戦闘訓練

琉音がグラウンドβへ着くと、すでに何人かの生徒が待機していた。
ヒーロースーツ姿のクラスメイトたちが、思い思いに談笑している。

———その中には、勇樹の姿もあった。

勇樹は琉音に気づくと、ニコニコした顔で手を振る。
制服の時とは違い、前髪が片目を隠したまま残りはオールバックに整えられており、後ろに流した長い髪が勇樹の動きに合わせ揺れている。
ノースリーブのスーツからはアオザイのように布が垂れており、あちこちに個性で咲かせているであろう花が咲いており、男性でありながら、どこか女性的な美しさを感じさせた。


勇樹
「あらあら、琉音ちゃん!かァわいいヒーロースーツじゃなァい!白衣モチーフ?」

琉音
「えへへ、リカバリーガールと同じメーカーさんがいいって要望出したら通っちゃった」

勇樹
「白衣着るとさァ、ヒーラーヒーローって感じでいいわよねェ」
「ハートモチーフも、アナタによぉく似合ってるワ!」

琉音
「ふふ·····ありがとう、勇樹姐さん!」
「あとこれ凄いんだよ!フードのとこ強い衝撃が入ると固くなって簡易ヘルメットになるの!靴も安全靴!」

勇樹
「アタシのもスゴいわよォ、”個性”使うと水分足りなくなるんだけど、首元のここ口で引っ張ると水タンクに繋がるストロー出るの」

琉音
「すごーーい!!」


2人がそう話していると、ゴスロリ風のドレスにも似たヒーロースーツを着た茶髪の少女——見固利 悟見みかたまり さとみが二人に声をかける。


悟見
「·····お二人のヒーロースーツ、色んなアクセントがあって素敵ですわ!」

琉音
「ありがとう、見固利さん!」

悟見
「ふふっ、クラスメイトなのですから·····遠慮なく名前で呼んでくださいまし。私もあなた方を名前でお呼びしますわ」


悟見は、レースのアイマスク越しにでもわかるほど嬉しそうに微笑んだ。

そうしていると、陽二も琉音たちに声をかける。


陽二
「お前らのヒーロースーツ凝ってていいな!俺達なんか「キメラになっても動きやすく」って要望出したら装飾ほとんどなくなっちまったよ·····」


しょんぼりしながらそう言う陽二に、勇樹がなんとも言えない顔をしながらこう言った。


勇樹
「え〜、っと·····アンタって双子のドッチだったっけェ·····?」

陽二
「おいおい、双子だからってよぉ!見分け方くらいあるわ!」
「泣きボクロついてんのが兄貴の陽太!口もとにあるのが俺!」

勇樹
「あぁ、弟クンの方!」

陽二
「ひでぇな〜」


そんな話をしていると、飯田が腕を振り上げて声を張り上げた。


飯田
「静かにしたまえ!待機中も授業だぞ!」


その声に、周囲の生徒たちがびくっと肩を揺らす。


飯田
「先生方がいつ来てもおかしくない状況で私語とは何事だ!ヒーローたる者、常に———」

勇樹
「まぁまぁ、いいじゃないのよォ。ヒーロースーツ着てこれから戦闘訓練やるッてなったら、そりゃはしゃいじゃうわヨ」

飯田
「しかし規律というものがだな———」


飯田がさらに言葉を続けようとすると、勇樹はくすっと笑った。


勇樹
「アンタって真面目ねェ」

飯田
「え?」

勇樹
「アタシ嫌いじゃないわヨ、そういうトコ♡」


勇樹はそう言うと、にやりと口角を上げる。


勇樹
「·····男女問わず、そういう堅物タイプは結構タイプなのよォ、アタシ♡」

飯田
「なっ!?」


飯田が一瞬言葉に詰まる。


飯田
「な、何を言っているんだ君は!?」

勇樹
「アハハ、冗談よ冗談·····まぁ、半分くらいは本気だけどネ?」


そう言って勇樹は肩をすくめた。


陽太
「勇樹姐さん、飯田困ってる困ってる」

陽二
「からかうのも程々にしろよ〜」


その言葉に周りの生徒たちはどっと笑い出す。
琉音もつられて、思わずプッと吹き出してしまった。


そんな和やかな空気の中———遠くから足音が聞こえてきた。


出久
「ご、ごめん!遅れた!」


慌てた声と共に、ヒーロースーツ姿の出久がこちらへ走ってくる。
琉音は顔を上げて、ふと目を瞬かせた。


琉音
「·····あれ?」


出久のヒーロースーツは、緑色のジャンプスーツを元とした全体的に機能性重視のデザインだ。
しかしフードの部分だけ、ぴょこんと突き出た形になっている。


それはまるで———


琉音
「·····いずくんのフード、なんかうさぎみたいで可愛いね!」


そう言って琉音はくすっと笑うと、両手を頭の横に上げて、ぴょこんと曲げる。


琉音
「ほら、こんな感じ」


うさぎの耳の真似をして、小さく首を傾げた。

·····その仕草に、出久は一瞬ぽかんと目を丸くする。


そして———


出久
「か、かわ·····っ!?」


言いかけて、慌てて口を押さえた。


琉音
「え?」

出久
「い、いや何でもない!その、うさぎじゃなくてオールマイトモチーフっていうか、あの、そういうわけじゃなくて·····!」


しどろもどろになりながら説明し始める出久を見て、琉音は「ふふ、落ち着いてっ」と言ってくすくすと笑う。


その様子を見ていた勇樹が、にやりと口角を上げた。



勇樹
「へぇ〜?緑谷ちゃん、顔真っ赤じゃなァい?」

出久
「·····えっ!?」

勇樹
「青春ってヤツよねェ」

出久
「ち、違います!!」

勇樹
「うんうん、そういうコトにしといてあげるわァ」


琉音
「·····ん?二人とも、何の話してるの?」


出久
「な、ななな、何でもないから!!」


飯田
「そこ、うるさいぞ!私語は慎みたまえ!」










———その後、オールマイトの指導で戦闘訓練が始まる。


今回は屋内戦を想定した、2対2の“対人”戦闘訓練。


オールマイト
「すまないが、人数上どうしても余りが出てしまうから·····今回久智付少女には救護係をお願いしても良いだろうか」

琉音
「·····は、はい!」


誰も気づかないほどの一瞬、琉音の言葉が詰まる。


「(私も戦いたい、けど·····)」

「(·····まだ、足りない)」

「(今の私に、できることは·····)」


琉音はぎゅっと拳を握り、笑顔を作ってこう返す。


琉音
「·····任せてください、オールマイト!」











·····結果から言うと、戦闘訓練の初戦は混沌——その一言に尽きた。



切島
「なんだこりゃ、負けた方がほぼ無傷で·····勝った方が倒れてら·····」

常闇
「勝負に負けて、試合に勝ったというところか」

梅雨
「訓練だけど」



爆豪と出久の一騎打ちによって、建物は半壊。
立ち込める爆煙が、まだわずかに揺らめいている。

映像には、個性を使いすぎて嘔吐したお茶子と、
デトロイトスマッシュで腕を破壊した出久の姿が映し出されていた。

クラスメイトたちは、言葉を失う。


峰田
「え、ちょ·····あれ大丈夫なのか·····?」

陽太
「いやいや訓練だよなこれ!?」

上鳴
「レベル高すぎんだろ·····」


ざわ、と空気が揺れる。

その時。


オールマイト
「久智付少女」


オールマイトの声が、静かに響いた。


琉音
「·····は、はい!」


琉音は、その声にはっと顔を上げる。


オールマイト
「緑谷少年を気にかけるのはわかるが——今は授業中だ。これから出るであろう負傷者の救護に専念して欲しい。」


その言葉に、一瞬だけ胸がきゅっと締めつけられる。

·····ほんの少し前まで、自分もあの場に立つつもりだったから。


琉音
「(·····戦えない、けど——)」

「(——今の私にできることは、きっと·····これだ)」



そして琉音は力強く頷き、大きな声で「はい!」と返事をした。


·····そして、搬送ロボによって担架が運ばれていく。

その上に乗っていたのは———



琉音
「·····いずくん!」


·····一瞬、呼吸が止まる。

その後、思わず声が漏れる。

担架に乗せられた出久の右腕は、明らかに異常な方向に曲がっていた。


陽太
「うわ·····やっば·····」

砂藤
「またやったのかアイツ·····」



周囲の声が遠くなる。
音が、遠くなる。

琉音の視界の中で、
出久だけがやけにくっきりと浮かび上がる。


琉音は、そのまま出久の元へ駆け寄った。



琉音
「(どうして、無個性のいずくんが·····こんな“個性”を·····?)」

琉音
「(めちゃくちゃだよ、こんなの·····)」



胸の奥が、少しだけ痛む。

———でも。


琉音
「(それでも前に進むのが、いずくんだもんね)」


琉音はそっと、出久の折れてない手に触れる。


琉音
「·····任せて」


———気づけば、琉音はそう口に出していた。



·····その声は、小さいのに。

どこか、まっすぐだった———



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