『薄狼チョーカー?』
「ええ、最近体調も精神面も落ち着いた様なのでそろそろ
其方にも手を出して良いかと思ってね」
そう呼ばれて早々に聞いた言葉に眉を寄せた
土方らが付いていくと言って聞かなかったのだが
医者から丁重に断った事に後には何も言わずに従った
『アレかな?タリスマン的な?』
柏木「極端に言うと増量系のチョーカーと
力を出さない様に無効にするチョーカーがあるんだよね」
『あっ無視ですかいスレイ○ーズ無視ですかい』
柏木「二つのチョーカーの役割が交わらないために
増量系は金を無効系は銀を使ってるけど形も紐も
全部君の好きな形にしても良いからね。」
『マジかーまど○マ○カみたいな雫形とかもいいねぇー』
柏木「じゃ、涙が回収出来次第でチョーカーもどき
作る方向で今日はおしまい。帰っていいよ」
『あっ無視ですかい魔法少女系も無視ですかい』
そう紙を渡してきた内容に固まり動きがオイルの指していない
錆がついた様な都佑に苦笑いで答える
増量系&制御系チョーカーの作り方:
自分の血500ml、質の高い布(ビクーニャや絹)、自分の涙1000ml
+金(増量系)or銀(制御系)共に3g
その桁違いの量に顔が青ざめて卒倒しそうになる都佑
チョーカーの材質がとんでもないことに驚いたのだ
大体血と涙を1:2の割合で入れると出来ると説明が始まり
話は数十分程で終わった…終わった?
終わったと言うよりかは半分どうでもいい様な態度だった気がするが
まぁ仕方がないだろう、私の今のテンションは
前世の沖田総悟位の年齢時だもの。
そう軽く受け止めた都佑は
少し暑い日差しを手で眉に置いて目に日陰を作り歩き始めた
『どっちを取るかだよな
ってかもう接種する方向に向いてるけどな』
普通の人間ならば年齢体重が適応すればすぐに500位は出せるのだが
狼族の人間は食が細いし、特に薄狼は前世の体型に沿っている時期もある
と言うか本や親から聞いた話だし、別に自分はどうでも良いと思っていたので
其処ら辺曖昧で生きてきたのだから接種云々の前に情報が少なすぎて
yesしか自分の判定は無かったりする。
都佑の場合は特に前世の身体となれば血の量が少ない
今世ならまだ身長が20p程高いのだが前世はマイナスが付く
勿論体重だって10や20も違う訳でして、此間から
「おめぇチビなんだな」と某隊長に鼻で笑われて軽い喧嘩になった程だ
本当にチビらしく、その日たまたま万事屋のメンバーと出くわした時
あの神楽ちゃんよりも身長が低かった
そりゃあ前世の身長はたったの148しかなかったので
155の神楽からすると少し下に居る位だろう。
威厳も糞もへったくれも無くなって本当に落ち込みそうだった
そんな時に銀さんから「大きくなりゃ大丈夫だろ」って
イチゴ牛乳出された時は軽く腹立って股間蹴ったけど。
更に体力の低下云々と出していけばキリがないのだ
確実に日が沈む、いや、私の説明の短縮能力が弱いので
無駄な会話込みで日が沈む。
どちらにせよやっておいて損はない事は確かだ
自分のチョーカーを作れば術の攻撃力&回復力は倍以上になるし
何時もは渋っていた術の効果時間や発動時間が一気に短縮される。
まぁ其処ら辺は自分の当日の体調管理とチョーカーの血液と
涙の量も左右されるが、今回はお試し感覚で血液と涙の量を
半分にしてやってみる事になった
なったのは良いのだ
それは良いのだ
では何に不満がある?
この胸の縋る感情は”何”だ?
『…不満なんて、私が持つ価値も無いだろうに』
あの鬼とも呼ばれている土方でさえも
都佑の笑顔に微笑み返す様になった
その眼が何処か寂しそうに揺らいだ時は
そりゃもう、胸が痛んだ。
私は察知能力が前世では特に高く
人の行動や思考に敏感だった私は身体が前世の事情を事細かく
知っていくと同時に前世で培っていた察知能力の高さに頭を抱えていた
ぶっきらぼう+何処とない優しさ+残酷さで出来ていた私だが
お人好し+自己犠牲+好奇心+無邪気が特に私を変えていく
いや、正確には”元に戻っていく”のだが
『どうしたいか、に尽きるんだよなぁ、やっぱり』
両手を組み頭の後ろを支えるようにして
膝を広げて空を見ながらゆっくりと帰路を歩く
空は蒼く澄み渡っていた
そう言えばあの日も蝉の鳴き声が響いていた気がする
『夏は嫌いだ』
そう日陰から日向に入って歩いている最中に
心の声が口から零れおちた
毎度毎度夏に何かが起こっている
私が夏に嫌われているのか、はたまた
私が夏に必ず何かを起こすのか
因縁云々の前に私の身体は今何処の時間軸かも分からない。
先生はああやって「調子は良くなってきた」とか
周りもいい感じだと安心しているの…だが
実はソレが本性ではない。
『(本心の私をかなり上手く隠す様になってきた)』
そう、土方や柏木らには悪いのだが都佑は此処数日
試しにサラリと水に溶け込む白い液体の様に
前世の幼い純粋無垢な状態に一番近い仮面をつけてみた
すると上手いこと騙しきれたみたいで
それから軽く成長した様に落ち着かせて行くと
周りも安心し始めて、罪悪感を抱き始めた
それと同時にとてつもなく虚しく空っぽの様な穴が心に空いた
前世でも同じ様な事をしたことがあるのを知ってやってみたら
思った以上に上手くいってしまってもう感情も湧かない
昔(前世)にやっていた事をやると案外簡単に人は騙せた
所詮人は人で自分は自分だったという事だろう。
嗚呼、いっその事誰か私が仮面を被っている事を
直ぐに気付いて腕を取って素を暴いてくれたら…
そうしたら、私は私で居られるだろうか。
ミンミンと煩いセミの音がやけに自分の心臓を揺さぶる
嗚呼、頭が痛くなってくる
目を自然と閉じて日陰の方になっていた木の壁に腕で持たれかける
涼しい風がふわりと髪を撫でる
少し涼んでいくか、と考えた
然し此処で立ち止まれば何かいけない気がした。
はて、この感情は一体”何”だ?
『…こんな私、心配されちゃうなぁ』
今は存在するわけもない両親の事を思い浮かべる
顔も声も手のぬくもりもなんとなくだが思い出せる
この現実は本当に夢では無いのだろうか?
目が覚めると何もない、何時も通りの
畳の上から始まるのではないのだろうか?
目が覚めると喧嘩っ速い怒ってばかりの私が
生きていた時間に戻るのではないだろうか?
目が醒めたら?
嗚呼、どうか。
『…醒めないで』
肩からついてそのまま腰を下ろして頭を膝に落とした
目を瞑っていたまま眉間に皺が寄る
醒めない夢を見ていたい。
前々から前世の身体になれば不味いと感じていたが
此処まで浸食されるといよいよ私はあの場所に居てはいけない。
狼族であり薄狼である前に私は女の子だ
前世の小さな近くの物を無邪気に取り笑う女の子だ
そうだ、近くの物だけを取っていた
大きな物は、欲が出なかった。
そういえば何でだろう?
『単に欲しくなかった?』
そんな事で私は諦めないだろう。
欲しくならなくて諦める速さは認めるが
こんな欲しい以前に感じる変な感覚はおかしい
だとすれば、とても悲しい事だ。
私のまだ眠っている記憶は、とても悲しい事になる、
『(嗚呼、いよいよ駄目だこれは)』
勿論辞めようと何度も考えて辞表も作っている。
然しその後の対応を考えると
どうしても胸が痛んでしまうのでは
彼らならあり得なくはない、特に近藤さん。
真選組はとても居心地が良い
だから守りたい、守られたい
そうして幸せを感じていたい
けれど、私は穴を見つけた。
それは小さな穴だったから目を逸らした
逸らしたのがいけなかったのか、日に日に大きくなる
あの時はこんな感情をどうしたっけ
殺したんだっけ?いいや、もっと酷かった。
幼い子供で無邪気な己は恥さらしなのに
私はずっと前からこの状態を愛していた
ずっとずっと、遠い昔
蒼い空の向こう側でー
『…止めよう、切り替えろよ、私』
屯所は近いしなるべくこの感情は周りに知られたくない
こんな残酷過ぎる痛むだけの想いなんて知ったら
きっと彼らは自分の様にかみ砕いて痛みを分かち合うだろう。
嗚呼そんな事はさせたくない
私だけが感じて居れば良い
私だけが、望んで居れば良い
それだけで、もう十分じゃないのか。
父と母の手を繋いで笑っていた
あの夏の日の昼下がりの時間を
私は見えない処に脳内で描き
妄想しながら部屋に戻った
この感情は私だけが味わえたら良いと
心の何処かで決意した途端
胸がチクりと痛んだのを見て見ぬふりをして
”ホームシック”
なんて言葉は心の中に仕舞いこんだ。
+++
土方「岡本、この資料纏めてくれるか?」
『合点承知の助のあいあいさー!』
土方「返事は良いが…色々混ざってるぞ」
その日の午後からは仕事に入った
煙草に火を付けながら軽く引いている土方に
都佑はニシシと笑い特に問題ない様に振る舞い
事務系の仕事から手を付けていた
病院から帰ってきたのに土方が急にどうしても手が回らないと
かなり珍しく頼み込んで来たので自分に出来る事があれば
寧ろやってやろうと思っていた都佑は二言返事で仕事を受けた
土方「にしても本当に体調は良いのか?また何か隠して…」
『隠す隠さないがあればこんなキャラにはなってませんよ』
流石副長フォローさんだ。
勘の鋭さは私も認める位鋭いし何より頭が回る
ちょっと甘えた場所を見せてしまったので
無理しようとするのを敏感に察知して気やすくなってる
此方も此方で何故無理しようとしているのか
私が知りたい位なのだが、其処も知られない様にふるまう
そう心の底から数年前の頑固で怒りっぽいキャラが
数か月前できれいさっぱり無くなったのは痛い話だ
それに土方は煙草を吐ききった後時間を置いて謝る
『チョーカーつくlockerってなりまして』
土方「作るって言ったんだよな?な?」
『チッ』
土方「なっんで其処で舌打ちすんの!?
つーかチョーカーってなんだよ!!」
イライラしてるのか知らないが土方の口から大量の煙が出る
舌打ちしたまま都佑は都佑で返しが面白くて笑っていた
勿論手は止まることは無く、首を傾げながらも資料を整理していく
てきぱきと無駄のない動きに土方は本当に都佑が
土方らに素を出している様には見えなかった
土方自身の意見ではあるが
”人に素性がバレる位ならいっその事切腹してやる”
それ程もの恥ずかしい事なのだが
都佑は最近特に笑って話をごまかす
きっとそれは土方の意見に少しだけ近いものかと考えたが
都佑の幼少期は無邪気で天真爛漫で天然のフルコース
だったと本人が真顔で「こいつはヤベェよ」と初期に飯を
食っている最中かなり嫌そうな顔をして言っていたのを思い出す
本人が言っていた通り確かに土方らには
無邪気で幼く天真爛漫で天然に見えるが
何処かふとした瞬間にとても言葉じゃ言い難い
眼をする時を少なくとも土方は見たことがあった
資料が作業が滞っていたのは本当で
都佑に頼んだのも勿論嘘ではないが
此間神楽が言っていた事を思い出して作業最中ながらも
チラチラと様子を伺っていた
”あの性格は必ず無理してるネ、前も無理してたけど
今は巧く無理を隠して生活してるヨ”
前に土方に会った神楽がそう言った読みは
本当に当たっており
都佑の眼はふとした瞬間本当に瞬き程度の
かなり短い時間に闇を落とす
勿論こんな事を聞くと本人の性格であれば
「なんでもないですよ!」と笑って返して更に警戒して
そのふとした瞬間さえも見せなくなる可能性はかなり高い
そう踏んだ土方の行動はとにかく”様子見”なのだ
そうチラチラ見ていたのもあってか
当の本人がすぐに嗅ぎ付けて土方の考えを見抜いてくる
『…何か私に気になる事を誰かに言われましたか?』
土方「いや?何も?」
『…前に話したか知りませんが、私結構敏感なんで
行動するなら…いや話す時間も惜しいんで暫く
仕事に集中してくださいね。』
そう言い切ってそのままパソコンから目を離さなくなった都佑
どうやら集中の沼に身体を引きずり降ろして
目先のこと以外考えずに逃げ切ったと思っているのだろうか?
土方「(敏感過ぎんだろ…動揺は隠したが、ありゃ多分バレたな)」
土方の言葉を少し考えて言葉を返して集中した都佑だ
彼女が敏感と言ったのは恐らく勘が鋭い方だろう。
然し敏感だからと言って自分の言われた事までは知らないだろうが
もし、もしもだ
其処まで”知れる”とすれば?
土方「(お前は一体どんな一生を送ったんだ)」
平和と聞いた世界だが、彼女の敏感さが本当なら
彼女の幸せに平和の世界はなかったのかもしれない
殺気やその他攻撃術に関しては此方(現世)で培ったらしいが
それにしては前世の性格として見て余計に驚くことがある
平和な世界ならのんびりした性格にもなっておかしくはない。
危機察知能力も全て落ちると思っていた土方だが
本人を見て話してすぐにそんなことは無いと感じ取った
寧ろ
土方「(危機察知や洞察力が極めて高い…
こりゃガチでマジにならんと悟られるのは早いって事か)」
ただ、その洞察力の高さに
人並みならぬ事があったと推測するが
手が止まっていた事をふと思い出し
この事は後にしよう
そう筆を取った土方は
そのまま記憶として残さず忘れてしまい
後悔することになるとは
今はまだ、知る由もなかった