———同時刻。
土砂ゾーン。
火花
「急にワープさせられて、気づけば敵の真ん中·····最悪な配置ね」
「無線もジャミングがひどくて、使い物にならないわ·····」
火花はため息をつくと、敵の攻撃を分厚く巻き上げたグリッターの層で、“受け流しながら”———静かに後ろへ半歩下がる。
その瞬間、ゾーンの向こう側で分厚い氷壁がせり上がっていくのが見えた。
火花
「(焦凍が向こうにいるみたい·····合流できれば心強いけど)」
「(でも——今は無理に動かない方がいいわね)」
火花はそう考えると、視線を迫ってくる敵に戻す。
時折来る攻撃はグリッターで防御しつつ、火花はひらりと身を翻しながら後退する。
———彼女が通り、防御した後の地面には、きらり、と微かな光が———静かに、まるで仕込まれるように残っていた。
敵
「くそっ、逃げてんじゃねえ!」
「馬鹿みてえにキラキラしやがって·····!」
「——囲め!!」
土砂が崩れ、足場が揺れる。
それでも火花は焦る様子なく、ただ———静かに、敵を包囲の中心へと確実に誘導していく。
火花
「·····ねえ」
ふと、急に立ち止まり———くるりと振り返る。
火花
「———足元、見てごらんなさい?」
敵
「はぁ?」
足元に。
そこにはいつの間にか———無数のグリッターが散らばっていた。
·····光を受け、キラキラと光を反射する粒子。
火花
「粉塵爆発、ご存じ?」
そう言うと、火花はすい、と指先を上に動かす。
グリッターがふわりと宙に舞い上がり、空気中に満ちていく。
·····そして視界をきらめきで満たし、輪郭を曖昧にしていく。
火花
「キラキラしてて、綺麗でしょう?」
パチッ、と。
小さな火花が、指先で弾けた。
一瞬の静寂。
空気が———張り詰める。
———次の瞬間。
火花
「———BOOM!」
光と衝撃が、一瞬で空間を塗りつぶす。
遅れて———土砂ごと敵が吹き飛んだ。
火花
「·····派手すぎるのは、あんまり好きじゃないんだけど」
爆ぜた光の残滓が、まだ空気の中でちらちらと瞬いている。
舞い上がった土煙がゆっくりと晴れていく中———
轟
「·····久しぶりに見たな、それ」
背後から、低く静かな声が落ちる。
火花がハッとして振り返ると、そこには氷壁を超えてきた轟が立っていた。
火花
「·····焦凍」
火花は一瞬だけ目を細め、
指先に残る熱を振り払うように、軽く手を振った。
轟
「無茶はするな」
轟は短く、それだけ告げる。
火花は一瞬だけ目を逸らし、ふっと息を吐いた。
火花
「そっちこそ·····来るの、遅いんじゃない?」
轟
「悪かったな」
どことなく柔らかい声色で、ほんの少しだけ口元を緩める2人。
———次の瞬間。
遠くで、瓦礫が崩れ落ちる音が響いた。
轟と火花は同時に視線を上げる。
轟
「·····まだ、終わってないな」
火花
「ええ、むしろ——ここからよ」
2人は、同時に地を蹴る。
次の戦場へ———迷いなく。
・
・
・
———同時刻。
倒壊ゾーン。
崩れたコンクリートが軋み、粉塵が漂う中———どこかで鉄骨が悲鳴のような軋みを上げていた。
とろみ
「よりにもよって爆破魔と一緒の場所なんて、屈辱以外の何物でもないわ·····!」
爆豪
「誰が爆破魔だクソチビ!!」
切島
「·····お前ら落ち着けよ!敵の前で仲間割れしてる場合かよ!」
悟見
「そうですわ、お二人とも!今は争っている場合ではありませんわ!」
———その足元で、瓦礫がずるりと崩れ落ちた。
重心が揺れる———その一瞬。
敵
「今だァ!!」
左右から一斉に飛び込んでくる影。
———足場は不安定、逃げ場は少ない。
切島
「来るぞ!!」
その声に、とろみは舌打ちを一つ。
とろみ
「チッ·····足場悪いの、ほんっと最悪」
———その瞬間。
彼女の足元が、ぬるりと“崩れた”。
否、崩れたのではなく———溶けた。
コンクリートの表面が、とろみの足元から一気にスライム状に変質する。
踏み込んできた敵の足が、ずぶりと沈んだ。
敵
「なっ·····!?」
硬いはずの足場が、粘つく泥のように絡みつく。
踏ん張ろうとするほど足を取られ、勢いを殺される。
とろみ
「真正面から突っ込んでくるとか、楽でいいわね」
とろみは嘲るように、片手をひらりと振る。
それに応じるように、敵の足元のスライムが一気に粘度を増した。
ぬるり、と沈み———絡みつく。
引き剥がそうとするほど、逆に深く沈み込む。
敵
「くっ·····動けねぇ!」
とろみ
「残念ね、暴れるほど沈むわよ」
「ほら——動き、止まった」
その瞬間。
爆豪
「——どけクソが!!」
ドンッ!!
爆ぜる音と同時に、爆豪が地面を蹴る。
一直線に距離を詰め——足止めされた敵のど真ん中へ。
爆豪
「まとめて吹っ飛べ!!」
至近距離での爆破。
衝撃が、粘着質の足場ごと敵をまとめて弾き飛ばす。
逃げ場を奪われた状態での直撃——威力は十分すぎた。
瓦礫に叩きつけられ、敵が崩れ落ちる。
とろみ
「あたしのスライム巻き込んで、雑に爆発しないでよね」
とろみの苦言に、
粉塵が舞う中、爆豪が舌打ちした。
爆豪
「チンタラ拘束してんじゃねぇよ」
とろみ
「拘束して“あげてる”のよ」
「前しか見えてない誰かさんのためにね」
切島
「いやいや、今のは普通にナイス連携だろ!」
「足止めしてから爆破とか、めちゃくちゃ噛み合ってたじゃねぇか!」
爆豪
「連携じゃねぇ、勝手に使っただけだ」
とろみ
「こっちの台詞よ」
悟見
「·····ふふっ」
その時。
土煙の向こうで、まだ動ける敵が一人——ふらつきながら立ち上がる。
敵
「っ·····まだ、終わってねぇ·····!」
崩れた瓦礫を踏み越え、今度は悟見へ向かって一直線に踏み込んでくる。
切島
「見固利!?」
·····だが、悟見は動かない。
いや——正確には、“動く必要がなかった”。
レースの目隠しの奥。
伏せられていたその視線が———ほんのわずかに、持ち上がる。
悟見
「·····近づきすぎですわ」
敵
「っ·····!?」
その瞬間。
敵の足が、ぴたりと止まる。
一歩、踏み出そうとした姿勢のまま。
腕も、肩も、首も——まるで見えない糸で吊られたように硬直する。
敵
「な、んだ·····これ·····!」
悟見
「·····ご安心なさって」
「石にはしておりませんわ」
そう言って、悟見はゆっくりと歩み寄る。
レース越しでもなお感じる、ぞくりとするような圧。
悟見
「少し——動けなくなって頂いてるだけですの」
その言葉と同時に、敵の膝ががくりと崩れた。
硬直した体のまま瓦礫に倒れ込み、鈍い音を立てる。
切島
「お、おお·····!?」
爆豪
「·····チッ、便利な目してやがる」
とろみ
「アンタが言うとなんか腹立つわね」
悟見はレースの目隠しにそっと指を添え、視線を隠すように軽く位置を直した。
その仕草は優雅で、けれどどこか——触れられたくないものを庇うようでもあった。
——その時。
ぴくり、と。
悟見の口元——人中が、わずかに動く。
悟見
「·····まだ、来ますわね」
切島
「え?」
悟見は視線を向けない。
だが——確かに“感じ取っていた”。
悟見
「·····右後方、熱源三つ」
「瓦礫の下に、潜っておりますわ」
その言葉の直後。
ガラッ、と。
崩れたコンクリートの下から、敵が飛び出す。
敵
「チッ、バレてんのかよ!」
爆豪
「上等だ」
即座に反応し、爆ぜる。
ドンッ!!
だが、完全には潰しきれない。
敵の一人が、瓦礫を蹴って大きく跳び上がる。
切島
「上だ!!」
空中へ跳び上がった敵が、そのまま勢いよく振り下ろそうとする——その瞬間。
とろみ
「——落ちなさいよ」
とろみが軽く指を上に振る。
———その瞬間。
空中にいた敵の足元の瓦礫が、ぬるりと形を変えた。
固形だったはずのコンクリートが一瞬で粘性を帯び、
足首に絡みつくように巻き付く。
敵
「なっ·····!?」
踏み込みの勢いが、空中で“止まる”。
完全に拘束はできない——だが、ほんの一瞬。
その“僅かなズレ”が、致命的だった。
爆豪
「——遅ぇんだよ」
ドンッ!!
爆ぜる轟音とともに、空中の敵が横から叩き落とされる。
勢いそのままに瓦礫へと叩きつけられ、鈍い音を立てて動かなくなった。
一拍遅れて、粉塵がふわりと舞い上がる。
静寂。
さっきまでの乱戦が嘘みたいに、ぴたりと止まる。
切島
「·····っし!今ので一旦片付いたか!?」
悟見
「ええ——少なくとも、この周辺は」
とろみ
「·····はぁ」
小さく息を吐き、とろみは足元を見下ろす。
ぬるりと変質していたコンクリートは、すでに元の質感へと戻りつつあった。
とろみ
「ほんっと、効率悪いわ。足場悪いし、敵多いし、何より——」
ちらり、と横目で爆豪を見る。
とろみ
「アンタとチームなんて、やりづらいったらないわ」
爆豪
「ハッ、こっちの台詞だ」
「いちいち回りくどいんだよテメェは」
切島
「いやいやいや!さっきの普通に良かったって!」
「止めてから爆破って、めちゃくちゃ理にかなってるし!」
爆豪
「·····勝手に噛み合っただけだ」
とろみ
「冗談でもやめて」
悟見
「ふふ、ご謙遜なさらないで?」
ほんのわずかに、笑みがこぼれる。
——その時。
瓦礫の奥から、遠くで大きく崩落する音が響いた。
ぐらり、と足場が揺れる。
切島
「まだ崩れんのかよ、このゾーン·····!」
悟見はすぐに、すっと表情を引き締める。
悟見
「·····ここに長居は無用ですわね」
レース越しの視線が、遠く——別のゾーンの方向を向く。
悟見
「複数箇所で戦闘が継続している気配がありますわ」
「このまま孤立するより——合流を優先すべきです」
切島
「だな!ここにいてもジリ貧だ!」
爆豪
「チッ·····」
舌打ち一つ。
だが、否定はしない。
とろみ
「·····行くわよ」
短く、それだけ。
次の瞬間、四人は同時に駆け出した。
崩れた足場を蹴り、瓦礫を飛び越え———
——それぞれのやり方で。
——それでも、同じ方向へ。
次の戦場へ。
・
・
・
———同時刻。
入り口付近。
飯田
「皆いるか!?確認できるか!?」
陽太
「クソッ·····さっきまで隣にいた陽二がいねえ!!」
お茶子
「るーちゃんと·····デクくんも、いない·····!」
障子
「落ち着け、散り散りにはなっているがこの施設内にいる」
瀬呂
「物理攻撃無効でワープって·····最悪の“個性”だろ、これ·····!!」
そんな状況の中、13号は落ち着いて飯田に声をかける。
13号
「·····委員長!」
飯田
「はい!」
13号
「———君に、託します」
「学校まで駆けて、このことを伝えてください」
飯田
「·····!」
13号
「警報は鳴らず、電話も圏外です」
「警報は赤外線式·····イレイザーヘッドが下で個性を消しまわっているにも関わらず無作動なのは·····」
「恐らくそれを妨害可能な“個性”がいて、即座に隠したのでしょう」
「·····とすると、それを見つけ出すより君が駆けた方が早い!」
飯田
「しかし、クラスを置いていくなど委員長の風上にも——」
砂藤
「行けって非常口!」
「外に出れば警報がある!だからこいつらはこん中だけで事を起こしてんだろう!?」
瀬呂
「外にさえ出られりゃ追っちゃこれねえよ!」
「お前の脚で、モヤを振り切れ!!」
13号
「そうです·····救う為に“個性”を使ってください!」
13号のその言葉に、飯田は息を呑む。
そして鼓舞するように、お茶子と勇樹も声をかけた。
お茶子
「食堂の時みたく·····サポートなら私できるから!するから!!」
勇樹
「そうよォ、飯田ちゃん!アタシもサポートするワ!」
「だからお願いネ·····委員長!」
———その、覚悟がまとまりかけた瞬間。
黒霧
「·····手段がないとはいえ、敵前で策を語る馬鹿がいますか」
13号
「——バレても問題ないから·····語ったんでしょうが!」
そう言うと、13号は黒霧に向けブラックホールを使用するが———
黒霧
「·····13号、災害救助で活躍するヒーロー·····」
「やはり·····戦闘経験は一般ヒーローに比べ、半歩劣る」
黒霧が開けたゲートの先は、13号の背後へと繋がっていた。
吸い込み口は———そのまま自分自身を捉えた。
13号
「——っ!」
気づいた時には、もう遅い。
自ら生み出した吸引力が、13号の背中側を容赦なく抉り取っていく。
黒霧
「——自分で自分をチリにしてしまった」
芦戸
「先生!!」
砂藤
「飯田ァ!!走れって!!」
砂藤の声に飯田は即座に反応し、自身の“個性”であるエンジンを使ってこの場を走り去ろうとする。
しかし、黒霧もそれを見逃しはしなかった。
黒霧
「教師たちを呼ばれては、こちらも大変ですので」
身体を広げ、飯田を捕まえようとするが———
陽太
「·····行け、委員長!!」
グリフォンのような動物の姿になった陽太が、羽ばたく風圧で黒いモヤを強引に押し流した。
陽太
「早く行けって!」
飯田
「くそっ·····!!」
そのまま勢いよく飯田は入り口に向かい走るが、黒霧も諦めず飯田を追いかける。
黒霧
「ちょこざいな·····!外には出させない·····!!」
それを見た勇樹は、何かに気づいた顔をすると———お茶子の手を引いて勢いよく走り出す。
芦戸
「姐さん!?どうしたの!?」
お茶子
「·····ね、姐さん!?」
勇樹
「皆、アレ見て!!」
———指差した先。
黒霧の身体は霧のまま揺らいでいる。
だが——その中で、首元の装置と服のパーツだけが、はっきりと“形”を持って宙に浮いていた。
お茶子
「·····っ!あれだけ浮いてるってことは……!」
勇樹
「多分——アレが“本体”ヨ!!」
黒霧
「·····気づきましたか」
「ですが——遅い」
黒い霧が広がり、再び飯田の進路を塞ごうとする。
陽太
「チッ·····邪魔だってんだよ!!」
バサッ!!
巨大な翼が広がり、風圧が黒霧を押し流す。
霧が、わずかに“散る”。
勇樹
「今よ!!」
お茶子
「·····うんっ!」
パシッ。
お茶子の手が、黒霧の装置へと触れる。
お茶子
「理屈は知らんけど、こんなん着とるなら·····実体あるって事じゃないかな·····!」
「行けええ!!飯田くーん!!!」
ふわり、と。
装置と服のパーツが、霧から“浮き上がる”。
黒霧
「(しまった·····“身体”を掴まれた!!)」
瀬呂
「逃がすかよ!!」
ビュンッ!!
テープが一直線に伸び、浮いたパーツへと巻き付く。
勇樹
「·····アタシも行くワ!!」
しゅるっ——!
勇樹の腕が蔦に変化してほどけ、テープに重なるように絡みつく。
勇樹
「まとめて——引き剥がすわヨ!!」
瀬呂
「おうよ!!」
「「———せーーーのッ!!!」」
ギュンッ!!
テープと蔦が同時に引かれる。
浮いた“本体”が、霧から強引に引き離される。
———霧との繋がりが、断ち切られるように。
黒霧
「·····これは——!!」
その瞬間。
黒い霧の流れが、明確に“乱れた”。
勇樹
「——今よ!!」
陽太
「行けぇええええ!!」
風が、一気に道を切り開く。
飯田
「——ッ!!」
エンジンが唸る。
地面を砕く勢いで加速。
黒霧
「止まれ——」
———だが。
ほんの一瞬の“遅れ”が、致命的だった。
飯田は、そのまま黒霧の追撃を振り切り———
出口へと駆け抜けた。
黒霧
「·····応援を呼ばれる·····」
「ゲームオーバーだ」
———静かに、そう告げた。