その他いろんなお話
[3/5]


「俺にあげろ!!!!」

マイクに命を吹き込む。目の前に流れる映像がまるで昔の自分に重なった。

「っらああああ!!」
「上げてくれればそれでいい…!!」

隣に立つ共演者が俺のことをチラリと見て、声を上げた。
肩で息をしながら集中する。目の前に上がるボール、これに食らいつけば一点入る土壇場のシーン。主人公じゃない。負ける事も原作で知ってる。それでも今、俺はこの試合の主人公だ。絶対に勝つ、勝ってやるんだ、そんな気持ちで望まないと。

「っああああああ!!!」
「っくそ!!!」

ライバル役の内山が舌打ちをして、石川の悔しそうな声が上がった瞬間、俺と、俺が演じるキャラと同じチーム役の数人が横に並びながら、目を合わせた。



っすぅ。


息を俺が吸い込んで、首を一つ小さく頷く。



「「「「「っしゃああああああ!!!!!」」」」」




同時に響いた雄叫び。まじで今、俺達青春じゃね?と言わんばかりのでかい叫び声。
リハで監督に言われたのは「できる限り長めのシャウトを」だった。だから俺たちは、声が枯れるまでもうこの後の演技は知るかと言わんばかりの声量で、声を上げた。






「泣け泣け!んでもって…来年は任せたからな」
「「「はい…!はい…!!!!」」」

試合は負けた。うん、原作通りだもんね知ってた。でもやっぱり自分が演じたキャラが負けるのってすごく辛くて。負けた後、俺のキャラはキャプテン兼エースとしての立場だったから、全員を鼓舞する役だった。いつも笑顔の、明るいキャラ。隣に並ぶ共演者は皆、泣き演技をしている。本気で泣きながら演じてる奴もいた。


それを見ながら少し昔を思い出した。


この収録が始まる前、共演者の自由が俺の隣に来て話しかけに来た。小中高と12年間バスケ部だった俺は、全国にだっていったこともある。本気でバスケやってたし、本気で青春を感じていた。多分バスケなしでは、俺と言う個体を語るのは不可能だ。

「こう言うスポーツアニメの収録やると、思い出します?」
「思い出すよ、当時の事。こんなかっこいいこと思ってたわけじゃねーけどさ」

俺に渡せ、俺が決める、ここで俺が決めないと!なんて思いながら試合をやってたわけじゃない。でも確かに、最後の一点を決めるブザービートを決めた時の興奮は忘れないし、その時の心情も今でもはっきりと思い出せる。

『決める』

あの気持ちは今だって大切にしてる。



「キャプテン…先輩達、ありがとうございました…!」

次期キャプテンとなる後輩を演じた演者が、実際に涙を流しながらそう言った。隣に並ぶ他の共演者も同じように涙を流す。わかる、こう言う収録やってると、本気で泣きたくなる。自分のことのように、キャラの感情が入ってくるんだよな。

同じ3年生役の演者も涙を流す演技をして、「おう、来年こそ雪辱を果たせよ」「来年は優勝だ…!」そう言っている。隣でそれを聞いて、明るく笑ったあと、次は俺一人のシーン。

隣に並んでいた共演者が一人ずつ後ろに下がり、マイクの前に立つのは俺だけになった。

映像が流れ始める。他の共演者も、相手役の奴らでさえ俺から離れた。今この場でマイクの前に立って生きているのは、俺だけ。

映像の中で、俺の演じるキャラが扉を開けて、閉める。背中を扉に預けて崩れるように座り込んだ。ぼたぼたと落ちていく涙。

「っくっ………そ」

悔しい。悔しい。悔しい。
いつも笑顔の明るい皆の太陽のようなキャラクターが、負けて悔しいと泣く姿。

「くそっ……!!!」

拳を握って、何度も自分の太ももを殴っている。この野郎、何であの時、どうしてあの時。そんな思いを胸に抱きながら何度も、何度も。


あぁ、わかる。


高校三年生最後の試合。IH本戦で、俺の学校は2回戦で負けた。雪辱を果たしてくれと卒業していった三年の先輩に胸を張れるように練習したつもりだった。今年はいけると思っていた。
それでも、無理だった。

試合の最後には鉄のように動かなくなった足が、何も考えられなくなった頭が、勝手に動く手が、止めどなく流れてくる悔し涙が。

俺にも、分かる。

「くそぉ…!!!!」

前髪を鷲掴みにして、両手で顔を覆うように泣く姿が。

昔の俺と同じだった。

「……っ!!悔しっ……!」

言葉が出てこなくなる。涙声のまま、俺は涙を流しながら声にならない声で何度も何度も泣き喘いだ。

「くっ………ぁぁあっ……!!!!!」

そんな後ろ姿が、俺はとても眩しく見えた。









「晃さんの泣き演技最高ですね…」
「え?そう?」
「晃って昔から泣き演技上手いよなぁ〜ライバル役ながら見ててこっちも泣いちゃったよ」

収録が終わって、別にこのアニメの主人公ってわけでもないけど、まぁチームのキャプテンでもあった俺は何故かそのチーム役のメンバーに囲まれて、お疲れ様っした〜と、声をかけられていた。運動部かよ。
そんな姿を見ていたらしい自由と日野さんが感慨深そうに、そう言っているのが聞こえる。

「なんか、本当にそこにキャラクターがいたって感じがしました…」

石川が、ぼぅっととぼけながらそんなことをいう。主役達にそう言われるのはとても嬉しいものだ。あぁ、ちゃんと俺はこの試合の主役を担うことができていたんだなと思うから。

「昔を思い出して演技してたからかな。そう言われると嬉しいわ」

バスケ少年だった自分が思い返される。この競技はバスケじゃないけど。それでも、青春を、高校時代の時間を全て部活に捧げていた事実は変えられない。それは強くても弱くても結局どれも等しく綺麗な青春で。ただ、それをまた演じることが出来た、演じた上で、感情を揺さぶることが出来たのが、本当に嬉しかった。

「勉強になります、ありがとうございます!」
「いやこちらこそ…」

頭を下げられてしまって思わず俺も頭を下げる。
そばで見ていた信彦が笑いながら、晃さんの泣き演技生で見れてよかったと言った。

「俺はこの試合負けてるからもうあまり出演はないけど、またちょくちょく出るらしいからよろしく。その時は多分泣いてないと思う」
「あのうるさい笑い声がまた聞けるのか」
「晃にしては珍しいぐらいの陽キャだったね」

笑いながらそう言う神谷さんと細谷に、俺は首を縦に振って頷いた。

「俺の爽やかキャラなんて滅多に見れないすよ」

そう。俺がそんなに爽やかに笑ってるキャラなんて、こんな青春アニメじゃない限り滅多に見れない。だからこそ、ここまで本気で臨めたんだから。



* 前へ | 次へ #
3/5ページ

LIST/MAIN/HOME

© 2018 憂いにキエル。