“ブレイジング・ラブ”

———保健室。

消毒液の匂いと、規則正しく落ちる点滴の音。

そして———戦いの余熱だけが、まだ微かに残っていた。


脳無と激戦を繰り広げたオールマイト。
彼を救おうと、ワン・フォー・オールで両足を折った出久。
そして———火傷を負った琉音。

三人はそれぞれ、ベッドに横たえられていた。



リカバリーガール
「·····今回は事情が事情なだけに、小言も言えないね」

オールマイト
「多分だが·····私、また活動限界早まったかな·····」
「一時間くらいはまだ欲しいが·····」

出久
「オールマイト·····」


オールマイトは体を起こし、出久と琉音の方に向いた。


オールマイト
「それより、緑谷少年」
「久智付少女の炎の話を——もう一度、詳しく聞かせてくれないか」


その表情は真剣そのものだった。


出久
「·····っ、はい」
「最初は、琉音ちゃんの治癒個性の生体エネルギーか何かだと·····思ったんです」

「でも·····違った」

「ナイフを弾いて、しかも·····まるで意思があるみたいに、勝手に広がっていって·····」


出久は言葉を選びながら、思い出すように話す。


出久
「琉音ちゃん自身も、止められてなくて·····」

「むしろ——」


出久は一瞬、言葉を詰まらせる。


出久
「焼かれて、苦しんでいるような·····」



オールマイトは、しばらく黙っていた。

視線は——琉音の腕の火傷へと向けられている。


そして、一言だけ·····こう呟いた。



オールマイト
「間違いない——」

「———”ブレイジング・ラブ”だ」



出久
「·····ブレイジング・ラブ?」


聞き慣れない名に、出久は思わずその言葉を繰り返す。


リカバリーガール
「·····出ちまった、のかい」


その声には、はっきりとした苦味が混じっていた。


出久
「リカバリーガールも·····知ってるんですか?」


リカバリーガールは何も言わず、一度だけ頷いた。

それにオールマイトは、わずかに視線を落とす。

———ほんの一瞬、言葉を選ぶように。


そして——静かに言う。



オールマイト
「·····本来なら、まだ話すべきではない」


一拍、間を置く。


オールマイト
「だが——」


出久の目を、まっすぐに見据える。



オールマイト
「·····彼女が、覚醒してしまったのなら」
「ワン・フォー・オールの継承者である君に、隠す訳にはいかない」



空気が、わずかに張り詰める。



出久
「·····っ」


オールマイト
「“ブレイジング・ラブ”」
「それは——ワン・フォー・オールと“対”になる個性だ」


出久
「“対”·····?」


オールマイト
「性質はまるで違う。だが——その“在り方”が似ている」

「ワン・フォー・オールが“力”を受け継ぎ、積み重ねていく個性だとするなら——」

「ブレイジング・ラブは——“想い”を燃やし、繋いでいく個性だ」


出久
「想いを·····燃やす·····?」


リカバリーガール
「厄介な言い方をするね、あんたは」

オールマイト
「·····事実です」


そう言って、オールマイトはゆっくりと琉音の眠るベッドへ視線を向ける。


オールマイト
「昔から——ワン・フォー・オールの継承者の隣には、常にブレイジング・ラブの継承者がいたとされている」

「表立って語られることは少ない。だが、記録の端々には確かにその存在が残っている」

「どの時代にも、“力を継ぐ者”の傍らには——“想いを燃やして繋ぐ者”がいた」


出久
「じゃあ·····琉音ちゃんのお父さんも·····?」

オールマイト
「あぁ」


———短く、しかし確かな肯定。


オールマイト
「君も知っての通り、彼女の父——治人は、その継承者だった」

「私のそばに——「フェニックス」として在り続け·····」

「·····そして今——その火は·····久智付少女へ渡った」


出久は息を呑む。

視線が、眠る琉音の前髪のハートのメッシュへ吸い寄せられる。


オールマイト
「“ブレイジング・ラブ”——その名の意味は、『燃え続ける愛』」

「愛、といっても——甘いものばかりではない」

「誰かを守りたいという願い」
「離したくないという執着」
「失いたくないという痛み」

「そうした強い想いそのものを、火へ変えて継いでいく個性だ」


リカバリーガール
「·····だから厄介なんだよ」


低く、吐き捨てるような声。


リカバリーガール
「·····優しい子ほど、よく燃える」
「誰かを大事に思う子ほど——自分を薪みたいにくべちまう」


出久
「·····っ」


オールマイト
「今日、久智付少女の炎が吹き上がったのも——」
「恐らくは、そういうことだ」

「彼女は怒りで燃えたわけではない」
「君を守ろうとして——燃えたんだ」


その一言に、出久の肩がぴくりと揺れる。


出久
「僕を·····?」

オールマイト
「ああ」


しばしの沈黙。

点滴の音だけが、保健室に規則正しく響く。

やがてオールマイトは、静かに続けた。


オールマイト
「·····だが、まだ覚醒したばかりだ」

「今の彼女は、火を“使った”のではない」
「火に“使われた”に近い」

「慣れないうちは——自分の体が、力に耐えきれない」

「ワン・フォー・オールが、君の骨を砕くように」
「ブレイジング・ラブもまた、彼女自身を焼く」


出久
「·····!」


オールマイト
「力に身体が追いつかず、制御できなければ——自分から壊れていく」


リカバリーガール
「まったく、似たような厄介事を二つも抱え込ませるなんてね」


オールマイト
「·····返す言葉もありません」


リカバリーガール
「あるさ」


ぴしゃりと言って、リカバリーガールは二人を見る。


リカバリーガール
「·····一人で背負わせるな、それだけだよ」


その言葉に、オールマイトは目を伏せる。

出久もまた、何も言えずに拳を握った。


オールマイト
「久智付少女がこれからどう向き合うかは——彼女自身が決めることだ」
「だが、少なくとも知っておいてほしい」

「·····その炎は、呪いではない」

「誰かを想った証だ」


出久
「·····でも、それで琉音ちゃんが傷つくなら」
「そんなの——あんまりです」


絞り出すような声だった。

オールマイトは、そんな出久をまっすぐ見つめる。


オールマイト
「だからこそだ、緑谷少年」

「君はワン・フォー・オールを学ばなければならない」
「彼女もまた、ブレイジング・ラブを学ばなければならない」

「受け取った力に、受け取った想いに——呑まれないために」


出久
「·····はい」


オールマイト
「——そして」


一瞬だけ、言葉を切る。



オールマイト
「君たちは恐らく——」

「もう——互いに無関係では、いられない」



その一言は、ひどく静かだった。

けれど———確かな重みがあった。


出久は何も言えないまま、眠る琉音を見る。


———さっき、自分を守って燃えたその姿が、頭から離れないまま。


包帯の下に残る火傷の痕。
苦しげではない、けれど安らかとも言い切れない寝顔。



出久
「·····琉音ちゃん」



気づけば、名前が零れていた。

ベッドの上の琉音の指先が———ほんのわずかに動いた。



リカバリーガール
「·····おや」


出久
「·····っ!」


ゆっくりと———

まぶたが、震える。



琉音
「·····ん·····」


かすかな声。


まだ焦点の合わない紫色の瞳が、ぼんやりと天井を映し——


やがて。


琉音
「·····いず·····くん·····?」


その声は、か細くて。

けれど確かに、間違いなく——


“彼を探していた声”だった。


———まるで、最初からそこにいると分かりきっていたみたいに。


出久
「ここにいるよ·····!」



その一言で———火は灯った。

まだ名前のない“関係”が、静かに火を灯した。


まだ小さく———けれど確かに消えない炎が。



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