絶してたわ。」
琉音
「·····お母さんも?」
癒波
「そうよ。琉音もこれから練習していけば大丈夫よ、すぐ私なんて追い越しちゃうわ。·····だって琉音は、私と治人の子供だもの。」
そう言うと、癒波は琉音の頭をよしよしと優しく撫でる。
それを見ていたリカバリーガールはニコッと笑い、こう告げた。
リカバリーガール
「·····うん、本当に個性の使いすぎで倒れたようだね。今のところバイタルも問題なし、帰ってよく眠れば問題ないよ。」
琉音
「ありがとう、おばあちゃん!」
リカバリーガール
「粉砕骨折も治せるようになるなんて、よく頑張ったねぇ·····本当に、琉音は自慢の孫娘だよ」
リカバリーガールはそう言って、琉音の頭を撫でる。癒波もその言葉を聞いて、嬉しそうに琉音の頭を撫でた。
癒波
「·····よく頑張ったね、琉音·····おうち、帰ろうか。」
琉音
「·····うん。」
その言葉に琉音はこくりと頷いて、優しくニコッと笑った。
———その数日後。
雄英から届いた合格通知を見て、琉音と癒波が今度は嬉しさのあまり泣いてしまったのは·····また別の話。