入学しても前途多難

·····そして春。


癒波
「琉音、忘れ物はない?非常用のカロリーバーも持ったね?」

琉音
「うん、大丈夫だよ·····お母さん!」

癒波
「·····琉音、本当に·····大きくなったのね」


嬉しさと寂しさが混ざり合ったような複雑な表情で、でも笑顔で琉音を見つめる癒波。
それを見た琉音はニッコリと満面の笑みを浮かべ、「行ってきます」と元気よく言って家を出た。


そして学校の廊下を歩いている最中、琉音はずっと出久のことを考えていた。


「(いずくんに久しぶりに会ったら、なんて最初に言おうかな·····)」


ふふ、と頬を薄ピンクにしながらそんなことを考えていると、琉音は曲がり角で誰かにぶつかって尻もちを着いてしまう。


琉音
「きゃっ!」

勇樹
「わぁっ!」

琉音
「·····ご、ごめんなさい!考え事してて·····」


琉音がそう言って顔を上げると、鮮やかなミントグリーンの長い髪をした少年が慌てて琉音の方を向いた。


勇樹
「あら、気にしないでェ。アナタこそ怪我はなァい?」


少年はそう言ってニコリと笑うと、尻もちを着いている琉音に手を差し出す。
そして手を引いて琉音を起こしてあげると、彼はその流れでスカートについた埃を自分のハンカチでぽんぽんと叩いて払ってくれた。


勇樹
「·····ふふ、これでいいかしらァ。入学式だから身だしなみはキチンとしないとねェ」

琉音
「は、はい!本当にごめんなさい·····」

勇樹
「あら、いいのヨ。ところでアナタ·····ヒーロー科に入学する人かしらァ?」

琉音
「そうですけど·····あなたも?」

勇樹
「ええ!自己紹介が遅れたわネ·····アタシは草花くさばな 勇樹ゆうきヨ。見てのとおりオネェってやつ。これからよろしくネ」

琉音
「えっと·····私は久智付 琉音です。よろしくお願いします!」

勇樹
「ふふっ、固くならなくて良いのよォ。敬語もいらないワ。これからクラスメイトになるんだからネ」


にこ、と少し女性的な笑みで微笑む勇樹に琉音は内心ほっとしつつ話を続ける。


琉音
「え、えっと·····勇樹くん?それとも勇樹ちゃんって呼んだほうがいい·····?」

勇樹
「·····んふふ、あなたスッゴく優しいのネ。あなたの好きに呼んでくれて構わないケドォ·····せっかくなら「姐さん」って呼ばれたいワ!」

琉音
「わかった!じゃあ勇樹姐さん·····よかったら一緒に教室に行かない?ここ広くって·····」

勇樹
「あら、アタシも迷ってたトコだったのヨ。ぜひご一緒したいワ。」
「えーとォ·····あなたのクラスは?」

琉音
「えっと·····1-A!」

勇樹
「アタシも1-Aヨ!あなたと一緒のクラスで嬉しいワ!」



·····その後、琉音と勇樹は他愛もない会話をしながら、広く長い雄英の廊下を並んで歩いていく。


琉音
「えっと、1-A、1-A·····あっ、ここじゃない?」

勇樹
「·····そうみたいネ。そういえば、今年の雄英は特別に定員が多いらしいからァ·····すごく賑やかな学生生活が送れそうだワ♡」


琉音は教室の前で一度立ち止まり、深く息を吸った。


勇樹
「ふふ、緊張してるゥ?」

琉音
「う、うん·····いよいよって感じがして·····!」


そして琉音は小さく頷くと、意を決して扉に手をかけた。










教室内にはすでに何人もの生徒がおり、各自が机に着席していたり、隣の生徒と話したりと思い思いに過ごしている。

琉音が教室に足を踏み入れると、何人かの生徒がこちらにちらりと視線を向けた。


上鳴
「お、また新しい子だ·····今年は人数多いって本当なんだな」

陽太
「例年だと35人が一般入試の定員らしいけど、今年は倍になったんだってよ」

陽二
「らしいな·····このクラス1-Aだけでも、27人いるんだろ?」


·····そんな声があちこちから聞こえてくる。


勇樹
「·····空席から見るにィ、もう結構集まってるみたいねェ」


勇樹がきょろりと教室を見渡しながらそう小声でつぶやくと、琉音も周囲を見渡す。



「るーちゃん?」



その時、聞き覚えのある声が琉音の耳に入る。



「·····ちゃーちゃん!」



琉音はお茶子のもとに駆け寄り、勢いよく抱き着いた。


お茶子
「わっ!?」


突然のことにお茶子は驚いたような声をあげる。
しかしすぐに琉音の顔を見て、ぱっと表情を明るくした。


お茶子
「るーちゃんと同じクラスになれると思わなかった〜!!」

琉音
「私も、ちゃーちゃんと同じクラスで嬉しい!」


2人がそう嬉しそうに笑いあう。

しかしその時·····



「うるせぇぞクソモブ共が!」


教室に怒鳴り声が響いた瞬間、室内の空気が一瞬で張り詰める。

声の主は机に足を乗せ座っていた金髪の少年·····爆豪であった。


琉音
「·····かっちゃん!?」


琉音は驚き爆豪に声をかける。


爆豪
「·····あァ?」


その声に爆豪はちらりと琉音の方へ視線を向け、すぐにふいっと視線を逸らした。


爆豪
「うるせェんだよ、朝から騒ぎやがって」

琉音
「かっちゃんは相変わらずだね·····そんなんじゃ友達出来ないよ?」

爆豪
「黙れ」


その返答に琉音が苦笑いしていると、その様子を見ていたお茶子が声をかける。


お茶子
「·····知りあい?」

琉音
「う、うん·····ちゃーちゃんは知らなかったっけ?私のもう一人の幼馴染。」

お茶子
「だいぶヤバそうな人やけど、大丈夫なん·····?」

琉音
「えーと·····ちょっと乱暴なだけだから。根はいい子だから!」


琉音が苦し紛れにそう答えた瞬間·····


飯田
「君!机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者に申し訳ないと思わないか!?」


教室の別の場所から、鋭い声が響いた。

眼鏡をかけた真面目そうな少年が腕をぶんぶん振りながら爆豪に説教を始める。
彼らの言い合いが続く中、教室の扉がガラリと開いた。


出久
「·····す、すみません!」


慌てた様子で入ってきた出久を見て、琉音は息を呑む。



「(いずくん·····!!)」



·····見間違えるはずがない。

幼いころからずっと見てきた、もさもさの緑色の髪。



出久
「·····あ」



出久も琉音の姿を見つけ、目を見開いた。


出久
「琉音ちゃん·····!?」


その声に、教室内の何人かが振り向く。
それを気にせず、琉音は思わず一歩踏み出した。


琉音
「いずくん!」


そして手を握り、ニコッと微笑む。


琉音
「会えてよかった·····あ、そうだ、もう腕は大丈夫なの!?粉砕骨折だったから、なかなか治せなくて苦労したんだからね!心配したんだからね·····!!」


その言葉に出久は慌てて腕をぶんぶん振った。


出久
「·····琉音ちゃんが治してくれたから、だ、大丈夫!ほら、もう全然大丈夫だから!」

琉音
「·····ほんと?」


琉音は心配そうに出久の腕を見つめ、服の上からそっと触れた。


出久
「うん!琉音ちゃんのおかげですっかり治ったよ」

琉音
「それなら、よかったぁ·····」


そう言って琉音がほっとしたように小さく笑うと、その様子を見ていたお茶子が何かに気づいた顔をする。


お茶子
「あ!そのもさもさ頭は·····地味めの!!」


その言葉に琉音はハッとした顔をする。


琉音
「あ·····そっか、いずくん、ちゃーちゃんを助けてくれたって·····!」

お茶子
「そうそう!試験の時に動けなかったところを助けてくれてん!」


お茶子は嬉しそうにそう言うと、出久のほうを見てにこっと笑った。


お茶子
「プレゼント・マイクの言ってた通り受かったんだね!そりゃそうだ!パンチ凄かったもん!」

出久
「いや!あのっ·····!!本っ当あなたの直談判のおかげで·····ぼくは·····その·····」

お茶子
「へ?なんで知ってんの?」

出久
「〜〜〜〜·····」


そんなことを話しているうちに、教室内にチャイムの音が響き渡る。


お茶子
「·····そういえば、今日って式とかガイダンスだけかな?」

琉音
「初日だからそうなりそうだよねえ、ちゃーちゃん」

お茶子
「先生ってどんな人だろうね、緊張するよね·····」



·····その瞬間。


「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」



「「「·····!?」」」


唐突に聞こえてきた男性の声に驚いた三人が振り返ると、そこには寝袋に入った男性が床に横たわっていた。


相澤
「·····ここは、ヒーロー科だぞ」


「「「なんかいる·····!!!」」」


教室の他の生徒も事態に気づいたのか、謎の静寂が教室内を包み込む。
その間に男性は寝袋から抜け出し立ち上がる。


相澤
「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

「担任の相澤消太だ、よろしくね」


「「「「「「先生·····!?」」」」」


生徒たちが驚く間もなく、相澤は手元に雄英の体操服を出し「早速だが、これを着てグラウンドに出ろ」と一言だけ言ったのだった。



<< top >>

index
ALICE+