触れた先の熱

·····琉音がカーテンを開けて出久に近づくと、出久は少しうめき声をあげて目を覚ました。


出久
「·····う·····琉音、ちゃん·····?」

琉音
「ごめんねいずくん、起こしちゃったかな」
「先に他のみんなの怪我治してきたから、遅くなっちゃった。」

出久
「う、ううん、大丈夫だよ!治癒で体力使ったから、点滴中に寝ちゃってたみたいで·····」


そう言いながら、出久は上半身を起こそうとして———


出久
「いっ·····!」


———すぐに顔をしかめる。


琉音
「もう、だめだよ」


やわらかいけれど、有無を言わせない声。

琉音はそっと、動こうとしていた出久の肩に手を添えて押しとどめた。


琉音
「おばあちゃんに治癒個性、使ってもらったんでしょ?」
「·····でもまだ動いちゃだめ。骨も筋も、一気には治せないんだから」

出久
「う·····ごめん·····」


しゅんと肩を落とす出久に、琉音は小さく笑う。


琉音
「·····ふふ、大丈夫。怒ってないよ」


そう言って、ベッドの横に腰を下ろす。

琉音
「ちょっとだけ、触るね」


その一言に、出久の肩がびくりと揺れた。


出久
「え、あ、う、うん·····!」


琉音の手が、そっと出久の頬に触れる。

柔らかい手でやさしく、包み込むように。

その距離に、出久の呼吸が一瞬止まる。


出久
「(ち、近い·····)」


ほんのりとイチゴのような、甘い匂い。
手から伝わる、やわらかい体温。


ずっと昔から、知っているはずなのに———


出久
「(こんなに、近かったっけ·····?)」



琉音は気づいておらず、
いつも通りの顔で、出久を覗き込んでいる。


琉音
「·····わぁ、かっちゃんに相当やられたねえ·····顔が傷だらけだ·····。」
「うーん、腕はすぐには無理だから·····とりあえず内出血と体の擦り傷だけでも·····」


琉音
「———よし。いずくん、ちょっとだけ我慢してね」


出久
「えっ·····?」


次の瞬間。

琉音は、そっと出久に身を寄せて。
流れるように出久の前髪に触れた指先が、ほんの一瞬だけ止まる。


———シーツがかすかに擦れる、その距離で。

呼吸が、ほんの少しだけ触れ合って———


·····ちゅっ、と。


軽く、額に唇が触れた。


出久
「っ——!?」


·····その一瞬、周囲の音が遠のいて。
自分の心臓の音だけが、やけに大きく響いた。

琉音の唇が触れられた場所から、じわりと熱が広がる。


———その瞬間。


琉音の周りに薄いピンク色の光が、ふわりと灯る。

それは·····ただの光ではなかった。


ゆらり、と。


まるで炎のように揺らめきながら、出久の体をなぞるように流れていく。

人肌ほどにあたたかい———けれど、どこか懐かしい熱。
その軌跡は、どこか“意思”を持っているようで———


·····まるで、何かを確かめるように。


光が通った場所から、傷も内出血も、静かに消えていく。


·····そして最後に、その光は一瞬だけ———出久の胸元で、かすかに強く揺らいだ。


それに気づいた琉音は「(·····あれ?)」と思いつつもキスを続ける。


·····出久は、気づかない。


説明のつかない“違和感”だけが、ほんの一瞬だけ琉音の胸に残る。

そして光は、何事もなかったかのように消えた。


·····その頃、少し離れた場所で。

オールマイトはカーテンの隙間から、その光景を見ていた。


オールマイト
「·····!」


·····ほんの一瞬。

その目が、はっきりと見開かれる。
その視線は、出久ではなく———琉音に向いていた。


オールマイト
「(今の光は·····)」


言葉にはならない。

———できれば見間違いであってほしいと、ほんの一瞬思ったが·····

だが——見間違えるはずがない。



オールマイト
「(ワン・フォー・オールに——反応した·····?)」


·····ごくわずかに、息を呑む。

だがすぐに、表情を引き締めた。


オールマイト
「(·····まだ、無意識か)」


誰にも聞こえないほど小さく、呟く。

その視線の先では。

何も知らないまま、
ただ出久の回復を喜ぶ琉音の姿があった。










琉音
「ぷはっ!·····どう? 少しは楽になった?」


琉音の声が、すぐ近くで落ちる。


出久
「え、あ·····う、うん·····!」


出久の返事が、明らかに裏返る。
それに琉音はニコッと微笑みこう返した。


琉音
「·····ふふ、よかった」
「でも全部は治せないから、明日もおばあちゃんの個性を使ってもらわないとね」


ほっとしたように微笑む琉音。

その顔が、まだ近い。


出久
「(ち、近い·····近い近い近い·····!!)」


さっき触れられた額が、まだ熱い。

·····いや、熱いのはそこだけじゃない。


出久
「(な、なんでこんなに·····ドキドキしてるんだ·····!?)」


———心臓が、明らかにおかしい。

ばくばくと全速力で駆けるような振動の鼓動に、出久は慌てて深呼吸をした。


出久
「(落ち着け、落ち着け僕·····!これは琉音ちゃんの治癒個性!治療!治療だから·····!!)」

「(そもそも僕らはしばらく離れてたとはいえ幼馴染だし!!何度だって癒しのキスはしてもらって——)」


思考が空回りする。

·····その時ふと、思い出す。


個性測定テストのあと———折れた指先に、そっと触れた唇。


出久
「(あの時も、ドキッとしたけど·····)」


その感覚を思い出した出久は、ぎゅっとシーツを強く握る。


出久
「(今のは、なんか·····違う·····)」


あの時は、“応急処置”だった。

でも今は———


出久
「(·····なんでこんなに·····離れたくないって思ってるんだ·····?)」


·····はっとする。

自分の思考に、自分で驚く。


出久
「(ち、違う違う違う!! それは違う!!)」


慌てて頭を振る———が。


出久
「(でも·····あったかい)」


そっと、何気なく額に触れる。
·····そこに残るのは、ただの治癒の熱じゃない。


出久
「(琉音ちゃんがいると·····安心する)」


その感覚に、気づいてしまう。


どくどく、と心臓がうるさいのに。

———なぜか、落ち着く。


その矛盾が、どうしようもなくて。


出久
「·····あ、りがとう、琉音ちゃん」



やっと絞り出せたその声は、少しだけ震えていた。


琉音
「ん?」


琉音は首を傾げる。


琉音
「·····ばたばたしてどうしたの? もしかしてまだ痛い?」


そう言いながら、さらに少しだけ身を乗り出す。


出久
「え、あ、いや、もう全然——」


そう、出久が言い切る前に。


———ふわり、と。


琉音の手が、出久の額に触れる。

さっきキスされた場所に、重なるように。



琉音
「·····あれ?ちょっと熱いかも」

出久
「えっ!?」


ぐっと、さらにふたりの距離が近づく。


琉音
「外傷熱が出てきたのかなぁ、まだ少し熱が残ってる」


そのまま、自然な動きで。

額と額が、こつん、と触れた。


出久
「っ———!!?」


·····思考、完全停止。


出久
「(む、無理無理無理無理無理!!!!)」


·····距離は、ゼロ。

吐息がかかる。

視界いっぱいに、琉音。


出久
「(近いっていうかもう当たってるっていうかこれ完全にアウトでは!?!?)」


そう視線を上げると、琉音のアメジストのように鮮やかな紫色の瞳に自分が映っているのを認識してしまい·····心臓が、爆発する。


出久
「(いや待って落ち着け僕これはただの確認であって深い意味はなくて———!!)」


だが。


出久
「(でも、琉音ちゃん·····こんなこと、他の人にもしてるの·····!?)」


一瞬、思考が止まる。


出久
「(·····なんか、やだな)」



———自分でも驚くほど、はっきりとした感情。


出久
「(!?·····やだ、って何だ·····!?)」


混乱するその間にも。
琉音は真剣な顔で、熱を確かめている。


琉音
「んー·····ちょっとあったかいけど、大丈夫そうかな。」
「もしかしたら本当に外傷熱かもね。クーリングはいらないと思うけど·····」


琉音はそう言うと、ぱっと顔を離す。

———その瞬間。


出久
「(あ·····離れた)」


ほんの少し、空気が冷えた気がした。
そして一瞬だけ、寂しさがよぎる。


出久
「(いや何考えてるんだ僕は!?!?)」


完全にキャパオーバーである。


琉音
「あれ、びっくりした?」


くすっと笑う琉音。


出久
「え、あ、いや、その、えっと·····!」


何か言葉を返そうと思うが、口から出る言葉がまったく言葉にならない。

そんな出久を見た琉音は、少しだけ不思議そうに首を傾げた。


琉音
「·····本当に大丈夫?」

出久
「う、うん!? 全然平気だよ!?」

琉音
「·····ほんとに?」


じっ、と再びアメジスト色の目で見つめられる。


出久
「(アッ無理!!!!)ほ、ほんとだって·····」


出久の声が裏返る。

それを見た琉音は、ふっと優しく笑った。


琉音
「·····そっか。ならよかった」


その笑顔に。


出久
「(·····あ、だめだ)」



———あの日、止まったはずの想いが。

もう一度、燃え始めた。





———額に残る、あたたかさが消えないまま。



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