誰かに似ている

———水曜日。時刻は午後0:50。


相澤
「今日のヒーロー基礎学だが·····俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」

出久
「(なった·····?特例なのかな·····)」

瀬呂
「ハーイ!何するんですか!?」

相澤
「·····災害水難なんでもござれ、“人命救助訓練”だ」


相澤のその言葉に、教室内はざわつき始める。


上鳴
「レスキュー·····今回も大変そうだな」

芦戸
「ねー!」

切島
「バカおめー、これこそヒーローの本分だぜ!?」

梅雨
「水難なら私の独壇場·····ケロケロ」


その騒がしさを相澤は「おい、まだ途中」の一言だけで黙らせ話を続ける。


相澤
「·····今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな」
「訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗って行く·····以上、準備開始」


相澤のその言葉に、琉音はごくりと息を呑む。


琉音
「(戦闘訓練じゃ、私は救護しか出来なかったけど·····)」
「(助ける訓練なら——今度は、私が誰かを守れるはず!)」



「(——今度は、“見てるだけ”じゃ終わらせない!)」



そして教室は一気に準備の空気へと切り替わり、生徒たちはそれぞれ自分のヒーロースーツのケースを手に、更衣室へと向かっていった。

———それぞれの思いを、胸に抱いて。










———エンジン音とともに、ゆっくりとバスが走り出す。
窓の外の景色が、ゆるやかに流れ始めた。

バスの座席に並んで座りながら、琉音は隣の席の出久に声をかける。


琉音
「そういえば·····いずくん、体操服なんだね。」

出久
「うん、戦闘訓練でボロボロになっちゃったから·····」

琉音
「あれは酷かったもん、そりゃそうなるよ〜」

出久
「修復をサポート会社がしてくれるらしくてね、それ待ちなんだ。」

琉音
「早く返ってくるといいね·····実は私、あのうさ耳みたいなとこ好きなんだ。」


琉音はそう言うと、また両手を頭に当ててうさぎの真似をした。


琉音
「ほら、こんな感じでぴょこってしてて·····可愛いでしょ?」

出久
「えっ、あ、うん!か、可愛いと思う·····!」

琉音
「えへへ」


琉音が笑ったその拍子に、琉音の髪がふわりと揺れる。
濃いピンク色のメッシュが、光を受けてきらりと光った。


出久
「(·····あれ?)」


出久の視線が、ほんの一瞬だけそこに止まる。


出久
「(昔は·····あれ、なかった、よね·····?)」
「(うん·····少なくとも——あの頃の琉音ちゃんには、なかったはずだ)」


「(——あれが現れたのは、確か·····)」


思い出そうとして、うまく繋がらない。
——肝心なところだけ、引っかかるのに·····思い出せない。

·····まるで、そこだけ触れてはいけないみたいに。


出久がそんなことを考えていた時、
琉音のメッシュを見た芦戸が、声をかけてきた。


芦戸
「ねぇねぇ!琉音ちゃんのそのハート型のメッシュって染めてるのー!?」
「めっちゃ可愛いんだけどそれ!!」

琉音
「ううん、これね——個性由来なの」


その言葉に上鳴が即反応し、琉音に声をかける。


上鳴
「·····え、マジ!?そんなオシャレ個性ある!?」

お茶子
「私、るーちゃんとは幼なじみだけど·····会った時には、もうあったよね〜」

芦戸
「いいなぁそれ!かわいいし!」


芦戸はそう言うと、何かを思い出したような顔をして——こう言った。


芦戸
「·····あっ、でもさ!」
「なんかさ、その色と形·····」
「なんか見たことあると思ったら——」

「·····それって、フェニックスってヒーローに似てない?」


その言葉に、他のクラスメイトも会話に混じってくる。


砂藤
「フェニックス?」

上鳴
「誰それ?」

芦戸
「ほら、昔の有名なヒーラーヒーロー!不死鳥のフェニックス!」
「ニュースとかで特集されてたじゃん!」



——ほんの一瞬だけ、琉音の呼吸が止まる。
·····心臓が、わずかに跳ねた。

だが、誰かに気取られる前に、
琉音はすぐに笑顔を作った。


琉音
「·····うん」
「私のお父さんだよ」

「·····お父さん、そっくりでしょ?」


——そう言って、軽く髪に触れて。
にこり、と——いつも通りの笑顔を作ってみせた。


出久
「(·····そっくり、って·····)」


それを見た出久の胸の奥には、なぜか———小さな違和感だけが残った。

その時。


梅雨
「私思ったことを何でも言っちゃうの、緑谷ちゃん」

出久
「あ!?ハイ!?蛙吹さん!!」

梅雨
「梅雨ちゃんと呼んで」
「·····あなたの“個性”オールマイトに似てる」

出久
「·····!?」
「そそそそ、そうかな!?いやでも僕はそのえー·····」

切島
「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトはケガしねえぞ。似て非なるアレだぜ」

出久
「(·····助かった!)」

切島
「しかし増強型のシンプルな“個性”はいいな!派手で出来ることが多い!」
「俺の“硬化”は対人じゃ強えけど、いかんせん地味なんだよなー」

出久
「僕はすごくかっこいいと思うよ、プロにも十分通用する“個性”だよ」

切島
「プロなー!しかしやっぱヒーローも人気商売みてえなとこあるぜ!?」
「·····派手で強えっつったら、やっぱ爆豪と轟だよな」

爆豪
「·····ケッ」

梅雨
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから、人気出なさそ」

爆豪
「んだとコラ、出すわ!!!」

梅雨
「ホラ」

上鳴
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

爆豪
「てめぇのボキャブラリーはなんだコラ殺すぞ!!!」

出久
「(かっちゃんがイジられてる·····!!)」
「(信じられない光景だ、さすが雄英·····!!)」


そうしていると、陽太が口を開く。


陽太
「·····いや、でもさ」
「爆豪“だけ”じゃねーよな、ああいうタイプ」

陽二
「·····え?」


隣に座っていた陽二がそう聞き返すと、陽太は「いるじゃん、似たのがもう一人」と言いながら——ゆっくりと、とある席を指さす。

その声に釣られるように、周囲の視線が一斉にその先へ集まる。


·····そこには、とろみが座っていた。


みんなから見られたとろみはフン、と鼻で笑うように鳴らしてから不機嫌そうに腕組みしてこう言った。


とろみ
「·····何よ」
「まさかとは思うけど、あたしと“あの爆破魔”が似てるとか——本気で言ってるわけ?」


爆豪
「·····はァ?」
「誰が“爆破魔”だコラ!!」


すぐさまとろみの言葉に噛み付いてきた爆豪に対し、とろみはまた馬鹿にしたようにフン、と吐き捨てるように露骨に鼻を鳴らす。


とろみ
「はぁ?どう聞いたってアンタでしょ、他に誰がいるのよ」
「バカみたいにバンバン爆破して——前しか見えてないんじゃない?」

「·····ヒーローってより、ただの“爆破魔”でしょ?」


——一瞬だけ、空気が止まる。


爆豪
「·····テメェ」

「殺すぞテメェ!!」


歯を剥き出しにして、座席をガタッと鳴らしながら身を乗り出す爆豪に対して——とろみは、一歩も引かない。

むしろ、顎を上げる。


とろみ
「やってみなさいよ」
「———出来るもんならね」


ハンッ、と馬鹿にしたように笑うとろみに対して、爆豪は青筋を立てながら「ブッ殺ス!!!」と叫んだ。


切島
「うわ·····爆豪二人いんじゃん·····」

上鳴
「ちっちゃい爆豪だ·····」

瀬呂
「いやあっちの方が語彙あるぶん口悪くね?」

上鳴
「進化版だろアレ」


そんな様子を見ながら、陽太は「·····あー、やっぱ触れちゃいけないやつだったか」と頭を掻いた。


陽二
「·····兄ちゃん、触れた責任取ってどうにかしろよアレ·····」

陽太
「バカ言うな、俺まだ死にたくねぇよ」



出久と琉音は顔を向かい合わせ、


出久
「(·····いや、でも·····)」
「(似てる·····よね·····?)」

琉音
「(·····うん、似てる)」
「(すごく)」


——ほんの一瞬、間。

目の前で繰り広げられる、ほぼ同質の衝突。

言葉も、温度も、向きも———どこか似ている。

·····つまり、それは。


「「(同族嫌悪だ·····!!)」」


と、言葉のない会話をしていた。



相澤
「·····もう着くぞ、いい加減にしとけよ」

「「「ハイ!!!」」」


相澤の鶴の一声で静かになったバスは、
ゆっくりとスピードを落とし、USJの門の前で止まったのだった。


——この先に待つものなど、まだ誰も知らないまま。


その“非日常”が、すぐそこまで来ていることも。



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