くるおしい距離



三郎「早く寝ろよー」

庄「あの、鉢屋先輩・・」

三郎「ん?大丈夫だ。もう惑わされたりしないさ」

つい最近まで天女の術にかかってしまっていたのに
大丈夫はきついかな、と感じながらもふと通る気配に気づく


勘「・・ねぇアレって」

彦「どうしたんですか?」

三郎「勘右衛門、行くぞ」

庄「都佑先輩ですよね。行って来て下さい。」


そう庄左エ門が言った後にちゃんと
「先輩方はもう大丈夫でしょうけど都佑先輩は違います」
と何故か意味深な事を人差し指を立てて言う


勘「都佑が・・違う?」

三郎「・・おい、追いかけるぞ。
あの様子じゃ外に出るな。」

彦「あの!都佑先輩を傷付けたら承知しませんよ!」

そう言う彦四郎からは殺気に近いものが立っていた
それに大分お世話になったんだと三郎は想い分かっていると言った後
直ぐに勘右衛門と姿を消した



庄「大丈夫だよ彦四郎」

彦「庄左エ門・・」

庄「あの先輩方が二度も同じ手に巻き込まれる人じゃない。
僕らがやる事は寝る事じゃないかな」

彦「しょ、庄左エ門ったら、冷静ね・・・」










































三郎「此処か?」

勘「こんな処に部屋があるとは知らなかったなぁ」

来ていた場所は西の方の裏山だった
其処に木々で死角になっている場所に都佑が行っている処があった
きちんと閉めたであろう戸を見ながらも部屋に侵入できる様な場所を見つけ
直ぐに中に入って見ると中から声が聞こえて来た



『大丈夫、大丈夫。怖くないってば。
こうやって歌っていれば楽になるし
それに・・きっと皆元に戻るから。だから』


そう言いながら都佑は自身の手を首に置く
それに胸がちくりと痛んだ
つい最近までその元に戻る前に居た人間だったからだ



勘「(ちょ!?)」

三郎「(馬鹿!音出すなよ!?)」

都佑がいきなり半裸になりだしたので
慌てたりしてしまったが
音は出さずに聞いているとどうやら
これから何かをするようだ





『要らない 知らない 行き場もない 
出来ない いけない 息できない

飛び交う暴論 非常識 
呑み込んで入り混じって感情OFFって』


勘「(歌?それにしては何だか)」
何処か寂しそうに歌う都佑に胸が痛くなった勘右衛門
直ぐに間奏が来るわけもなく次の歌が歌われる


『何ももう無い 僕にはもう無い 
痛いの飛んでけ 痛いの飛んでけ
こんがらがって重い むせ返って目眩 
痛いの飛んでけ 痛いの飛んでけ』

都佑が右手を左手を交互に手を出して宙に投げだす
それは一種の舞の様で、だが足はM字に下に座っていて


三郎「(っ・・この現状を歌っているのか)」

その言葉は存在が要らない、現実は知らない、
そうして入る場所も行き場もない
上手くコミュニケーションがとれない(出来ない)
これではいけない、息が苦しくて胸が痛くて息が出来ない

だから何ももうない。私にはもうなんにもないと
この痛い物は飛んでいってしまえこの何とも出来そうに
ない現実に眩暈がする。それすらも飛んでいってしまえと
言い聞かせている様に聴こえた三郎は
自分が今迄苦しめていた原因と目の前で
歌っている悲しそうな都佑を抱きしめて
慰める事すらもできない不甲斐なさに胸が痛んだ


都佑が確かに三郎達が与えた筈の場所が
何処にあるのかをそしてこの現実の残酷さに
痛さを軽減させる為の小さな処置であった事を
更に2人は知って胸が痛む




『物憂いのマスクも 上手に切り取って
塞いだ本心(ホント)を 真っ赤に欺いて』


三郎「(マスクは仮面、普通に居たのは
確かに私達に気が付かせない為
本心を言ったらそれこそ関係が崩れる。
・・しかしそれでいいのか?)」

否、そうするしか術がないのだろう。
この歌を歌い始めたのは何時からだ?
彼が、否彼女が歌って自分に言い聞かせる様に
歌って気を紛らわせ出したのは、
それをやらせているのは一体何時からだ?
それをやらせてしまっているのは誰なんだ?

その現実に胸がズキズキと痛み始める
その痛みは恐らくまだマシなのだろう
彼女が痛ませてしまった気持ちと比べると


『ココロもっと失くして頂戴 
ココロもっと壊して頂戴
ココロほら ズキズキ鳴き出して 
JOKER(バ バ)バラバラ

ココロもっと穢して頂戴 
ココロもっと汚して頂戴
ココロほら 胸の傷えぐってみたりして』



然し見えたのは嬉しそうに歌う都佑の姿だった
胸に手を当てている姿は確かに痛そうだ
なのに嬉しそうに笑って歌う

何故だ?何故其処まで嬉しそうに笑うんだ


勘「(歌って素直になってるのかな?
俺らや秋月にさえも素直に口をきかないって
前に聞いたことがある)」

三郎「(恐らくそうなんだろうな)」





『抜けない 抜けたい 抜け出せない 
消えたい 消えない 消えたくない
群がる風評 非道徳 生き方 
見失って理性OFFって』

この現状から抜けたいのに抜けれない
この現状から自分を消してしまいたいのに消せれない

自分の評判、それは人にとって悪い事
生き方も見失って理性も切って


『何も届かない 誰にも届かない 
痛いの飛んでけ 痛いの飛んでけ
前も見えない 歪みきって目眩 
痛いの飛んでけ 痛いの飛んでけ』


自分の声も届かない、誰にも気持ちも届かない
だからこの痛みは飛んでいけばいい
前も見えない、歪む現実に眩暈がする
でも痛みは飛んでいけばいい
そうして全て飛ばしてしまえばいい

痛い気持ちを飛ばすために
彼女は歌う、歌い続けるのだろう
勘右衛門の手に力が入る



『ココロもっと無くして頂戴 
ココロもっと壊して頂戴
ココロほら 拠り所 失くして 
JOKER(バ バ)バラバラ

ココロもっと怪我して頂戴 
ココロもっと巣食って頂戴
ココロほら 感傷に浸って 
笑ってみたりして』

その笑顔に等々我慢が出来なくなったのか
勘右衛門が飛び出した
それに三郎も入ってみると
都佑の表情は何も変わらずに音を紡ぐ。
おいおい、居ても歌うのか・・


『僕はずっと笑い続け
囚われた箱庭に
だから僕は傷を隠すの
君の為に ねぇ』

それは誰かに言い聞かせる為の言葉に聴こえた
眼は開かれたと思ったら閉じ、そして開かれる
その眼は何かを決意したような、不安とは違う
そんな、眼に止めろと止めたかった


『ココロもっと失くして頂戴 
ココロもっと侵して頂戴
ココロほら 奥までくりぬいて
くるしくて』

眼を閉じて首を横に振る都佑に

勘右衛門も三郎と同じ事を
考えていたのか手を出そうとする
がしかし三郎が直ぐにヤメロと手を出す

もしも止めて都佑が壊れたらどうする
しかしこれで壊れない筈がない
2人はもうどうしていいのか分からなかった



月明かりが差してきたその時だった

都佑の眼が開かれて笑って歌いだした
涙を流しながら、胸に拳を作り、
何かを握っている様にも見える
確かに傷ついていた
確かに傷ついていたのだ

然し彼女は、傷ついても尚笑っている
それは一種の呪いかの様に・・・


『痛いよ もう 許して頂戴 
痛いよ ねえ 助けて頂戴
痛いよ ほら ズキズキ泣き叫んで 
JOKER(バ バ)バラバラ

痛いよ もう 楽にして頂戴 
痛いよ ねえ 救って頂戴
痛いよ ほら 腕の傷えぐって

いなくなりたくて…』


その言葉に直ぐに身体が動いてしまった
三郎は勘右衛門を離してそのまま都佑の前に腰を降ろす

ほろほろと涙を流しながら声に出さずに
口を開けて閉じて言う「どうして?」と
恐らく私達がどうして此処に居るのかを聞いているのだろう







三郎「都佑が何処かに行くのを見たんだ。
丁度委員会の帰りで、庄左エ門達に都佑を頼まれた。」

勘「後を付いて行ったら付いて行ったで
なんか訳分かんない歌歌ってるし、哀しそうだし
もうなんか、ごめん」


「そんなことないよ」そう言っているらしい
然しその肝心な声が聞こえない
何故喋らない。私達に本音を言うのが怖いのか?
それとも


三郎「みられたく・・なかったよな、すまない。」

『・・みちゃ、ったものは、仕方がないってば』

勘「都佑、声が・・」


何時もの低い声とは違い、透き通ったソプラノ声に
勘右衛門と三郎の眼が開かれる
微笑む都佑は月に照らされ一人の女の子として生きていた


『ずっと、ずーっと。隠してたのに。
さぶろう達が私を、
都佑を見てくれるって言ったのに。
皆私を置いていくんだもの。傷付いたから
ずっと癒す為にこうやって歌うの。
傷付いた気持ちを忘れない様に』

三郎「・・すまない。ずっと、
1人にさせてしまってすまないと思っている。」

『うん、済まさない。許したくないよ。
でもね、ごめんね。私ってお人好しだからさ
許しちゃうんだ、怒ってもないしね』

そう苦笑いを浮かべる都佑を前に三郎は
膝をついてそのまま土下座する様に身体を折り
頭を床に付ける

何故お前が謝る。
酷い事を沢山したのは自分らだと言うのに
謝って済む話でもないのに何故許す

そう勘右衛門が言うと都佑は言った
何時も聞かない、本来の彼女だと思うその声で

『だって哀しいでしょう?
お友達が苦しむの見たくないの。
私は皆の笑顔が好きだから、だからいいの。
私は笑って隠せば皆笑顔になるからもういいの』


三郎「よくなんかねぇよ、
何勝手に傷ついた心を無かった事にしてんだよ
それは流石の私も嫌だ、そんな事すれば」


お前は死んでしまうではないか
身体も、心さえも

それに都佑は笑ったのだ
えへへ、と声を出して


『良いよ別に、さぶろう達に傷つくのなら
私は何度でも傷ついてやるさ。死んでも良い位』

勘「馬鹿!冗談でも死ぬだなんて言うなよ!
俺、都佑が先に死んだら怒るからな!?
傷付かせた奴も都佑も一生許さないからな!?」

そう言って勘右衛門は都佑の両肩を取って揺らす
流石の都佑もそれには驚いた顔をしたが
直ぐにへらっと笑って「それは困るなぁ」と言った


勘「そうだろ、困るだろ?
だから言うなよ、俺達がもういるから、
ずっと傍に居てやるから・・・」

『困るけど、ずっとはいいよ?』

三郎「なんでだ?まだ私達の事が」

信用できないのか?
そう聞こうとした時には
都佑は既に違うと首を横に振っていた


『ずっとはいいの。ずっとは要らない』

勘「でも」

『だって何処かで別れるから
だからいいの。傍に居るって分かればいいの。
だってさ、そう想わないと』

君らだってまたあの人みたいに消えてしまうんだろう?

そう言った都佑に三郎はあの人?と声をあげる
都佑はしまったと言う様な顔をしてそっぽを向く
勘が直ぐに教えてよーと顔を近づけるにたいして
都佑は近い近い!と首を更に曲げようとする
正にその行動は小動物

ちょっとじたばたし始めて悪いココロが出始めた
勘右衛門を遠ざける。
うん、そんなに嬉しそうにするな、反応に困る。



『昔にね、歳は覚えていないけど、両親が生きていた頃
楽しかったんだけど、両親が本当は殺されて別の家族に
引き取られてしまったの。
それに囚われているっていうのもあるけど・・うん』


三郎「嗚呼、なんか、すまん」

勘「なんか俺ら、謝ってばかりだね
よし!気合い入れ直し!!」

そう言って勘右衛門は両手で頬を叩いた
そのまま胡坐をかいて自己紹介し始めた



勘「改めて、俺の名前は尾浜勘右衛門!
好きな物は団子!三色団子今度食べよう!」

『えと・・あの』


慌てふためく都佑は正に女の子そのもので
恐らくこれが"本来の都佑"であり素なのであろう
そう知った勘右衛門が先に自己紹介をしたのに
都佑は困って首を私と勘右衛門に向けている

それにはため息が出たが、気にしないでくれ。

三郎「はぁ、私の名前は鉢屋三郎。
好きな物は特にないが、変装が得意だ。
勘右衛門の言う事は素で受け止めるなよ?」

『お、おお!素で受け止めてはいけないのか!ほうほう!!』

勘「ちょ?!三郎!都佑に変な事吹き込まないで!!」

『ひゃっ!?/////』

そう言ってさらりと半裸の、しかもサラシも
きちんと巻いていないので
小さいが胸がふわふわとしている感触に
勘右衛門が「ふわふわ?」と言った


まぁ簡単に言うと軽く抱きしめている形になるのだ

その瞬間私はプチンと切れて手裏剣を都佑に当てない様に
勘右衛門だけに当てる事だけを考えていた
勘右衛門がよせよ!と言った後にやらなきゃよかったと
呟いても後の祭りだ


か弱い都佑を悪いうどんが触るんじゃない













なんでもいいよ、頼ってくれたらそれで。
(優しい決意と共に)


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