俺はこうやって、プロポーズした
未祐さんの闘病を知ったのは鈴村さん経由だった。全然共演しないし会わないなぁ、体調不良だってことは知ってたから大丈夫かなぁ、と思っていたときに、入院してると教えてもらった。
びっくりしたさ。そりゃもう、めちゃくちゃね。
だってあの人、何も言わないんだ。
俺と未祐さんの仲ってそんなもん?って少し思ってしまうところもあったけれど、あの人は俺に心配かけたくなかっただけなんだろう。
「で?なんか俺に言うことあるでしょ未祐さん」
「う、晃君……」
目の前にいるのはベッドに横になってる未祐さん。すっぴんの顔なんて久々に見た。病室の扉をノックして、はーいなんて間抜けな声を聞きながら開けば、未祐さんは一気に青ざめた顔で俺のことをみていた。
ベッドの脇にある椅子に座りながらそう聞けば、彼女は俺の目に目を合わせないようにどっか遠くの方を見てしどろもどろになっている。
「ちゃんと言えよ。いつも急にご飯いこーとか言うくせになんで大事なことは言わないわけ?」
「だって、心配かけたくなくて…」
「知らねぇっすよまじで」
どんだけ俺が心配したと思ってんだ。鈴村さんに聞かされた時、俺どうなったか知ってんの?鈴村さんめっちゃびっくりしてたぞ。俺気絶するところだったんだからな。
「心配かけたくないとかどうでもいい、心配ぐらいさせてください」
俺は未祐さんの手に自分の手を重ねた。びっくりしたように、彼女はその手を引っ込めようとしたけど、俺は力を込めてそれを止めた。引っ込む意味がわからん。
椅子をキィ…と一つ静かに鳴らしてベッドに近寄る。距離が近くなった未祐さんの顔は、少し痩せ細っていた。
「…いつ治るんですか?」
「多分すぐ治るよ、大丈夫」
「ほんとに?」
「うん、本当に」
また、心配かけないために言ってる嘘だって俺はわかっていた。
嘘つき。思わずそう言いたくなるのを我慢して、俺は手に力をより込める。痛いよって未祐さんは言った。俺も、ちょっと心が痛いかもしれない。
「ねぇ、未祐さん。ずっと言おうと思ってたことがあるんです」
「なぁに?まるでこれが最後みたいな言い方」
おかしな晃くん。
未祐さんはクスクス笑ってそう言った。
おかしいものか。あんたに出会って早数年。俺の事をパシリなのか弟なのかわからんけど、何処にいても呼びつけてご飯に連れてってくれるあんたに、俺が惹かれないとでも思ったのか。
あんたの後輩に対する笑顔や態度に、見習おうと眺めていた俺の気持ちも、わかんないんだろう。
いつからかそれが憧れだけじゃなく、恋情へと変わる事だって、ど天然なあんたは知らないんだ。
「退院したら、結婚しよう」
付き合うとかこの際すっ飛ばしていい。
はっきり言えば明日でもいい。今すぐ俺と結婚してほしい。
「俺の知らない所で勝手に体調悪くなられたら、俺の心臓に悪いです。恋人でもなんでもない、ただのあんたの後輩ってだけで終わらせないでほしい」
未祐さんは驚きからか目を大きく見開いていた。
俺はじっくり彼女の目に目を合わせる。そらそうとしない。彼女はまっすぐ、俺を見つめ返した。
「….本気で言ってるの、晃君」
「本気です」
「…だめだよ、私君より歳上だよ?それに今、体悪くなっちゃったし…君の活躍を私が邪魔しちゃダメだよ」
俺の一世一代のプロポーズ。未祐さんはまんまと拒否をした。
普段から早く結婚したいとか彼氏欲しいとか言ってる割に、俺の本気のプロポーズには怯えるんだなと俺は内心冷静に判断していた。
「関係ない。俺が未祐さんと結婚したいから言った」
「だ、だって今晃君人気絶頂の最中でしょ…!?そんな時に結婚なんて…!」
未祐さんの言いたいこともわかる。俺だって、投げやりに言ってるわけじゃない。未祐さんが丁度入院したからいったわけでもない。ただ、ずっと思ってたことだったんだ。
「俺、未祐さん以外で好きになれる女性なんていないです。大好きだから、結婚して欲しい。俺と結婚するために、その病気治そう?」
「晃君…」
未祐さんはその目をうるうると涙で揺らした。葛藤と悩みと、不安が見え隠れする。
「病は気からって言うでしょ。俺と結婚できるんだよ未祐さん」
「……なぁにそれ、私が晃君と、すごく結婚したいみたいな言い方!」
「そんなんじゃないけどさ」
手をもう一度握りしめる。
治ってほしい。元気になってほしい。また一緒に同じ現場で隣に立ちたい。この先も一緒に過ごしたい。ずっと、笑っていてほしい。
「好きです未祐さん」
俺は、彼女に告白をした。
未祐さんは少し迷った後にゴクリと首を縦に振って、私も好きです。って言ってくれた。
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憂いにキエル。