———USJ襲撃の、二日後。
飯田
「皆!!朝のHRが始まるぞ!!席につけーー!!」
瀬呂
「ついてるよ、ついてねーのおめーだけだ」
陽二
「早く席着けよ委員長」
そんな中、包帯でぐるぐる巻きになっている相澤が「お早う」と挨拶しながらヨロヨロと教室に入ってきた。
———一瞬、教室の空気が張り詰める。
飯田
「先生、無事だったのですね!!」
お茶子
「無事言うんかなぁ、アレ·····」
陽太
「絶対言わねえと思う」
陽二
「もうあれほぼミイラじゃん」
陽太
「それな」
相澤
「·····俺の安否はどうでもいい、何よりまだ戦いは終わってねぇ」
爆豪
「戦い?」
出久
「まさか·····」
峰田
「まだ敵が——!?」
———数秒の沈黙。
相澤
「雄英体育祭が迫ってる」
「「「「クソ学校っぽいの来たああああ!!!!!」」」」
陽太
「ちょ、待って待って!敵に侵入されたばっかですよ!?それ開催して大丈夫なんですか!?」
相澤
「逆に開催することで、雄英の危機管理体制が盤石だと示す·····って考えらしい」
「警備は例年の五倍に強化するそうだ」
「何より·····雄英の体育祭は“最大のチャンス”。敵ごときで中止していい催しじゃねえ」
陽二
「毎年すげえもんな、俺よく兄ちゃんとテレビで見てたもん」
「日本のビッグイベント!みたいな感じでさ!」
悟見
「当然、全国のトップヒーローもスカウト目的で観ますものね」
「サイドキックを探すヒーローの方々も多いですから、いい機会でしょうし」
勇樹
「ウチの姉さんのヒーロー事務所からも何人か来るって聞いたワ」
「·····観覧チケット、すでに争奪戦らしいわヨ!」
沸き立つ生徒たち。
———その中で、一人だけ。
琉音の表情は、どこか浮かないままだった。
・
・
・
———昼休み。
琉音が廊下を歩いているとオールマイトが声をかける。
オールマイト
「久智付少女!!」
琉音
「オールマイト!?」
オールマイト
「君と少し話がしたくてね!」
琉音
「·····?」
———オールマイトに連れられ仮眠室に行くと、そこにはすでに出久がいた。
出久は椅子に座り俯いていたが、琉音に気づくとすぐに笑顔を浮かべて顔を上げる。
出久
「あ·····琉音ちゃん!」
琉音
「いずくんも、オールマイトと話を?」
出久
「う、うん·····そんなところ·····」
オールマイトが二人の様子を一度見渡すと、静かに口を開いた。
オールマイト
「·····久智付少女、こちらへ」
「緑谷少年の隣に座るといい」
琉音
「·····はい」
少しだけ戸惑いながらも、琉音は出久の隣の椅子に腰を下ろす。
オールマイトは、二人が座ったのを確認すると———深く息を吐き、ゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。
オールマイト
「·····久智付少女、先に———君に謝らなくてはならない」
「君の許可を得ず、ブレイジング・ラブの話を·····緑谷少年にさせてもらった」
琉音
「·····っ!」
琉音の目が少し見開かれ、スカートに置かれた指先がわずかに震える。
オールマイト
「君の父——治人の事は、よく知っている」
「だからこそ、ブレイジング・ラブの秘匿性も理解している。」
「·····君の了承なく、話すべきではなかったことも」
「だが———」
ほんの一瞬、言葉が途切れる。
「緑谷少年は、すでに君の炎を見ている」
「そして——その代償も」
「·····もう、何も知らないままではいられない」
オールマイトはそう、静かに言い切る。
その言葉に琉音は一度だけ目を伏せ———小さく息を吐いた。
琉音
「·····そう、ですよね」
責めるでもなく、拒むでもなく。
ただ静かに、現状を受け入れるような声。
琉音
「私も·····もう“知らないふり”は出来ないです」
その言葉に、出久ははっと顔を上げる。
琉音
「前に保健室で、オールマイトが言ってた言葉·····」
「“君の隣には——君と同じように、“受け取った者”がいる”って」
「あの時、否定も肯定もされなかったけど——」
ゆっくりと、琉音の視線が出久に向く。
琉音
「いずくんの事、だよね?」
出久
「·····っ!」
———呼吸が、一瞬だけ止まる。
言葉が詰まる。
否定できない。
·····でも、どういえばいいか分からない。
オールマイトはその沈黙を見て———ゆっくりと頷いた。
オールマイト
「·····あぁ」
短い肯定。
———だが、それだけで十分だった。
それ以上の言葉は、もう必要なかった。
オールマイト
「緑谷少年は——ワン・フォー・オールを、私から受け継いだ」
空気が、わずかに変わる。
琉音の瞳が、ゆっくりと揺れた。
驚きは——ある。
·····けれど、それ以上に。
琉音
「·····やっぱり」
ぽつりと零れるその言葉に、出久は目を見開く。
出久
「え·····?」
琉音は少しだけ、困ったように笑ってこう言った。
琉音
「·····ずっと、おかしいと思ってたの。」
「いずくん·····昔は“個性”がなかったはずなのに、って」
出久の肩が、びくりと揺れる。
琉音
「試験の時も、授業の時も、USJの時も·····」
「その度に壊れるみたいに骨を折ってまで、なんでそんな無茶な力を使ってるんだろうって」
少しだけ視線を落とす。
琉音
「なのに、それでも使ってて·····」
「だからそれは“最初からある個性”じゃないって、なんとなく分かってた」
そこで、ゆっくりと顔を上げる。
琉音
「でも·····聞けなかった。」
「·····聞いたら、いけない気がして」
出久は、ぎゅっと拳を握る。
出久
「·····ごめん」
震える声。
琉音
「·····いつから?」
出久
「·····入試の、前·····」
出久は呟くようにそう言うと、気まずそうに俯いて琉音から少し目を逸らした。
出久
「僕、言えなくて·····」
「でも、琉音ちゃんに隠したかったわけじゃなくて·····ただ·····」
琉音
「うん」
すぐに、頷く。
遮るように——でも優しく。
琉音
「分かってるよ」
その一言に、出久の呼吸が止まる。
琉音
「·····いずくんが隠したくて隠してたんじゃなくて——“隠さなきゃいけなかった”んだよね」
オールマイトは、何も言わずにそのやり取りを見ている。
琉音は、そっと自分の前髪のメッシュに触れた。
琉音
「·····私も、同じだから」
静かな声。
琉音
「私にも、“受け取ったもの”があるよ」
「重くて、怖くて·····でも、手放せないもの。」
「——手放しちゃ、いけないもの。」
出久の目が、ゆっくりと琉音へ向く。
琉音
「だから——分かるよ」
ほんの少しだけ、笑う。
琉音
「·····一人で抱えなきゃいけないって、隠さなきゃって、思っちゃうの」
沈黙が落ちる。
けれどそれは、気まずいものじゃない。
それは———“同じ側に立ってしまった者同士”の、静かな理解だった。
オールマイト
「·····君たちは、違うものを受け継いだ」
ゆっくりと、言葉を置く。
オールマイト
「だが——在り方は似ている」
「それは·····一人で背負えば、いずれ壊れる力だ」
そして、視線を二人に向ける。
オールマイト
「だからこそ、私は——互いに隠し続けるべきではないと判断した」
琉音はその言葉を、静かに受け止める。
そして——隣を見た。
出久もまた、同じタイミングでこちらを見ていた。
一瞬だけ、視線がぶつかる。
ほんの少しの沈黙。
けれどそれは、もうさっきまでの気まずさとは違っていた。
琉音
「·····じゃあさ」
琉音は一瞬だけ、何かを決めたように息を整える。
けれど次の瞬間には、どこか吹っ切れたように——琉音はふわりと笑った。
琉音
「一緒に頑張ろ?」
出久
「·····え?」
少し拍子抜けしたような声。
琉音はその反応に、小さく肩をすくめる。
琉音
「だって、二人とも一人で抱えたら駄目なんでしょ?」
「だったら——最初から一人じゃない方がいいよね」
その言葉はひどく素直で、あっけないほど真っ直ぐだった。
出久は一瞬だけ目を見開いて、言葉を失う。
琉音
「·····いずくんが壊れたら、私が治すよ」
琉音はそう言って、出久の手に優しく自分の手を重ねる。
·····ためらいは、なかった。
そのまま、そっと自分の胸元にもう片方の手を当てる。
琉音
「その代わり——私が暴走したら、いずくんが止めてね」
少しだけ、いたずらっぽく目を細めた。
出久
「·····っ」
その言葉に、出久の喉が詰まる。
あまりにも自然に。
あまりにも当たり前みたいに。
———最初から、“隣にいる”前提で言われた。
琉音
「ほら、おあいこ」
そう言うと琉音はふふ、と笑う。
琉音
「私ばっかり治して、いずくんばっかり助けるのも変でしょ?」
出久
「琉音ちゃん·····」
琉音
「それに」
一瞬だけ、前髪のハートのメッシュに触れる。
琉音
「受け取っちゃった以上、もう逃げられないなら——」
「·····せめて、いずくんと一緒の方がいい」
その声音は、しんみりしていない。
怖いのに、ちゃんと前を向こうとしている声だった。
出久はしばらく何も言えなかった。
けれど——やがて、ぎゅっと握っていた拳の力を少しだけ緩める。
出久
「·····うん」
小さな声。
けれど、今度は迷いのない肯定だった。
出久
「僕、止めるよ」
琉音
「うん」
出久
「琉音ちゃんが危なくなったら、ちゃんと止める」
「だから·····」
一度だけ、息を吸う。
出久
「——僕が壊れそうになった時は、お願い」
琉音は、その言葉に嬉しそうに目を細めた。
琉音
「任せて」
その返事は、軽いのに不思議と頼もしかった。
仮眠室に落ちていた空気が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
オールマイトは、そのやり取りを黙って見つめていた。
やがて——ほんのわずかに、目を細める。
その表情は、安堵にも似ていた。
遠い昔。
無茶ばかりする自分の隣で、呆れながらも付き合い続けてくれた“あの男”の姿が、一瞬だけ脳裏をよぎる。
燃えながら。
それでも、誰かを守るために笑っていた男。
———そして今、同じ火を灯した二人が、目の前にいる。
オールマイト
「·····そうか」
小さく、誰にも聞こえないほどの声で呟く。
それ以上は何も言わない。
ただ——
今目の前にいる二人が、かつて自分たちがそうであったように、支え合う道を選んだことに。
ほんの少しだけ———救われたように、笑っていた。