「入学間もないってのにもう3度目だよ!?なんで止めてやらなかった、オールマイト!!」
保健室にてすっかりトゥルーフォームに戻ってしまったオールマイトが、リカバリーガールに叱責されていた。
オールマイト
「申し訳ございません、リカバリーガール·····」
リカバリーガール
「私に謝ってどうするの!?·····疲労困憊の上、昨日の今日だ!一気に治癒してやれない!」
「昨日は私の孫の琉音が手伝ってくれたから早く回復したけど、あの子の個性も万能じゃないんだ!」
「応急手当はしたから、点滴全部入ったら日をまたいで少しずつ活性化してくしかないさね!」
リカバリーガールはそう言うとオールマイトの方を向いてさらに続ける。
リカバリーガール
「全く·····“力”を渡した愛弟子だからって甘やかすんじゃないよ!」
オールマイト
「返す言葉もありません·····彼の気持ちを組んでやりたいと·····躊躇しました」
「·····して·····その·····あまり大きな声でワン・フォー・オールのことを話すのはどうかと·····」
リカバリーガール
「あーはいはいナチュラルボーンヒーロー様、平和の象徴様!」
オールマイト
「この姿と怪我の件は雄英の教師側には周知の事実!ですが·····」
「“個性”の件はあなたと校長、そして親しき友人、あとはこの緑谷少年のみの秘密なのです」
リカバリーガールは深くため息をつくと、額に手を当てた。
リカバリーガール
「まったく·····昔から変わらないね、あんた達は」
その一言に、オールマイトの肩がわずかに揺れる。
リカバリーガール
「無茶をする側と、止めない側。どっちも同じだ」
オールマイト
「それ、は——」
リカバリーガール
「·····昔も、そうだったろう?」
静かな声だった。
·····だが、その言葉には確かな重みがあった。
オールマイトは、ゆっくりと目を伏せる。
オールマイト
「·····ええ、私がまだ未熟だった頃·····共に戦った男がいました」
リカバリーガール
「·····知ってるよ」
リカバリーガールは即座に返す。
「私の娘婿だ」
その一言で、空気が少しだけ変わる。
オールマイト
「·····彼は——よく燃える男でした」
「·····比喩ではなく、言葉通りに」
ぽつりと、オールマイトは呟く。
リカバリーガール
「·····無茶をするところは、そっくりだ」
「·····止められないところまで、ね」
そう呟いたリカバリーガールの視線が、ほんの一瞬だけ奥のベッドの方へ向く。
オールマイト
「あなたのお孫さんの·····あの印」
オールマイトの瞳が、わずかに細められる。
オールマイト
「あの子の前髪にある、ハートのメッシュ——」
「·····あれは、ただの装飾ではありません」
「·····間違いなく——彼から、“受け継がれた”ものです」
その言葉に、リカバリーガールは鼻を鳴らす。
リカバリーガール
「まったく·····“あっち”も“こっち”も、大変だね」
オールマイト
「·····ええ」
オールマイトは小さく頷く。
オールマイト
「どちらも——“繋いでしまう力”だ」
「·····誰かの手を、離さないために。」
「そして——離れられなくなる力でもある」
その言葉は、ひどく静かだった。
オールマイト
「·····片方は、力そのものを」
「もう片方は——想いを、燃やして繋ぐ」
その言葉に、リカバリーガールは目を細める。
リカバリーガール
「全く、厄介なもんだよ」
オールマイト
「·····はい」
リカバリーガール
「どっちも、“一人で背負うには重すぎる”」
その言葉にオールマイトの拳が、わずかに握られる。
———その時。
ガラリ、と。
ノックもなく、ドアが開いた。
琉音
「———どういう、ことですか」
·····そこに立っていたのは、琉音だった。
一瞬、時間が止まる。
オールマイトの目が、わずかに見開かれる。
リカバリーガールは、ため息をひとつ。
リカバリーガール
「·····聞いてたのかい、琉音」
琉音
「·····ごめんなさい、おばあちゃん」
琉音はそう言うと、オールマイトへ向き直る。
琉音
「·····昨日や授業の時と姿が全然違うけど——オールマイト、ですよね」
「盗み聞きしたのはごめんなさい、でも——」
「——聞かなかったことには、できません」
琉音はただ、まっすぐに———逃げずに、二人を見ている。
一瞬、沈黙が落ちる。
琉音の言葉は、二人の逃げ道を塞ぐように静かだった。
オールマイトは、ゆっくりと息を吐く。
そして——わずかに視線を落とした。
オールマイト
「·····今、君に全てを話すことは——できない」
その一言に、琉音の指先がわずかに強張る。
オールマイト
「だが」
オールマイトは顔を上げる。
その目は、先ほどまでとは違っていた。
オールマイト
「君が今、関わっているものが——」
「決して“偶然”ではないことだけは、伝えておこう」
静かな声。
けれど、確かな重みがあった。
琉音の胸が、どくりと脈打つ。
オールマイト
「受け継がれるものがある」
「形は違えど、それは——人から人へと繋がれていく」
一歩、言葉を選ぶように間が空く。
オールマイト
「時に、それは力となり」
「時に、それは——“想い”として残る」
琉音は、無意識に自分の前髪のメッシュへと触れる。
オールマイト
「·····その印は」
オールマイトの視線が、そこへ向けられる。
オールマイト
「その“想い”が、形になったものだ」
その言葉に、琉音の指がわずかに震える。
琉音
「·····私の、お父さんの·····?」
オールマイトは、すぐには答えない。
ほんの一瞬だけ、目を伏せる。
オールマイト
「·····ああ」
短い肯定だった。
オールマイト
「君は——“受け取って”いる」
その言葉は、どこか優しく。
そして、少しだけ重かった。
オールマイト
「それは誇るべきものだ。だが同時に——」
一瞬、言葉が途切れる。
オールマイト
「軽いものではない」
琉音の胸が、ぎゅっと締めつけられる。
———その時。
リカバリーガール
「·····だから嫌なんだよ」
ぽつりと、リカバリーガールが呟いた。
リカバリーガール
「こうやって、また次に背負わせる」
「止められない。止めようとしない」
ちらり、と琉音を見る。
リカバリーガール
「·····優しい子ほど、薪の様に燃えていく個性だ」
琉音は、何も言えない。
ただ、拳をぎゅっと握りしめる。
オールマイトは、その様子を見て———
ほんのわずかに、目を細めた。
オールマイト
「·····だからこそ」
「一人で背負う必要はない」
そして静かに、言葉を落とす。
その言葉に、琉音が顔を上げる。
オールマイト
「君の隣には———」
一瞬、言葉が止まる。
オールマイト
「·····同じように、“受け取った者”がいる」
遠回しな言い方だった。
だが、十分だった。
琉音の脳裏に、たった一人の姿が浮かぶ。
琉音
「·····いずくん·····?」
その名を口にした瞬間。
オールマイトの目が、わずかに揺れた。
しかし——何も言わない。
否定は、されなかった。
———その一瞬、琉音の息が詰まる。
胸の奥で、何かが静かに形を持ち始める。
知ってしまってはいけないことを知ってしまったような、
けれど———知らなければいけなかった気もする。
そんな変な感覚が、琉音の全身を支配した。
琉音
「·····そう、ですか」
それ以上、琉音は何も聞かなかった。
いや——聞けなかった。
答えを知ることが、何かを決定的に変えてしまう気がしたから。
オールマイト
「·····知られてしまった以上——いずれ、君にも全てを話さなくてはならない」
「だが、今言ったことが·····今ここで言える全てだ」
そうオールマイトが話した後、沈黙が落ちる。
その空気を、リカバリーガールが小さく息を吐いて切り裂いた。
リカバリーガール
「·····ほら、琉音」
顎でベッドの方を指す。
リカバリーガール
「緑谷のボーヤを看るんだろ?」
その一言で、琉音ははっ、と我に返る。
琉音
「う·····うん!」
視線が、奥のベッドへ向く。
そこには、静かに横たわる出久の姿。
包帯の巻かれた腕。
点滴の落ちる音。
·····規則正しいはずの呼吸が、今はどこか頼りなく感じられる。
琉音
「(·····いずくん)」
さっきの言葉が、頭の中で反芻される。
“受け取った者”
その意味を、まだ完全には理解できない。
けれど———
琉音
「(·····一人じゃ、ないんだ)」
その言葉が、胸の奥に静かに落ちた。
琉音は、ゆっくりと一歩を踏み出す。
———今の自分に、できることを。